〇空中庭園は彫像の墓場
「懐石コース」四品目、『八寸』。
それは、約24.2cm(八寸)四方の杉の盆に、海のものと山のものを一品ずつ彩りよく盛り合わせた、茶事における客と亭主が酒をいただく時の肴だ。
季節感、色彩、そして遊び心が試される、ある意味で料理人のセンスが最も問われる難関である。
「というわけで、今回は『種類』が必要なのよ。最低でも四種の珍味が欲しいわね」
リズが朽ちた観光バスの屋根で腕組みをして宣言した。
俺たちがたどり着いたのは、水没した旧横浜エリアにそびえ立つ、ランドマーク的な超高層ビル。その最上階にある『天空回廊』だ。
海面上昇から逃れたこの場所は、独自の生態系を持つ「空の孤島」と化していた。
「珍味ねぇ……。ここにあるのは、悪趣味な彫刻だけに見えるけど」
ジョーカーが、庭園の入り口に立つ「人間の石像」をコンコンと叩く。
逃げ惑うようなポーズで固まった、リアルすぎる石像。
苔むしてはいるが、服のシワや恐怖に歪む表情まで完全に保存されている。
「触るなジョーカー。それは美術品じゃない。……元・人間だ」
「どわっ、早く言ってくれボス」
俺はライフルを構え、周囲の茂みを警戒した。
石化。
それは、ここを縄張りとする凶悪な魔獣の仕業だ。
「ヒィッ! 粉塵! 微粒子レベルの石の粉が舞ってるわ! 肺が珪肺になっちゃう!」
シルヴィが防護服の透過フィルター出力を最大にする。
呼吸音が「シューッ、シューッ」と一層激しくなり、背中の高濃度ATP結晶が青白く光を放った。
「嫌よ。こんな所! 乾燥してるし、埃っぽいし! 加湿器! 無菌空間を作れる業務用加湿器を持ってきてぇぇ!」
「お前の魔法で霧でも出しとけ。……来るぞ、主のお出ましだ」
俺の警告と同時に、庭園の巨木がバキバキと薙ぎ倒された。
現れたのは、ダチョウほどもある巨大な鶏の体に、トカゲの尾、そしてドラゴンの翼を持つ怪鳥。
鶏冠の部分が、不気味な紫色の魔力結晶になっている。
『石化鶏種』。
その吐息を浴びれば細胞のカルシウムが異常増殖して石に変わり、その視線と目が合えば神経伝達物質が遮断されて麻痺する。
「クケッーーーッ!!(訳:俺の庭で何してやがる)」
「キャァァァッ! 飛沫! 石化ウイルスのエアロゾル感染よ! 濃厚接触しないでぇ!」
「ああっ! 素晴らしいわ!」
緊張感を高めたアッシュ、恐怖するシルヴィ、笑いながらも実はドキドキしているジョーカーと対照的に、リズが頬を紅潮させて叫んだ。
「「「何が」」」
「見てアッシュ! あの鶏冠の輝き! そしてお腹の下に抱えている、大理石のように美しい卵! あれこそ八寸のメイン、『バジリスクのピータン』の最高級素材よ!」
「いや絶対オカシイだろ。誰かぁ薬局へ行って俺に強めの胃薬くれ~」
「もうこの調理オタクなんとかしてぇ」
「ヘイヘイ・・・マジ?」




