21.ギルベルトの独白
自分がこんなにも格好の悪い男だとは思わなかった。
今まで女の子になんか興味無かった。
笑ってるけど笑ってない淑女の微笑み?なんか怖いし。化粧とか香水とか臭いし。どうせ俺は爵位が低いし次男だし金持ちでもないから相手にされもしない。
何よりもこの学年には王子様がいる。いかにもなキラキラした男で、顔もいいし性格も悪くないし頭までいい。みんなの一番の望みは彼なのだ。婚約者がいるらしいけど、それでもチャンスを掴もうと学園中の女子は必死だ。ハンターの様な目をした女性の怖さを初めて知った。
神はあいつに与え過ぎだよな。
恵まれ過ぎで腹が立つから勉強だけは負けたくなくて必死に頑張った。まさかたかだか子爵家の人間がライバル視しているなんて考えもしないだろう。
勝手にライバル視して一年。王子の婚約者を見た。
……すごく可愛かった。顔ももちろん可愛いけど、なによりも笑顔が。あいつを見つけてすっごく嬉しそうな顔をする。政略とかじゃなく、心から好きなんだろうな。
……ずるい。どこまで与えられるんだよ。
悔しくて情けなくて。でも、見かけるとつい目で追ってしまう。俺なんかが勝てるわけないのに。
でもチャンスが訪れた。
王子が浮気をしているのだ!
馬鹿なのか?公女がどうしたというんだ。絶対にあの子の方が可愛い。それなのに、なぜか皆も公女の方を応援している。馬鹿だらけか。
ひとりぼっちで泣きそうな顔が可哀想で、でもそれすらも可愛くて。
今、優しく慰めたら、もしかして振り向いてもらえるのか?
でも、結局そんな勇気も無くて、彼女が図書室に通い始めたのを知って、顔が見える近過ぎず遠過ぎずというベストポジションを手に入れた。
俺だったら絶対に大切にするのに
心の中では言える言葉。実際は声も掛けられない。
だから彼女から話し掛けて来た時は飛び上がりそうなくらい嬉しかった。
それなのに……何様なんだ俺は!
何なのクールキャラなのか?それなのに優しいあの子は俺を仲間にしてくれた。
ヤバイ。神様、馬鹿王子ありがとう。
絶対に幸せにするから!
そんな風に独り占めできる事をひたすら喜んでいた気持ち悪い男。彼女はずっと苦しんでいたのに、自分が幸せだから何もしなかった。二人の世界が幸せだったんだ。
まさか王子があんな酷いことをするとは思わなかった。
いや、本当は異常事態だって分かってた。だって恋や愛だけであんなに人の性格が変わるのか?
ありえないだろう。
それでも。もう、彼女がいない生活は無理だ。学生の間だけでいい。側にいたかった。
まさか魔法だとは思わなかった。でも、馬鹿王子はまだおかしくないか?箍が外れてるというか……本当に魔法は解けたのか?
でも俺は教えない。今まで運が良過ぎたからこうやって搾取されるんだ。
婚約した経緯をきいた。
ケーキを食べている顔が可愛くて一目惚れ?うん、すっごく分かるよ。きっと幸せそうな笑顔だったのだろう。
男なんて単純だよ。笑顔一つで簡単に恋に落ちるんだ。そしてお前と話をしてもっともっと好きになったんだろな。
でも、俺はそのことを教えない。
マニアックな奴だな、と馬鹿にする。
もともと本当の愛なんかじゃなかったと思わせる。
だって手に入れたいんだ。彼女くらい俺が手に入れたっていいだろう?
ビアンカは大誤算だった。野生動物かよっていうくらいの勘で俺を見破った。
本当は名前すら呼べない小心者。彼女が本当は王子を許したがってるのを知っていて、あいつを貶める。
俺ははっきりそうだとは言わない。そう感じさせてただけだ。それを気付かれた。
それでもまさかビアンカが王子との話し合いをすすめるとは思わなかった。
そんなことしたら……あいつが本当に彼女を愛してるのがバレてしまう!
自力で魔法を解くくらいあいつは惚れてるのだろう。遅過ぎだろって思うけど。
ビアンカは俺を止めたいんじゃなくて、ずるしてる暇があるならさっさと気持ちを伝えろと言いたいらしい。脳筋か?本能のまま生きるのを止めろ!
でも、このままでは王子に負ける。
野生の猿に応援されて突っ走ってしまった。そして……猿並みの行動を取ってしまった……
なんだアレ。俺は馬鹿なのか?なぜあんな場に乱入して告白劇を繰り広げたんだ!
部屋にいた全員が呆気にとられていた。いや、護衛は生温かい笑みを浮かべていた。捕まらなくて本当によかった。いや、あの人は大丈夫なのか?不審者を取り押さえなくて。
お願いだから皆の記憶から消してほしい。
そう願ったけど無理だった。リーゼに叱られた。本当に申し訳ない。伯爵も俺に呆れたことだろう。なんてマナーのなっていない男だと思ったはずだ。
あんな告白は間違いだ、無かったことにさせてくれ!
恥ずかし過ぎて10日も逃げ回った。
そんなことをしても何もかわらないのに。
10日ぶりのリーゼは……何か違っている。こんならしくない笑顔をするなんて。
ろくに話せないまま行ってしまった。
明日、……明日こそちゃんと告白しよう。
でも、そんな明日は来なかった。
彼女は領地に行ってしまった。
告白一つ格好良くできない、情けない男を置いて……




