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〇極上のステーキと、その代償

 

「いいわ……! この溶岩石プレートの熱伝導率、最高よ! 遠赤外線で中まで火が通るし、ガス代も浮くわね!」


 リズがステーキをひっくり返しながら恍惚としている。

 だが、その背後で、熱源の管理をしていたジョーカーが、火口の縁にある古びた巨大な機械式バルブに目をつけた。


「ねえボス、ここの地熱エネルギー、パイプで吸い上げて都市に横流ししたら、マナ硬貨の山が築けるんじゃね?」

「触るな! そのバルブ、戦前の地殻制御する奴だ! 錆びついてて危険な 「ちょっと回すだけだって!」」「燃料タンクを満タンにすれば、半年は遊んで暮らせる……エイッ!」


 バキッ!!

「あれれー」

 錆びついたバルブが、呆気なく根元から折れた。

 直後、山全体を揺るがす地鳴りが響き、火口のマグマが不自然に大きく波打ち始めた。


『警告。地殻内圧力が安全基準を突破しました。山体崩壊を防ぐため、緊急排熱を開始します』


 壊れたスピーカーからの無機質なアナウンス。


 いきなり噴火した。

 ただの小規模な噴火じゃない。山頂が半分吹き飛ぶレベルの、歴史的な大爆発だ。

 空を覆い尽くす黒煙。

 降り注ぐ軽自動車サイズの火山弾。

 そして、斜面を高速なスピードで下ってくる超高温の火砕流。


「ギャアアアアア! ジョーカー、貴様ァァァ!! 全員丸焼きにする気か!!」

「熱ちぃぃ熱っ! 想定外のカロリーだぜぇぇ!」

「灰が! シリカ成分たっぷりの灰が降ってくる! 私の美しい呼吸器と肺がコンクリートになっちゃうぅぅ!」

 阿鼻叫喚の地獄絵図の中、リズだけが目をキラキラと輝かせていた。


「火力が……上がったわ!」

 彼女は迫りくる致死の火砕流を背に、肉をもう一度ひっくり返した。


「これよ! この1000度を超える『フランベ』! これで表面を一気にコーティングすれば、肉汁を一滴も逃さない『究極の焼き付け』ができる!」

「料理してる場合か! 逃げるぞバカ!」

「待ってアッシュ! あと20秒! 完璧なミディアム・レアに仕上げるには、どうしてもあと20秒の加熱が必要なの!」


 すぐそばまで火砕流も来やがった。

「畜生もう間に合わん! みんなこのホットプレートに乗れ! そこのガレ場を下って下のトラックまで下りるぞ。」

「いやいや俺らもステーキになるよ!!」

「あっちの端っこはそこまで高温じゃねえ。溶岩に溶かされる前に降りるぞ」

「いやーっっっ」「死ぬー」

「「「「あちあち」」」」

 皆で飛び乗るとホットプレートの岩盤が動き出し、膝で衝撃を吸収しつつ、謎のあちあち(おか)サーフィンをやってのけ、俺たちは文字通りトラックに飛び乗り、背後に迫る火砕流と文字通りのデッドヒートを繰り広げた。

 そんな最中、リズだけは荷台の特殊コンロに乗せたステーキの熱が逃げないようアルミフォイルでくるみ、肉汁が落ち着くのを待っていた。


 この日の燃料代とオレの心拍数は過去最高値を記録し、その代償は、俺の寿命3年分に匹敵した。


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