凛の友人
ファング第二艦隊の攻撃を辛うじて退けたアラン達はE.G.軍宇宙センターに戻った。
友軍の部隊は壊滅的打撃を受けており、まともな戦力はアーサーのカリバーン、アランのシンセシスー1、宇宙センター所属のアルダーン9機だけであった。
友軍艦隊の打ち上げは順調に進んでおり、2日後の戦艦フリージアの打ち上げが最後となる。
打ち上げを二日後に控えているので、エース機であるカリバーンとシンセシスー1は戦艦フリージアに搭載しておきたかった。
だが、宇宙センター防衛任務に就く為に搭載は見送られた。
基地の戦力だけでは次に襲撃を受けた場合、もちこたえる事が出来ないと判断したからだ。
だからと言って、宇宙での作戦に参加しない訳ではない。
打ち上げが始まってから戦艦フリージアに飛び乗り、空中で格納を行う荒業で宇宙に向かうのだ。
フィオナ艦長は反対したが、提案者で当事者のアーサー・グリント大尉が出来ると言い切ったので実行される事になった。
本来は立場が低いアーサーの意見が通る事は無い。
だが、劣勢を強いられ続けられた友軍にとって、圧倒的な力で敵を屠ったアーサーの意見は絶対であった。
ファングの地球侵攻部隊相手に善戦出来ているのはアフリカ方面のE.G.軍のみで、依然として各方面で苦戦を強いられている事実が後押しをしている。
一緒に作戦に参加する事になったアランも反対はしなかった。
危険な行為だが、宇宙センターが攻撃を受けて戦艦フリージアの打ち上げを失敗すれば元も子もないからだ。
打ち上げまではまだ時間がある。
アランは打ち上げまでに確認しておきたい事があったので凛を誘った。
だが、敵襲があれば即時出撃する必要があるので遠出は出来ない。
だからE.G.軍宇宙センターの食堂に向かった。
席に座ると凛が端末を操作して二人分の料理を注文をした。
アランが自分で料理を注文しなかったのはアジアの料理を知らなかったからだ。
数分後に自動配膳機が料理を運んできた。
(なんだこれは……ヌードル?)
「ラーメンがあるとは思わなかったわ。ところで何を聞きたかったの?」
「これはラーメンというのか? 凛とスープの色が違うが?」
「アランのは醤油味で、私のが味噌だからよ」
「醤油? 味噌? 何が違う?」
「えっと……醤油と味噌を知らない人には説明が難しいわね。食べれば分かるわよ」
凛が取り皿に味噌ラーメンを少し分けてくれた。
(少し味が濃いな……くっ、何だ?)
「渋い顔してるけど唐辛子が辛かったかしら? 私、味噌ラーメンは唐辛子派なのよ」
「俺には分からない。だけど凛が選んでくれた醤油ラーメンの方が食べやすい」
「良かった。麺が伸びない内に食べましょ」
「なぁ、"みぃちゃん"はどうした?」
いつも凛の肩に乗っていたロボット猫だったが、密林での戦闘以降見かけていない。
「スーの傍にいるわよ」
「スーの傍? 彼女は無事に入院出来たのか?」
「無事に入院出来たわよ。だからスーの傍にいる"みいちゃんと"もお別れかな」
「そんなに簡単にお別れ出来るのか? スラム街にわざわざ部品を探しに来たくらいだから大切なんだと思ってたのに」
「大切だからスーにあげたの。それに本当に大切なのは、あの子に込められた思い出の方だから」
「思い出?」
「私の唯一の友達の思い出。既に知っていると思うけど私、あの高木博士と同じ人種なの」
アランは高木博士の名を知っている。
人類史上最悪のテロリストであると……
そして凛の故郷である、かつて日本と呼ばれていた地に滞在していた事がある。
「まぁ、一応社長令嬢ですからね。有難いことにお金には困ってなかったわよ。でも虐められてはいたわね。あの父親の仕事の関係で転校も多かったし」
「虐められていた? そういうイメージはないけど」
「昔の話よ。今の私は強いんだから」
凛が腕をまくって筋肉アピールをする。
(言うほど筋骨隆々ではないだろ。でも走るのは速かったな。ハワイで俺やイーサンを追えるだけの運動能力があった)
「私が強くなった切っ掛けが、さっき言った唯一の友達のシャ―ロッテよ」
「シャ―ロッテ? どんな人だったんだ?」
「一言で言うと変人よ。美人でモテるのに男の子よりメカが好きだったわ。学校一の美男子だったテニス部の部長がシャ―ロッテに告白したんだけど、なんて言ったと思う?」
「いけ好かない野郎だ……かな?」
「それはアランの意見じゃないの。彼女が言ったのは『君は容姿に自信があるようだが、ムダル博士の設計図より美しいと思っているのか?』だったのよ。女子の発想じゃないわよね」
「あぁ、女子の発想ではないが、気が合いそうだな」
「私もそう思うわよ。そして私とも気が合った。だから私もメカを弄るのが得意になったの。そして転校が多い私の為に”みいちゃん”を一緒に作ってくれたの」
「”みいちゃん”と転校に関係があるのか?」
「あるよ。寂しいからペットを飼っても地域によっては連れていけないの。生態系保護政策があるから。だから転校した時に、どこでも連れて行ける様にロボット猫を作る事を教えてくれた。パーツも輸出規制にかからない様に厳選して使っていたの」
アランは凛と出会った時を思い出した。
(だから、あの時旧式のパーツを探していたのか……)
「凄い奴だったんだな」
「うん、頭がいいのに喧嘩も強くて。虐める相手は倒せば良いって守ってくれたのよ。彼女への憧れで私も強くなれたわ……」
アランは楽しそうだった凛の表情が陰ったのが気になった。
「何故そこで悲しい顔をする?」
「強くなれたと思っていたけど、それは学生の範疇だったから。今の私は何も出来ない……」
「何か出来る必要はないさ。戦争で何かを出来るヤツは唯の人殺しだ。俺はそんなヤツになって欲しくはない」
「アランは唯の人殺しじゃないよ」
「そうでありたいと思っているよ。今日は有難う。知りたかったスーの事も知れて良かった」
「うん、頑張ってねアラン。無事に宇宙に行きましょう!」
「あぁ、任せてくれ!」
アランは元気よく返事をしたが、本当は頑張れなくなり始めている事に気付いている。
敵を殺し続ける事に耐えられなくなり始めているのだ。
(戦争は正義や思想に汚染された精神でなければ耐えられるものではないんだ……でも今は、今だけは……)
アランは折れそうな心に鞭を打ったーー




