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魔法のせいだから許して?  作者: ましろ


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18/50

18.取り消された言葉

なんだか疲れたわ……


殿下との話し合いが終わった。

ようやく言ってやった!という気持ちと、彼も被害者だったのにと憐れむ気持ち。

魅了などなければ、彼は道を踏み外すことはなかったのに。あのまま、ずっと優しい殿下のままで──

それを知っているのに、私は彼がやり直す手助けをしないのだ。

結婚の誓いで病める時も健やかなる時もと誓うけれど、ある意味この一年間の殿下は病んでいたのでしょう。

魅了という外的要素で狂わされた心の病。そこまで分かっていて助けない私は、本当に結婚する覚悟が足りなかったのかもしれません。


私は殿下を許さない。だから、殿下も私を許さなくていい……最後まで愛せなかった駄目な婚約者だから。



このまま部屋に戻ってしまいたいけど、先輩を待たせているのよね。なぜ今日だったのかしら。

私が殿下に(ほだ)されると思った?信用が無いのね。

疲れたせいか、思考がマイナス方向に振り切ってる気がする。

……本当は今話をしたくない。(すさ)んだ心のまま先輩を傷付けてしまいそう。


「先輩、お待たせしました」


部屋に入ると、先輩が慌てて駆け寄って来ました。


「大丈夫だったか?」


先輩の殿下への態度が大丈夫じゃなかったです。そう思いつつも、冷静に説明するよう努力して口を開く。


「はい、無事話し合いは終わりました。父が殿下と共に王宮に向かいました。陛下に謁見が許されたら、殿下の症状を説明して下さる予定です」

「……すまない、怒ってるよな」


それは何に対して?……駄目ね、やっぱり冷静になれないわ。


「殿下が私にしたことに怒ってくれるのは嬉しいです。でも彼は王子です。いくら同級生とはいえ、先輩の行動は許されません。

殿下の許しも得ず部屋に乱入するなんて!貴方を捕らえなかった護衛の方に感謝して下さい」


そう、部屋の前には殿下の護衛騎士がいたのです。それを押し退けて乱入するだなんて本当に恐ろしいことをしたのだと理解して欲しい。

武器を持たない学生だったことと、突然の愛の告白で危険は無いと生温かい目で様子を見守ってくれたことに感謝するべきです。


「……ごめん」

「私は愛がすべてだとは思いません。愛があればなんでも許されるわけないんです。

こんなことで先輩の一生を駄目にしたら泣くに泣けません!」


いつも飄々としている先輩が珍しく落ち込んでいます。だいたいなぜそんなにも余裕が無くなってるのかしら。


「……先程の告白ですが、申し訳ありませんが今すぐにはお答えはできません。今日はもう疲れてしまって考えがまとまらないのです」


お願い、そんな顔をしないで。責められてると感じてしまう。

先輩の優しさに甘えて返事を先延ばしにしていた私が悪いのは分かっています。

でも、殿下と思い合って過ごした幸せだった日々の記憶が私の決断を遅らせてしまった。

だって、まだ彼を想うと涙が出そうになるの。覚悟が足りなかったけど、(つたな)い恋だったけど、本当に好きだったの。

ようやく終わらせたけど、その日のうちに、じゃあ次の恋の話を、だなんて無理よ……


「悪かった。あれは忘れてくれ、間違えた」


そう言って私の返事を聞かず、目すらも合わせずに部屋を出ていく先輩に戸惑い、その背中を呆然と見送ることしか出来ませんでした。


間違えたって何を?……本当は恋じゃなかったとか?

もしそうなら、確かに恥ずかしくて顔も見ずに帰るのは分かる気がする。


……そっか、チャンスはその時に掴まないとあっという間に消え去るモノなのね。


ううん、返事をしてなくてよかったのよ。好きだと言っても、ごめんなさいと言っても恥ずかしさしかないもの。



ああ、全部なくしちゃったのか



ぼんやりと天井を眺める。

ううん、全部じゃない。家族がいるし、ビアンカ達は友達のままのはず。婚約が白紙になったけど、身に付けた知識は失ってない。

……うん、大丈夫。さっき自分で言ったじゃない。愛がすべてじゃない。大事なものはたくさんあるわ。

お母様に結果報告しなきゃ。ユリアーナも心配してくれていたからみんなでお茶でもしようかな。


うん……今あるものを大事にしよう。


お茶を誘いに行くとお母様達が優しく抱きしめてくれた。心配かけてごめんね、これからはもっと強くなるから。



◇◇◇



夜になってようやくお父様が帰って来ました。少し疲れた顔をしています。


「あなた、大丈夫ですか?」


お母様も心配なようだわ。


「大丈夫だ、ありがとう。少し話がしたいがいいかい?」


お父様が優しい瞳で聞いてくる。殿下の話なのね。


「もちろんよ。お茶を用意しましょう」


お母様と一緒に話を聞くことにしました。


「……王妃様が?」

「あぁ、あの方だけが魔法のせいではなく殿下のもともとの性質だと言うのだよ」


そう言って殿下の幼かった頃の話をした。


「そんな小さい頃の出来事で?」

「あぁ、たったそれだけだ。だが、王妃は母である自分には分かると言って譲らなくてね。魔法のせいで本性が(あらわ)になったから隠さないといけないと思ったそうだよ」


たった一度、殿下が子猫に執着したから?でも、それからは一度もそんな姿は見せていないのに?


「……結局魅了とはどんな魔法でしたの?」


そうね、それが一番に知りたいわ。


「それが分からないんだ。マルティナ公女自身、幸せになれるお(まじな)いだと思っていたらしくてね。だから魔法など掛けていないと言っているらしい。

ただ、魔法であることは間違いない。殿下が魔法を解いた時、公女に魔力が跳ね返ったそうだ。体中の激痛と内臓への負担で吐血し倒れた。今でも頭痛と耳鳴りが止まず、右目の視力も失ったらしい。

彼女への罰が幽閉のみなのは、すでに身体的罰が神様に与えられているからみたいだな」


本人さえ知らない魔法だなんて。

そして自身さえ不幸にするお(まじな)い?そんなの最低だわ。





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― 新着の感想 ―
王妃様がかけた暗示(優しくしないと嫌われる)を公女のまじない(本当のあなたを見せて)が壊してしまったことを、誰も気づけないのでしょうか。 複雑ですね。
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