25.金継ぎの器
白磁に少し歪な金のラインが入った小振りな器。不思議な美しさがある作品だわ。
『東国に、割れた陶器を処分するのではなく、丁寧に継いで新しい物に生まれ変わらせる技法があることを知っているだろうか。
不完全な美。これを君にも見せたいと思った。受け取ってもらえると嬉しい』
とても短いメッセージ。この器にどんな意味が込められているのかは一言も書いていません。
でも、きれいね……壊れたものだなんて思えないわ。傷付いたことを隠すのではなく、それすらも魅力に変えるなんて素敵ね。
謝罪でもなく、愛を乞うわけでもなく。
それなのに、どうして、と意味を探そうとする私がおかしいのかしら。
「リーゼ、大丈夫かい?」
「お父様……」
どれくらい器に見入っていたのかしら。
お父様のノックに驚きながらも慌てて扉を開きました。
「ん?あぁ、美しいね。それは金継ぎという技法だよ。殿下からの贈り物かい?」
「ご存知なのですね」
「この国にはまだあまり入ってきていないが、印象的で覚えているよ。殿下は何て?」
「それが何も書いていなくて。どういう意図で贈られたのか分からないのです。とても綺麗だけど、本当に受け取ってもいいのかしら」
だってもうお別れした方なのに。
「殿下は今、国を離れているそうだ。旅先で知ったのかな。もしかしたら、ただのお土産かもしれないよ?」
……お父様の意地悪。お土産だなんて考えが浮かばない私を笑ってるでしょう。
「時として自分の心情にピッタリと合う作品に出会うことがあるんだ。もしかしたら、その感動を分かち合いたかったのかもしれないね」
あぁ、確かに。今の私達だからこそ心に響くのかもしれません。
殿下は国を離れたのね。それなら魔法の効果も弱くなったかしら。先にこちらの話をしないといけないわね。
「お父様、実は私も魔法に掛かっていたかもしれません。聞いていただけますか?」
それから、家族全員に話を聞いてもらうことになりました。
「本当に迷惑な話ね」
そうね、ユリアの言う通り。
「学園を辞めるかい?留学でもいいね」
お父様ありがとう。私もそうしようかと思ったわ。
「いっそのこと結婚しちゃう?」
お母様、相手がいませんよ。
みんな私に甘いなあ。ずっと弱々で泣いてばかりの情けない娘なのに。
「心配してくれてありがとう。でも、私は逃げたくない。ここまでされて許すほど優しくもないわ」
今、すごく悔しいの。ここまで人生を変えられたことに、そして、泣くばかりで少しも抗えなかった自分自身に心底腹が立っている。
被害者の私が逃げるなんて嫌よ。私はこれ以上負けたくない。
殿下がどういう思いであの器を贈ってくれたのかは分からない。でも、あの作品を見て、過去を羨むのではなく、傷や失敗すらも糧にして成長していきたいと思ったのです。
「マルティナ公女にお会いすることは可能でしょうか。すべての始まりはあの人だわ」
売られた喧嘩は買わないとね?このまま逃げてなんかやらないから。
「すっかり逞しくなったな。そういえばお前がお転婆娘だったのを思い出したよ」
「そうねぇ、王子妃教育ですっかりお淑やかになったと思ったけど、本質は変わらないわよね」
「ね?お姉様は本当は強いから大丈夫だって言ったでしょう?」
みんな好き勝手に言ってくれるわね。
「公女は幽閉中と聞いているし、すぐには難しいかもしれないが……まずは、再調査依頼からだな。前回の調査が不十分だったのが問題なんだ。こちらの要望も聞いていただかないとな?」
フフフッ、と笑うお父様がちょっと怖い。
でもそうね。絶対に調査が足りていないのよ。魔法なんて過去の遺物だから難しいのは分かるけど。
そもそもどうやってあそこまでの大規模な魔法が使えたのか。そこまでの力があるなら、いままでも色々やらかしていそうだけど、そんな話は聞かないし。
恋心はそこまでのパワーを発揮できるの?
恋愛小説みたいよね。愛の力で!ってやつかしら。でも、普通は愛の力で王子の呪いを解くとかが王道でしょうに。逆に呪ってるから困ったものだわ。
待ってなさい、マルティナ公女。呪い返しにあったからなんなの?最後まで責任持って解除してもらうから!
あと、謝罪してもらわないと気が済まないわ。許すつもりはないけど、許されないから謝らないなんておかしいでしょう。
臭いものに蓋をするように、こっそり母国に帰らせて閉じ込めるってどうなの。
だめね、コレも呪いの反動なのかしら。怒りがおさまらないわ。
公女の顔を見た瞬間殴らないように気をつけましょう。




