◯移動要塞マッド・キッチン号
俺たちの足となるのは、軍用トラックを改造したキャンピングカー、通称『マッド・キッチン号』だ。
後部荷台がまるごと厨房に改装されており、強力な換気扇と、2000℃超える高火力を維持できる特殊コンロが搭載されている。
「ジョーカー、ルートはどうなってる?」
「んー、最短ルートは水没してるね。ボートで行くか、旧高速道路の高架を綱渡りするか」
「高架で行こう。水の中は変異魚の巣窟だ」
ハンドルを握る俺の横で、助手席のシルヴィが除菌スプレーをシュッシュと撒いている。
「アッシュ、ハンドル消毒した? シフトレバーは? 私の座席のシート、ダニがいないでしょうね?」
「さっきお前が『浄化』魔法かけて、シートごと燃やしかけただろ。新品同様だ」
「うう……外気が汚い……。早くネオ・アララトの無菌ドームに行きたい……。
あそこならマスクを外して深呼吸できるはずなのに……」
シルヴィのモチベーションは「衛生」だ。
彼女にとって、この旅は「巨大な公衆トイレからの脱出」と同義らしい。
その時、車体がガクンと揺れた。
「あら? いい揺れね。出汁を取るのにちょうどいいわ」
後部のキッチンからリズが顔を出す。
彼女の前には、巨大な寸胴鍋。中には、さっきのスライムの残骸(出汁用)が煮込まれている。
「リズ、次は『椀物』だろ? スライム汁はちょっと……」
「安心してアッシュ。椀物の主役はこれから『現地調達』するのよ」
「現地調達?」
リズが窓の外を指差す。
高速道路の高架下。濁った水面から、泡がブクブクと湧き上がっていた。
「来るわよ……! あの泡の大きさ、水面の揺れ……間違いなく『甲殻類』の反応だわ!」
「いやいや、なんで俺達の稼ぎ半年分のソナーより正確なんだお前は!」
ザバァァァン!!
水柱と共に現れたのは、装甲車サイズの巨大なカニ――『変異重装蟹』だった。
右のハサミが異常に発達し、まるで重機のアームのようになっている。
「キシャァァァァッ!!」
「ひいいっ! 飛沫が! 汚染水が飛んできたぁぁぁ!」
シルヴィが絶叫し、反射的に杖を構える。
「汚物は消毒ぅぅぅ! 『プラズマ・ステアライザー(滅菌)』ッ!!」
バチバチバチッ!
青白い電撃がカニを直撃する。
だが、カニの甲羅は分厚く、電撃を弾き返した。
「嘘!? 私の滅菌ビームが効かない!? あのカニ、表面に『耐魔粘液』をコーティングしてるわ!」
「コーティング? ……ふふふ」
リズが不敵に笑い、トラックの屋根へと飛び乗った。
「素晴らしいわ。下処理がいらないくらいピカピカの甲羅……。それにあの動き、筋肉が凝縮されている証拠!」
リズは中華包丁を逆手に持ち、カニに向かってダイブした。




