〇至高の晩酌、なお次回の調理現場は「活火山」です
その夜。
俺たちは安全なビルの屋上で、車座になっていた。
中央には、綺麗に磨かれた四角い盆(元はビルの案内板)が置かれている。
小さな盆の上に、終末世界とは思えないほど鮮やかな料理が並んでいた。
「これが……八寸」
俺は唸った。
瓦礫だらけの廃墟の屋上が、高級料亭に変わった。
「さあ、召し上がれ! これはお酒が進むわよ~!」
リズが上機嫌で勧めてくる。
俺たちは、それぞれコップを持った。
俺とジョーカーは、廃墟の地下から見つけた日本酒。
封を開けると、4年ほどの歳月を経て琥珀色に熟成された芳醇な香りが漂う、保存状態の極めてよい本物の日本酒だった。
リズは調理用白ワイン。
そしてシルヴィは……。
「……アルコール度数96%。よし、これなら体内に入ったかもしれないバジリスク菌も完全に死滅するはず」
工業用アルコールに近いスピリタス(一応飲用だが、引火するレベル)をロックで持っている。
「乾杯!」
まず、バジリスクの卵。
味噌床で熟成させた白身は褐色がかった琥珀色へ変わり、黄身はねっとりと濃い橙色に凝縮している。
少量を舌へ乗せるだけで、卵黄の濃厚なコクと味噌の熟成香がゆっくり広がった。
「なんだこれは、ねっとりしやがる。」
炙ったスカイ・エイのヒレは、表面が香ばしく、中はむっちり。
噛み続けるほど旨味が増す。
カリッとした食感の後、噛むほどにエイヒレ特有の濃厚な旨味がジュワッと広がる。
そこにすかさず日本酒を流し込む。
「……くぅーっ! 最高かよ」
「でしょ!? マンドラゴラも食べてみて! 毒性を抜いたから根っこには強烈なアルカロイド系の滋養強壮効果があるのよ!」
次にマンドラゴラの蕾。
薄衣は歯を当てただけで、サクッ、と軽い音を残して砕ける。
中はほろ苦く、春の山菜を思わせる青い香り。
その苦味を追いかけるように、噛むほどほのかな甘みが現れる。
「くぅっっ・・も凄すぎる」
そして熟成させたバジリスクのササミ。
梅肉の酸味が淡白な肉の甘さを引き立て、一口ごとに酒が欲しくなる。
「はぁ……これ全部、ついさっきまで殺意満々だった生き物だよな?」
ジョーカーは卵の味噌漬けをちびちび食べながら、「これ、街で売ればビル一棟買えるなぁ」と下世話な計算をしている。
シルヴィは顔を真っ赤にして、度数96%の酒で千鳥足になりながら滋養強壮効果も相まってハイになって踊り始めた。
「菌が……菌がアルコール消毒で死んでいくのがわかるわぁ……! 私、今すごく体内が綺麗……!」
「ああ、内臓はピカピカの無菌室だろうな」
「消化酵素や善玉菌も死んだだろうけどね」(笑)
とジョーカーが突っ込みながらアッシュのグラスに酒を継ぎ足し肴もとって甲斐甲斐しく振舞っていた。
いつもは「食材!」と叫んで狂ったように包丁を振るうリズが、火の番をしながら、静かに肴と白ワインを吞んでいた。そして時折下ごしらえに使う古びたペティナイフをそっと眺めていた。
シルヴィだけは眠りの世界に旅立ったようだ。
月明かりの下、奇妙で静かな宴会は続いていた。
懐石コースも折り返し地点。
次なるメニューは、メインディッシュの一つ、『焼き物』だ。
「アッシュ、次は豪快に行きたいわね」
「豪快に?なんかもの凄く不穏な言葉に聞こえるが・・。」
「そう。炭火で、ジュワッと、塊肉を! ……例えば、活火山の火口に住む『サラマンダー』のステーキとか!」
俺は飲みかけた酒をジョーカーに向かって吹き出した。
「汚いなぁボス。燃料一日分がパァだぜ」
おいおい次は火山かよ。
極寒、水没、空中、そして火山。
まったく、このグルメツアー、クリアするためのハードルと環境負荷が高すぎだぜ。
次回、第5章は、焼き物 は、サラマンダーの溶岩石焼き です。
「胃薬と常識を求む」というアッシュの悲痛な叫びを楽しみにしてくださると嬉しいです♪
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