◯スライムは煮凝りの夢を見るか
かつて東京と呼ばれた場所。ビルの屋上に這い上がってきたのは、半透明の巨体『古代粘菌変異体』だ。
永久凍土から蘇った細菌が集合し、獲物を捕食する動く消化液がゼリー状の粘性体となったものだ。
「ヒィィィッ!! な、なにあれェェェ!」
悲鳴を上げたのは、魔導防護服を着込んだ潔癖症の聖女、シルヴィだ。
この防護服一着で俺達一年の稼ぎがぶっ飛ぶシロモノだ。
「汚い! 不潔! 粘液とか無理! 半径5キロメートル以内の空気を全部入れ替えないと死んじゃう!」
「落ち着けシルヴィ。あれはただのスライムだ」
「見なくてもわかるわ! あいつの周りに未知のウイルスが漂ってるのが!」
「顕微鏡かっお前は!」
シルヴィがパニックを起こし、杖の先端に過剰なマナを溜め込み始める。
マズい。彼女の「消毒」が始まると、このビルごと消し飛ぶ。
「ステア(待て)! 素材を黒焦げにする気!?」
鋭い一喝が、屋上に響いた。
シルヴィがパニックで広域殲滅魔法を撃とうとするのを、リズが止める。
ドンッ、とコンクリート床を踏み砕き、割って入ったのはエプロン姿の女、リズだ。
彼女は眼光鋭く、スライムを睨みつけた。
「素材? ただの汚物よ!」
パニクっているシルヴィには取り合わず、リズはアッシュに向き合う。
「アッシュ、鑑定結果は?」
「あー……強酸性の消化液を持つCランク変異体だ。触れれば骨まで溶けるぞ」
「ノンノン、そうじゃないわ。私が聞いているのは『味』よ」
「いやいや知るか! 食えるわけないだろあんな劇物!」
「よく見てアッシュ。あの透明感。不純物が濾過された純粋なコラーゲンの塊……。今の気温と湿度で、熟成具合は最高潮よ」
リズは巨大な中華包丁を抜刀した。
「決まりね。今日のコース料理、記念すべき一品目。
『先付』は、古代スライムの煮凝り・毒消し草のジュレ添えよ!」
リズが宣言した瞬間、俺たちの戦闘のゴングが鳴った。




