表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白銀のシンセシス  作者: 大場里桜
前編:Grayish future
34/228

赤髪の青年2

 10分程走り続けて、どうにか警察官から逃げ切れた。

 鍛えているアランが逃げ切れるのは当然だが、普段運動をしていない様に見える凛も無事に逃げ切れたのは幸いだ。

 先頭を走っていた赤髪の青年は、まったく息が乱れていない。

 本当はもっと速く走れるのに、アラン達の走力に合わせていたのだろう。


「アンタは誰だ?」


 アランは赤髪の青年に問いかけた。

 アランの質問は赤髪の青年にとって予想外だったようで、しどろもどろになっている。

(初対面であれば何者か問うのは普通だ。名を問われて困る存在……犯罪者か?)

 アランは赤髪の青年への警戒を強める。


「ーーサン」

「何サン?」


 やっと名乗った名前が聞き取れなかったので、凛が聞き返した。


「ジョ、ジョナサンだ」


 赤髪の青年がたどたどしく名乗った。

(最初に出会った時との堂々とした態度と違う。偽名か?)


「俺はアレンだ」


 アランは偽名を名乗った。

 赤髪の青年、自称ジョナサンが不審であったし、アラン達がE.G.軍に所属している事を知られたくはなかったからだ。


「アレン?!」


 凛が驚き、肩に乗っていたロボット猫の”みいちゃん”が飛び降りた。

 アランは凛と偽名を名乗るとは相談してはいなかった。

 偽名が本名に近すぎて、単純に言い間違えたように聞こえたのかもしれない。

 全く違う偽名では、呼ばれた時に反応出来ない可能性がある。

 だから、アランは本名に近い名前で名乗ったのだが、逆効果だったかもしれない。


「凛ーー」

「凛ちゃんって言うんだ」


 ジョナサンが"みぃちゃん”を抱えた。

(ミスった。凛を制止する為に、思わず凛の名前を出してしまった。何やってんだ俺は!)


「あの、みぃちゃんです」


 凛はアランが本名を言った事を気にもせず、ロボット猫の名前を訂正した。

 だが、


「君はみいちゃんって名前なんだな。俺、自分の名前に”ちゃん”付けて呼ぶ人初めて会ったよ。この子可愛いね。凛って名前も似合ってるよ」


 ジョナサンが楽しそうに"みいちゃん"の頭をなでる。

 どうやらジョナサンは、凛が"みいちゃん"の名前を訂正したのを、自身が名乗ったのだと勘違いしたようだ。

(どうしてこうなった?! こいつ頭大丈夫か? いや、俺も動揺し過ぎだ)

 混迷を極める自己紹介。

 だが、元はと言えばアランのミスが原因である。


「さて、ソフトクリームでも食べながら少し話すか?」


 ジョナサンの提案でソフトクリームを買って、公園のベンチで話をする事となった。


「なぁ、ジョナサン。何故殴った?」


 アランは一番聞きたかった事を、単刀直入に聞いた。


「食べ物を粗末にしたからに決まってるだろ」

「それだけで殴り倒す必要があるか? ジョナサンと俺達は知り合いではない。殴って警察に追われる理由はないだろ?」

「アレン達は食べ物を粗末にしても何も思わないのか?」


 ジョナサンの声が急に冷たくなる。

 冷たいでは済まない、これは明確な殺意だ。

 気圧された凛は黙ってしまっている。


「思わないさ。俺は9才の時から独りで生きてきた。飢えをしのぐ為に草を食べていた時もあったさ」

「草があるだけマシさ。宇宙に草はない……」


 ジョナサンがしみじみと言った。

 いつの間にか表情から冷徹さが消えていた。


「ジョナサンは宇宙から来たのか?」


 アランはジョナサンが宇宙、はっきり言えばブラック・ダンデライオン出身だと察した。

 だが、ジョナサン本人からはっきりと聞きたかった。

 それを言えるかどうかで、ジョナサンがファングに所属しているか判断出来るからだ。


「そうだ。俺の故郷は宇宙。ブラック・ダンデライオン1号機<セイヨウ>だ。宇宙では食料は貴重だ。餓死は今でも死因の上位なんだ……」

「そうか……地球では肥満で死ぬ人間もいるのにな」

「肥満で死ぬくらい地上には食料が溢れているのに、アレンは餓死しかけたのか?」

「あぁ、食料はあっても貧富の差はある。E.G.ではエネルギーが全てだ。エネルギーの価格が貨幣価値になるほどにな。食料が溢れていても、俺達孤児には回ってこないさ」

「アレンは孤児だったのか……苦労したんだな」

「6年前にファングに両親を殺された。殺した奴は『2日分の食料しか手に入らなかったな』と言って、俺の両親の死体を蹴った」

「第一次宇宙戦争時の時か……ファングは私設軍隊。当時はブラック・ダンデライオン出身者で、申請すれば誰でもなれた。多くの者は故郷を守る為に立ち上がった人達だが、中には地球で略奪を行う者もいた。申し訳ない」


 ジョナサンが頭を下げた。

(ファングの事情に詳しい。それに何故ファングの事で頭を下げる。ジョナサンはファングの関係者なのか? いや、仮にファングの関係者だったとして、迂闊にファングに所属している事を悟られる危険を冒すとは思えない)

 アランはジョナサンという男をはかりかねる。


「それはジョナサンが責任を取る事なのか?」

「俺が責任を取る事ではない。だが、責任を取りたい。自信の誇りの為に!」


 ジョナサンが胸を張る。

 自信に満ちた強い眼差し。

(ジョナサン……凄い奴だな)

 アランはジョナサンに敬意を持ち始めていた。

 最初は警察に追われる事態となったにも関わらず、適当な回答しかしない寝ぼけた相手だと思っていた。

 だが、ジョナサンにとって警察に追われる事は大した事ではなかっただけなのだろう。

 意気投合したアランとジョナサンは、地球と宇宙の未来について語り合ったのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ