〇鏡面仕上げは伊達じゃない
バジリスクが大きく息を吸い込んだ。
紫色の毒ガスブレス――『石化の吐息』が放たれる。
「汚物は消毒ぅぅ! 『超高圧洗浄』 ッ!!」
シルヴィが杖から物理的な破壊力を持つ超高圧の純水流を放つ。
毒ガスと水流が衝突し、空中でジュワジュワと音を立てて中和される。
「くっ、ウイルス粒子が細かい! 完全に洗い流せないわ! このままじゃ私の美肌が角質化(石化)してガサガサになっちゃう!」
「心配無用シルヴィ! 私が守ってあげる!」
リズが前に出た。
彼女が背中から抜き放ったのは、巨大な「鍋蓋」だ。
熱伝導率と魔法耐性に優れたミスリル銀で作られ、リズが毎晩鏡のように磨き上げている愛用の蓋である。
「石化光線なんて、反射してしまえばただのライトよ! 『リフレクション・クッキング』!」
バジリスクの目から放たれた石化の魔眼が、ピカピカの鍋蓋に見事に反射し、そのままバジリスク自身へと跳ね返った。
「!?」
バジリスクの左翼が、一瞬で灰色の石へと変わる。
自爆だ。
「ナイスだ。リズ! 畳み掛けるぞ!」
「待ってアッシュ! まだ倒しちゃダメ!」
ライフルのボルトを引いた俺を、リズが制止する。
「八寸は『彩り』が大事なの! 卵だけじゃ地味すぎるわ! あいつの尻尾、あれは高級食材『蛇肉の燻製』になるし、翼の軟骨は『唐揚げ』に最適……。部位ごとに丁寧に解体しないと、全身が石になっちゃって食べられなくなるわ!」
「注文多いな! 戦ってる最中だぞ!」
リズは鍋蓋をフリスビーのように投げつけた。
回転する蓋が、バジリスクの石化した翼を粉砕し、体勢を崩させる。
「アッシュ、援護して! バジリスクの卵(推定売価:マナ硬貨5万枚)に傷がついたらタダじゃおかないわよ!」
「わかってる! だが弾薬もタダじゃないんだぞ! この『対装甲用スパイス弾』一発で、今日の晩飯の缶詰が買えるんだ!」
カネと食欲、二つの欲望が交錯する中、俺は引き金を引く。
だがその時、庭園の奥で「ゴゴゴ……」という嫌な音が響いた。
「ヒャハッ! 見ろよボス! この石像の台座に『緊急散布装置』って書いてある! たぶんこれ、石化を解く『特効薬の霧』が出るやつだぜ!」
ジョーカーが、庭園の中央にある女神像のスイッチを勝手に押していた。
「待てっっジョーカー! 嫌な予感がする!」
「大丈夫だって! これでバジリスクの石化攻撃も怖くない……ポチッとな☆」
猛烈な勢いでピンク色の霧が噴出した。
だが、それは俺たちを守るためではなかった。
『セキュリティ・システム起動。侵入者を排除するため、保管していた『古代の狂戦士』たちを解凍します』
庭園に飾られていた数十体の「石像」――かつてここで石化され、休眠状態になっていた古代の兵士たちが、一斉に解き放たれた。
「うおおおお! 殺せぇぇぇ!!」
「敵だ! 敵はどこだぁぁ!」
復活したバーサーカーたちは、数百年の眠りで完全に錯乱しており、敵味方の区別なく暴れ出した。
「ふざけんなジョーカー! 敵が増えてるじゃねえか!!」
「いやー、賑やかになったね(笑)! あいつらの装備、博物館級のレア物だよ!」
「きゃぁぁぁ! ゾンビ!? 数百年お風呂に入ってない半生の人間が襲ってきたぁぁ! 不潔よぉぉ!」
バジリスクに加え、古代兵士の軍団との大乱戦。
そんな阿鼻叫喚の地獄の中で、エプロン姿のリズだけが冷静に包丁を構えていた。
「手間が省けたわ。……兵士たちがバジリスクの体力を削っている間に、私が卵をいただく! これぞ『漁夫の利』作戦よ!」
「ジョーカー! あいつの気を引いて! その隙に私が後ろから『卵』を頂くわ!」
「了解リズ! へいへい、チキン野郎! こっちだよ! お前の母ちゃん、焼き鳥缶詰!」
ジョーカーがお手玉(中身は手榴弾)を投げつけ小爆発させながら挑発する。
怒り狂ったバジリスクがジョーカーを追いかけ回す。
その隙に、リズは音もなく背後へ回り込んだ。
「失礼しまーす……」
彼女の手が、バジリスクの巣(腹の下)へと伸びる。
そこには、ソフトボール大の、虹色に鈍く輝く卵があった。
「確保ッ!」




