◯世界はスープの表面に浮かぶクルトンのような廃墟にしがみついている
「求む:胃薬。あと常識。俺以外、全員あたおか(頭がおかしい)。」
「世界を救う? 知るか! 俺たちは『醤油』が欲しいんだ!」
「人類滅亡後のグルメハント。隠し味は『広域殲滅魔法』と『自爆スイッチ』です。」
「これは料理ではない。食欲という名の災害だ。」
「かつて、タイタニックが沈んだあと、人類は氷山の一角に怯えていた。
だが、本当に恐れるべきは、氷山がすべて溶けてしまった後の世界だったのだ。
永久凍土という蓋は開き、パンドラの箱から溢れた「古代細菌」と「魔素」、そして「水」が文明を飲み込んだ。
今や俺たちはそのスープの表面に浮かぶクルトンのような廃墟にしがみつき、ただ溺れないように必死で手足を動かしている。――うーん・・・」
「――で? そのポエム、いつまで書いてんの? アッシュ。今月の収支報告書、まだ?」
背後からかけられた声と共に、俺の書きかけの日記帳――もとい、『終末哲学的考察録』の上に、分厚い請求書の束がドサッと置かれた。現実の重みだ。
俺、アッシュは頭を抱えた。
「リズ、おい……この『業務用次亜塩素酸ナトリウム 50ガロン』って項目は」
「シルヴィよ。昨日の野営で『川の水が汚い』って言って、川ごと消毒しようとしたのよ」
「あいつの給料から天引きだ! それから、こっちの『対戦車用スパイス弾』ってのは?」
「私よ。硬い敵には、火薬と一緒に胡椒を撃ち込むと、中まで味が染みるの」
「調理費用と弾薬費を混ぜるな!」
俺たちのパーティー『ラスト・サパー(最後の晩餐)』は、表向きは凄腕のハンターチームだ。
変異体の「魔石」や「素材」を都市へ持ち帰り、換金する。
稼ぎもデカい。だが、その実態は火の車だ。
理由は明白。
一番高く売れるはずの「肉(特に希少部位)」を、自分たちで食っちまうからだ。
「アッシュ、ケチケチしないでよ。今度の『スライム』の核を売れば、燃料代くらいにはなるわ」
「そのスライムの核を! お前が『出汁が出るから』って半分煮込んだせいで! 買取価格が半額になったんだろうが!」
この世界で、まともな調味料――特に「醤油」や「味噌」を手に入れるには、小国の国家予算並みの金がいる。
俺たちが命がけで狩りをするのは、世界を救うためじゃない。
来週の食事代を稼ぐためだ。
「へいへいボス、カリカリすんなって。いい『仕事』見つけてきたからさ」
そこへ、ピエロメイクの男――ジョーカーが、ニヤニヤしながら割り込んできた。
「場所は水没都市エリア(旧東京)の屋上。ターゲットはCランク変異体。報酬は『本醸造醤油(未開封)』1ケースだ」
ガタッ! 料理長のリズが椅子を蹴倒して立ち上がった。
「待てリズ、罠かもしれんぞ」
「行くわよ。今の在庫には塩しかない。刺身が食べられないじゃない!」
こうして、食欲と金欠に背中を蹴飛ばされ、俺たちはまた地獄へ向かうことになったのだ。




