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◯増殖する食材と、新たな旅立ち

 

「先付ぇ? いいから早く殺してよリズ! あいつが呼吸するたびに大気が汚染されてるのよ!」

 シルヴィが半泣きで杖を振り回す。


「『聖域展開サンクチュアリ』! 

絶対滅菌結界ステアライズ・フィールド』! からの――

『ハイパー・ブリーチ・キャノン(超漂白砲)』ッ!!」


 カッッッ!!!

 シルヴィの杖から放たれたのは、漂白どころか物質を原子分解する極太の熱線だった。

 白い閃光がスライムの左半分を蒸発させ、後方の廃ビルを3棟ほど貫通して倒壊させる。


「馬鹿野郎! 先付だって言ってるだろ! 炭にしてどうする!」

「だって汚いんだもん! 存在自体が公衆衛生法違反よ!」

「この世界に法律なんてねえよ! あと味方に攻撃魔法フレンドリー・ファイア撃つなっ!」


 俺は必死で瓦礫の裏に飛び込んだ。

 このパーティーでは、敵よりも味方の攻撃で死ぬ確率の方が高い。


「もう! 火加減が強すぎるっていつも言ってるでしょシルヴィ!」

 リズが噴煙の中から飛び出した。

 彼女はスライムの残り半分――まだ再生しようと蠢いている核の部分――へ肉薄する。


「素材を殺すのは熱じゃないわ……愛(包丁)よ!」


 ザシュッ、ザシュッ、ザシュシュシュッ!

 目にも止まらぬ速さ。

 リズの中華包丁が、スライムの核へ肉薄し神速に切り刻んでいく。

 それは戦闘というより、神がかった調理技術パフォーマンスだった。

「いいぞリズ! スライムの核が露出した! そこを削ぎ取ればクリアだ!」


 俺の指示に、リズが包丁を構える。  

 だが、その横でジョーカーが妙な動きをしていた。

「おいジョーカー! 余計なことをするな!」

「大丈夫だってボス!おっ、あんなところに『制御コンソール』があるじゃーん。あの中に、戦前のレアメタルあるかな~ポチッとな☆……」

 それは配電盤の『緊急増殖・培養モード』のスイッチだった。  

 その瞬間、スライムの体がドクンと脈打った。


『警告。培養液を投与します。成長率、4000%』


 機械音声と共に、給水塔から謎の緑色の液体がスライムに降り注ぐ。  ズズズズズ……ン!!!  軽自動車サイズだったスライムが、一瞬でビル全体を覆い尽くすほどの「巨大ゼリー要塞」へと膨張した。


「ヒャハッ! なんかデカくなったぜボス! レア度アップだ!」

「ふざけんなぁぁぁ! CランクがSランクになってるだろ! これじゃ屋上が崩落する!」

 俺の絶叫に対し、リズだけは目を輝かせた。

「ジョーカー……! あんた、最高よ! 「「「はぁ?」」」 これだけデカければ……『食べ放題』じゃない!」

 巨大化したスライムの触手が、俺たちを津波のように飲み込もうとする。  


 ジョーカーのやらかしは、アッシュの寿命を縮め、リズの食欲を増幅させ、シルヴィは気絶していた。


「消化液の袋を摘出! 毒素のある外皮を剥離! そして一番美味しいコアの部分を……複数におろしッ!」

 リズのモチベーションが限界突破した。

 巨大化によって肉質が緩んだスライムを、リズは「ふぐの身欠き(さばき方)」の要領で解体していく。

 ドサッ。

 綺麗に切り分けられたプルプルの透明なブロックが、コンクリートの上に転がった。

 スライムは絶命し、ただの「食材」へと変わった。


「ふぅ……いい仕事したわ。ジョーカー、例の『魔導冷蔵庫マジック・フリーザー』を持ってきて。鮮度が落ちないように真空パックして保存よ」


「畜生め(意味が通じない動物、さらにいうと頭おかしい)どこがだ! ビルが半壊してるし、俺の髪の毛が焦げたぞ!」


 後片付けの最中、ジョーカーがスライムの中から古い防水コンテナを見つけた。

「ボス、見てよこれ。電子地図だ。『極秘避難都市:ネオ・アララト』……北の高い山脈にある楽園ドームらしいぜ」


「昔、聞いたことあるぜ。北の高い山脈に作られた、選ばれしエリート様だけの楽園ドームだ。そこに行けば、こんな汚い泥水じゃなくて、ミネラルウォーター風呂に入れるらしい。・・ああ。それに、培養プラントには、ウイルスに侵されていない『純潔の野菜』や『至高の牛肉』があるとかないとか」


 その言葉に、リズとシルヴィが同時刹那に反応した。

「無菌室……? 滅菌されたお風呂……?」(シルヴィ)

「純潔の野菜……至高の牛肉……!」(リズ)


 リズの目が、スライムの時以上にギラリと光った。

「……純潔の、食材。懐石コースのお酒の肴(強肴(しいざかな))にふさわしい響きね」


 俺は頭を抱えた。

 嫌な予感しかしない。こいつらの欲望に火がついた時の行動力は、大崩壊(グランド・コラプス)並みなのだ。


「アッシュ、決定よ」

「一応聞くが……何がだ」

「このスライムはただの『先付』。ネオ・アララトへ行って、フルコースを完成させるわよ!」

「いや待て、そこは大国の軍隊が守ってる要塞だぞ。俺たちみたいな野良ハンターが入れるわけが……」

「入るんじゃないの。――『食べに行く』のよ」


 リズはスライムのブロックを鍋に放り込みながら、獰猛に笑った。

 シルヴィは「無菌室……無菌室……」とブツブツ唱え、ジョーカーは「こりゃあ面白い見世物になりそうだ」とジャグリングを始めている。


 世界は融けて沈んでいる。

 だが、こいつらの食欲だけは、膨らみ続けているらしい。


 リズが電子地図を奪い取り、高らかに宣言する。

「決定よ。このスライムはただの『先付』。ネオ・アララトを目指しながら、その道中で究極の懐石フルコースを完成させるわよ!」

「……わかったよ。行けばいいんだろ、行けば」


 俺は諦めて、スライムの入った鍋の火加減を見た。

 意外と、いい匂いがしてきやがった。


 こうして、世界を股にかけた、とんでもなく迷惑な「懐石コース」巡りが幕を開けたのだった。


【被害者の会代表・アッシュ氏による開会宣言】


アッシュ「おい、誰か聞いてくれ! 俺のパーティがおかしいんだ!」


リズ「何言ってるのアッシュ? さあ、あそこに美味しそうなスライム(魔獣)がいるわよ」


シルヴィ「汚い! 消毒よ! 半径5kmごと消し飛ばしてあげる!」


ジョーカー「おっ、あそこに『押すな』って書いてあるボタンが……ポチッとな☆」


アッシュ「……これだ。毎日これなんだ。 世界が滅んだ後、俺たちが求めているのは平和じゃない。

『本醸造醤油』だ! ツッコミが追いつかない! 物理法則も仕事してない! そんな俺たちの、胃に穴が空きそうな冒険日誌が公開されちまったらしい。


頼む、誰か俺の『ツッコミ』を手伝ってくれ……! あるいは胃薬を差し入れしてくれ……!」

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