◯三枚おろし・改札口の舞
「電撃がウザいわね……。リズ、近づけないぞ!」 「くっ……! 痺れて筋肉が硬直すると、解体の手元が狂うわ!」
水没した地下鉄ホーム。リヴァイアサンが放つ高圧電流に、俺たちは苦戦していた。 その時、改札機の上にいたジョーカーが叫んだ。
「任せなボス! 俺がこの駅の『排水システム』をハッキングして、水を抜いてやるよ! 水がなけりゃ電気も通らねえだろ!」
「ほう、たまには役に立つじゃねえか! やれ!」
ジョーカーが端末を操作する。 カチャカチャッ……ターン!
「完了! ……あ、やべ。逆だった」
「逆?」
ゴゴゴゴゴ……ッ! 排水溝が開く音ではない。
上流のトンネルから、濁流が押し寄せてくる音だ。
「『注水モード(洗浄)』にしちゃった☆ テヘペロ!」
「「「テヘペロじゃねええええ!!」」」
ドッパァァァン!! 鉄砲水がホームに流れ込み、水位が一気に胸元まで上昇した。 しかも、悪いことに――
「あ、あれ見て! 水と一緒に、上流の『汚水処理場』のタンクが流れてきたわ!」
シルヴィが絶望の悲鳴を上げる。 汚染されたヘドロタンクが、リヴァイアサンのいる水域に混ざり込む。
「ギャオオオオオッ!!(ヘドロを浴びて凶暴化&毒属性付与)」
リヴァイアサンの体が紫色に変色し、放つ電撃に「猛毒」が追加された。
「最悪だ! 感電したら毒死するぞ!」
「違うわアッシュ! もっと最悪なことになってる!」
リズが青ざめた顔で叫んだ。
「ヘドロを吸い込んだせいで……身に『泥臭さ』が移っちゃったじゃない!!」
「「「そこかよ!!」」」
「許せない……! ジョーカー、減給よ! そしてリヴァイアサン! 泥抜きのために、血の一滴まで搾り取ってやるわ!」
ジョーカーのせいで、難易度(と食材の下処理の手間)が跳ね上がった。
リズの要求は過酷だった。
爆発も炎も使えない。相手は電撃を放つ巨大ウミヘビ。
しかし、食欲に支配された料理人は止まらない。
「鱗が邪魔ね……。ジョーカー! 鱗を剥がして!」
「へいへい! 鱗剥がしなら任せな! 一枚につきマナ硬貨100枚で売れるからね!」
ジョーカーが曲芸のような動きで触手を避け、ナイフでリヴァイアサンの鱗を器用に弾き飛ばしていく。
露出した透明な白身。
「そこッ! 『秘剣・薄造り(ウスヅクリ)』!!」
シュパパパパパッ!!
リズの中華包丁が、肉眼では捉えられない速度で閃く。
リヴァイアサンが悲鳴を上げる間もなく、その胴体の一部が、向こう側が透けて見えるほどの薄さにスライスされていく。
「な、なんだあの技……。敵のHPを削りながら、同時に盛り付けまでしてやがる……」
俺は呆然と見守るしかなかった。
スライスされた肉片が、空中で踊り、綺麗に並んでいく。
「でもまだ動いてる! しぶといわね!」
「アッシュ! 消毒! 中から消毒しないと!」
「待てシルヴィ! 焼くなよ!? 絶対に焼くなよ!?」
シルヴィはガタガタ震えながら、ポケットから大量の瓶を取り出した。
「これなら……これなら文句ないでしょ! 『特製わさびエキス(殺菌作用500倍)』投下ァ!!」
彼女が投げつけたのは、変異植物『マッド・ワサビ』の濃縮液だった。
瓶がリヴァイアサンの傷口で砕け散る。
『ギシャアアアアアッ!!!』
リヴァイアサンが悶絶した。
傷口にワサビ。それは生物にとって最も根源的な拷問だ。
あまりの激痛と辛味成分に、怪物の神経がショック死寸前になる。
「今よ! 神経締め!」
リズが跳躍し、怪物の眉間(にある急所)に、細長いピックを突き刺した。
ズプッ。
巨体が痙攣し、白くなり、動かなくなる。
だが、心臓はまだ動いている。鮮度を保つための、完璧な「活け締め」だ。
「ん……完璧」
(((合掌)))




