〇下処理開始(物理)
サラマンダーが大きく息を吸い込み、さらに灼熱した青白いブレスを放った。
1000度を超える熱波が襲いかかる。
「アチチチ! ボス、焦げる! 俺のトレードマークのピエロメイクがドロドロに溶けちゃう!」
「ジョーカー! 何か冷やすものはないか!?」
「あるぜ! 途中の廃墟の土産物屋でパクってきた『ご当地サイダー(賞味期限不明)』が3ケース!」
「撒けッ! 無いよりマシだ!」
ジョーカーが狂ったようにサイダーの瓶をばら撒くが、熱波で瞬時に蒸発し、ただただ甘ったるい糖分の蒸気になった。
ベタつく! 最悪だ!
「シルヴィ! あんたの出番よ!」
リズが熱風を鍋蓋で切り裂きながら叫んだ。
「あいつの表面温度を下げて! ただし細胞を破壊する『凍結』は絶対に禁止よ!」
「はぁ!? なんでよ! 絶対零度でカチカチに凍らせて粉砕するのが一番手っ取り早いでしょ!?」
「冷凍肉を急激に焼くと、氷結晶が細胞膜を破って大量のドリップ(肉汁)が出ちゃうでしょうが! 私が求めているのは『常温(20℃)』に戻すこと! 表面のマグマだけを冷やし固めて、旨味を内側に閉じ込めるの!」
「注文が細かいのよクソ料理長ぉぉ!」
シルヴィは半泣きで杖を構えた。
「ええい、もう! 汗も泥もベタベタのサイダーもマグマも、全部洗い流してやるわ! 『ハイパー・スプラッシュ・シャワー(超高圧冷水洗浄)』ッ!!」
シルヴィの杖から、ダムの放流のような大量の冷水が噴射された。
水はサラマンダーの赤熱したボディを直撃する。
凄まじい水蒸気爆発。
視界が真っ白になる中、サラマンダーの苦悶の咆哮が響いた。急激な冷却により、体表のマグマがガラス質の黒い岩石の鎧となって急速に冷え固まり、関節の動きを著しく鈍らせたのだ。
「今ね! 『下処理(物理)』開始!」
リズが蒸気の中から弾丸のように飛び出した。
彼女が狙うのは、サラマンダーの弱点である喉元でも、心臓でもない。
一番運動量が多く、極上の脂が乗っているであろう――『尻尾』だ。
「硬いガラス質への打撃を全体に波紋がひろがるように……叩くッ!」
ガキィィィン!!
中華包丁の峰打ちが、さきほど硬化した尻尾の付け根に正確に炸裂する。
岩石の鎧に無数の亀裂が走り、剥がれ落ちた岩石の装甲の下から、霜降りの入った鮮やかな赤身の肉が露出した。
「いい赤身ね! ジョーカー、塩!」
「へいお待ち! これも土産物屋から失敬した『富士山麓・奇跡のピンク岩塩』だ!」
ジョーカーが岩塩の塊を空中に放り投げる。
リズは空中で塩を包丁の腹で粉砕し、サラマンダーの露出した巨大な尻尾の肉に、均等に擦り付けた。
「下味完了! あとは……あいつを利用して強火で仕上げるわよ!」




