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〇焼き物の味と、次なるターゲット

 

 火口から遠く離れた、安全で風通しの良い岩場。

 俺たちは、命がけで死守した熱々のステーキを囲んでいた。

 リズが手際よく切り分け、岩塩と、どこからか出した乾燥ハーブを添える。


「はい、どうぞ。焼き加減は完璧よ」


 俺は震える手で一切れを口に放り込んだ。

「……熱っ! ……旨っ!!」


 噛み締めた瞬間、口の中で濃厚な肉汁が文字通り爆発した。

 サラマンダー特有のピリッとした辛味成分が、強烈な脂の甘みを見事に引き立てている。

 そして、溶岩石で一気に焼き付けたことによる、極上の香ばしさ。

 これは、マッド・キッチン号の設備でさえ絶対に出せない、大自然(火砕流)の暴力的な味だ。


「んー! スパイシー! これ、キンキンに冷えたビールが欲しくなる味だねぇ!」

 ジョーカーがハフハフと言いながら、ぬるくなったサイダーを一気飲みしている。


 そしてシルヴィは……。


「……毛穴が極限まで開いてる今こそチャンス。サラマンダーの脂に含まれるカプサイシン成分が、新陳代謝を促進して、究極のデトックス効果を……」


 ブツブツ言いながら、肉を食べては大量の純水を飲み、信じられない量の汗をかいている。

 彼女なりの「美容サウナ療法」らしい。潔癖症のくせに、健康法や美肌のためならどんな魔獣の脂でも摂取する貪欲さだ。


「ふぅ……。極限状態で汗をかいた後の肉は最高ね」

 リズが満足げにナイフを置いた。


「さて、焼き物も終わったし。コースもいよいよ終盤よ」

「次はなんだっけ? 『炊き合わせ(煮物)』か?」

「ええ。肉が続いたから、コトコト煮込んだ優しい味が欲しいわね」

「煮物か……。食材は何だ?」


 リズは火山の麓に広がる、薄暗い湿地帯の森を見下ろした。

 そこは、異常成長した巨大植物が群生する、魔の樹海。


「煮物といえば、やっぱり『野菜』よね。……歩く野菜」

「歩く野菜?」

「聞いたことない? 樹海の奥地に、樹齢千年の『長老トレント(歩く巨木)』がいるって。その頭のてっぺんに生えてる『知恵のタケノコ』が絶品らしいのよ」


 俺はげんなりして、空になったサイダーの瓶を落としそうになった。

 次は樹海でタケノコ狩りか。

 しかも相手は、魔法を使ってくる植物モンスターの親玉だ。


「……あいつら、防衛本能で土魔法を使って、泥団子投げてくるんだよな」

「泥ッ!?」

 シルヴィが弾かれたように顔を上げた。


「嫌よ! 泥遊びなんて野蛮の極み! 私の純白のバイオ防護服に土がついたらどうするの! アッシュ、私を背負って! 絶対に地面に足をつけたくない!」

「歩け! この甘ったれ潔癖聖女!」


 俺たちは重い腰を上げ、次の猟場(しゅうかくばしょ)へと向かった。

 世界はまだまだ、美味しくて厄介で、命がいくつあっても足りない食材で溢れていた。


(第6章へ続く)


次回(来週土曜)、第6章は、炊き合わせ(たきあわせ)は、長老トレントの泥煮込み です。

「常識と物理法則が仕事していない」というアッシュの悲痛な叫びを楽しみにしてくださると嬉しいです♪

楽しみにしてるという方は、評価とブックマークぜひお願いいたします。

執筆のモチベーションのためにもお願いいたします。

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