謎の爆発
ドーン!!
仙李は爆発の衝撃を感じた。
だが、何も行動せず、椅子に座ったまま本を読み続けた。
それはソファーで寝ころんでいた柳も同じであった。
普通に生活をしていれば、身近な所で何かが爆発する事は無い。
爆発の衝撃を感じたら焦るのが当然である。
それでも焦らないのは、高田研究所にとって爆発事故が日常茶飯事だからである。
(また兎衣が何かやらかしたんだろうな。僕達は慣れているけど、苦情が来たら研究所の存続が危うい。あまり強く言いたくはないけど、危ない実験は止めないと駄目だな)
柳が突然立ち上がったので、仙李は驚いた。
「どうした柳?」
「異常に気付いた。爆発元を確認してくる」
「いつも通りだろ? 兎衣が自分で片づけるだろう?」
「いつも通りではない。爆発が起きたのは研究室ではない。俺の調理場の方向だ」
「調理場? そう言えば、衝撃が来たのは調理場の方からだったな」
柳の調理場。
高田研究所を立ち上げた時に、柳が唯一要望したのが調理場を作る事だった。
仙李は不器用でレシピを見ても料理が作れず、兎衣は食べる方が専門だ。
当然だが、二人共食事の用意など出来ない。
柳は「薬品の調合が出来るのに、何故料理が出来ないのだ?」と言うが、無機物の薬品を調合するのと有機物を加工して作る食事では勝手が違う。
そんな情けない悪い言い訳をする仙李達に、柳は毎日食事を作ってくれている。
だから、高田研究所の生活を担う大事な調理場で爆発が起きたとなれば一大事である。
仙李と柳は急ぎ調理場へ向かった。
調理場のドアを開けると焦げ臭い匂いがしたが、幸いな事に火災にはなっていなかった。
「お、俺のコレクションが……」
無残に破壊された食器と調理器具を見て、所有者である柳が項垂れた。
(これは普通の爆発ではない! 兎衣は無事か?!)
仙李は兎衣が倒れていないか調理室を見渡したが、兎衣は室内にいなかった。
「何をしたら、こんな惨状を生み出せる?」
仙李は柳に問いかけた。
「分からないよ。分かっていれば、今すぐコイツ等を破壊した責任を取らせてる!」
どうやら柳も惨状を生み出した理由が分からないらしい。
(まいったな。ここまで明確に被害が出ていれば消防の立ち入りは免れない……)
「ただいま! あれっ、二人共どうしたの?」
兎衣が暗い顔で立ち尽くす仙李と柳を不思議そうに見ている。
(兎衣は無事だったのか。でも、外出していたって事は、爆発とは関係ないのか?)
「兎衣、聞かなくても分かるだろ? この惨状が分からないのか? 爆発するのに慣れて何も思わなくなったのか?」
「そんな事は無いわよ柳。二人に怪我がないから慌ててないだけ。本当は出かける前に温めていたアップルパイが無事なのか心配なんだから!」
「何だよそれは! アップルパイを温めただけで、こんな爆発が起きるはずがないだろ! 変な生物を入れたりしてないよな?」
「アップルパイしかいれてないわよ! 生物を入れたなんて不謹慎な事を言わないでよ! 柳が作ったアップルパイが爆発したんだから柳が悪い!」
不毛な言い争いを続ける柳と兎衣の傍で、仙李は爆発の原因を考えた。
(本当かどうか分からないが、二人共何かを温めた事が原因だと思っている……そういう事か!)
室内を改めて確認すると、爆発の起点が電子レンジがあった場所である事が分かった。
柳と兎衣はふざけている様で、しっかりと室内を観察していたのだ。
爆発の起点が電子レンジであるなら、そこに爆発の原因の手がかりが必ずあるはずである。
仙李が電子レンジの残骸をどけて調べたら、小さな輝く物体が出て来た。
(銀色に輝くダイヤ? 何故ここにあるんだ?)
仙李には銀色に輝くダイヤに心当たりがある。
2年前に木星で発見された新種のダイヤモンドである。
発見当初は通常のダイヤモンドの様な透明ではなく、金属光沢を持つ特殊な色合いが珍しくもてはやされた。
しかし、ダイヤと言われなければ、銀やステンレスと見た目に変わりがない。
直ぐに世間は興味を失い、一部の鉱物の性質を専門に調べている研究機関以外は忘れ去っている代物である。
「あっ、それ私の銀ダイヤ! 何で仙李が持ってるの?」
仙李が手にした新種のダイヤモンドを見た、兎衣が大声を出した。
「電子レンジの残骸の中から出て来たよ。兎衣のだったんだね」
仙李は新種のダイヤモンドを兎衣に手渡した。
「見つかって良かったぁ。私の大切な銀ダイヤ! 買い物中に無くしたと思ってたのよね」
「そんな安物の何がいいんだよ? ダイヤが欲しけりゃ本物のダイヤを買ってやるぞ」
「これが私にとっての本物! 柳が言うダイヤは、ただの装飾品でしょ?」
言い方は悪いが、柳が言っている事は分かる。
新種のダイヤモンドは土産物で売っている隕石より少し価格が高い程度。
しかも通常のダイヤモンドより透明度も輝きも劣る。
普通の女性が欲しがるようなものではない。
それに柳が言ったことは受け取り方によってはプロポーズと言える。
仙李は兎衣が気づいていない事にほっとした。
(柳には悪いけど少し安心した。柳みたいに直接伝える勇気は無いけど、俺だって……)




