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12.本当の気持ち

ビアンカのご両親は突然の訪問だったのにもかかわらず、とても温かく迎えて下さって感謝しかありません。


でも、本当にこれでよかったのかしら。結局は時間稼ぎでしかないのに。

湯船に浸かりながら考える。


───私はどうしたいの?


殿下や王妃陛下、そして先輩のこと。


……ううん。ひとつだけハッキリしているわ。


私は殿下を許したくない。


だって、どうして許せると思うの?

辛かった、悲しかった、悔しかった、怖かった。

色々な思いが混ざり合う。

『魔法のせい』なんて呪文は私には無い。


殿下はきっと(たが)が外れたまま。いままで隠していたものが魔法のせいで(あらわ)になってしまったのかもしれない。

私はあの姿を許せる?

最初からそうならよかった。綺麗な王子様じゃなくて、独占欲丸出しの悪魔王子。はじまりがソレなら……私は受け入れたかもしれない。

だって。あの姿だって私を好きだと、大切だと思っているから執着するのだと、夢見がちな幼い頃ならそれすらも受け入れたかもしれない。

でも、今は?愛の為に人を──自分自身であったとしても、傷付ける行為は間違っているわ。

それは決して許してはいけないの。

でも……


「リーゼロッテ様、大丈夫ですか?」


こんなことに巻き込んでしまったのに、ビアンカは一言も文句を言わないのね。


「今日はありがとう。怖かったでしょう?」


私は未だに答えを出せない。

婚約白紙にできて嬉しかった。先輩に好意を示されて嬉しかった。

それなのに、殿下の執着が、死ぬ程怖かったし間違っていると思うのに……ほんの少しだけ、嬉しかったのだ。

私はおかしい。あの頃のように絵に描いたような理想の王子様じゃないのに、私に執着する姿を見てこの一年間(しいた)げられてきた恋心が(うず)くのだ。


「いいえ、私はやっとリーゼロッテ様の友達だと自信を持って言えるかなって誇らしい気持ちです!」

「……駄目よ。私にそんな価値など無いわ」


貴方達の助けが死ぬ程嬉しかったのに、殿下の執着にほんのりと喜びを感じる心。

私は貴方の友情に値しない愚かな女だ。


 「そんなこと言わないでください!」


真っ直ぐに私を見てくれる綺麗な瞳。友達の為に危険を(かえり)みない優しい人。


「……私ね、自分が分からないの。殿下のことが許せないし、気持ち悪いし、貴方達を傷つけるなら殴りたいって思うの。

……それなのに、あんなにまで私を思ってくれているのかと思うと……少しだけ嬉しいの」


ビアンカの瞳が大きく見開かれた。

……やっぱり傷付いたよね。信じられないという表情をしてる。うん。私も自分のことが信じられないもの。

ビアンカは何も言わずに(うつむ)いてしまった。私達の友情はこれで終わりかしら。


「色々と迷惑を掛けてごめんなさい。貴方には被害が無いようにするから」


これで終わりね。短い友情だったなぁ。

部屋を出ようとすると、


「ちょっと待って下さいっ。言い逃げなんて許さないから!」


突然の叫び声に驚く。そんなに怒らせてしまった?


「どうして一方的に話して終わりにするんですか!私はまだ何も答えてないですよっ」


怒りに満ちた声。そうよね、貴方の苦情を聞く義務があるわね。


「そうよね、ごめんなさい」

「私は!あんなヤンデレ王子なんてまっっったく魅力を感じません!怖いしキショいしっ!」


あぁ、不敬罪!


「でも、リーゼロッテ様はずっとお慕いしていたのでしょう?だったら、信じたい気持ちがあるのはしかたがないじゃないですか!ちょっと頭おかしいくらい許せるかも?って優しさが出るのは罪じゃないです!」


どうしよう。頭おかしいまで言ったわ、この子。


「リーゼロッテ様は優しいから迷っちゃうだけです。でもいいんですよ、それで。

先輩は結局リーゼロッテ様を狙ってる男だから殿下のことを厳しく言うんです!必ずしもあの人が正解じゃないですよ。

リーゼロッテ様はゆっくり自分の気持ちを確かめて下さい。なんならキモい殿下とももっとお話ししたらいいんです。

あっちは惚れた弱みがあるんですから。

私は男共なんか知りません。リーゼロッテ様の幸せだけ願ってます!」


そんな言葉がもらえるとは思わなかった。

私は今の殿下は悪だと思ってる。だってポンコツで人の話を聞かないし自分を傷付けようとするし私の友達を脅すし!

でも、心のどこかで見捨てられない気持ちがあるの。それでもいいのかな。


「ありがと、ビアンカ。私ね、殿下が怖いの。気持ち悪いの。婚約白紙も嬉しいの。それに間違いはないのよ。でも、ずっとずっと大好きだったのよ。初恋の王子様だったの。

壊れるくらい私を好きでいることが……ドン引きしてるのに、本当に本当に少しだけ、嬉しかったの。あんなのを受け止める自信はないのに。

もう、どうしたら正解か分かんない」






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