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(おまけ)友人の想い

番外編。ヴィオレッタ視点です。本編より1年後ぐらい。

 最近、ヴィオレッタはやや不満である。


 今は昼下がりで、ヴィオレッタは自分の住む屋敷の庭で友人とお茶を楽しんでいた。晴れ渡った空に、この時期に花開く小ぶりの黄色い薔薇が映えて美しい。


 勿論、とヴィオレッタは目の前の友人を見つめる。1年程前まで不幸な状況に置かれていた彼女が日々楽しそうな顔をしているのは喜ばしい事だ。貴重な約3年間、不当な扱いを受けていたのだから、是非とも幸せになってもらいたい。


「それで、湖にちょうど渡り鳥が来ておりましたの。綺麗でしたわ」


 件の友人はヴィオレッタの心の内に気付く筈もなく、目をキラキラさせて新しい婚約者とのデートの様子を語ってくれる。


 それはいい。鳥が可愛いのにも同意する。


「前は郊外に羊を見に行ったのではなくて?」

「はい。羊の赤ん坊も見せて頂きましたわ。あと仔馬も」


 これである。


 彼女の婚約者は獣医の見習いをしている。彼女も動物が好きとは言え、デートコースが郊外で、必ず動物が入っているのはどういう事だろう。


「今度は野生のリスを見せて下さるのですって」


 あ、それは可愛いかもしれない。ヴィオレッタの思考があっけなく転げ落ちた。


 友人のレアンドラは特段美女と言うわけではない。しかし世の中、大多数の顔の造りは普通なのだ。それでも容姿が特徴付けられるのは、立ち振る舞いや姿勢、発する言葉や表情といった味付けによるものだとヴィオレッタは思う。


 それでいくと、レアンドラはとにかく「可愛らしい」の一言に尽きる。小柄でふんわりしていて、とても女の子らしい。リスと戯れるなど、似合い過ぎて悶えそうだ。絶対に彼女の婚約者がその姿を見たいだけだと思う。


 歩けば美しいだとか色気だとか言われる自分には程遠い世界で、女の子な身としては羨ましい限りだ。ないものねだりなのはわかっているが。


「でも、アン。歌劇とか、ディナーとか、帽子屋だとか、そういう場所にも行きたいのではなくて?」


 聞いてみると、レアンドラは小さな丸顔を少し傾けて考えるような素振りをした。動物は好きだが、当然可愛らしい物や綺麗な物、美味しい物も彼女は好きである。せっかくなのだから、そういう場所に連れて行ってあげればいいのに、と思う。


「少し前は連れて行って頂いていましたけど、最近は郊外が多いですわね。季節も良いですし」


 そう言ってレアンドラはふわっと笑った。幸せが滲み出ている。婚約者に大切に大切にされているのだなぁと思うと、数年前の彼女を思い出して胸が熱くなってしまう。


「リスは森へ行くのかしら?」

「ええ。馬に乗せて下さるの」

「まあ。結構疲れますわよ? 馬に乗った事はあって?」

「はい。最近アルベール様と練習していますの」


 ぽっと頬を赤らめるレアンドラを微笑ましく見つめながら、ヴィオレッタは彼女の婚約者を思い出して納得した。恐らく郊外で動物の方がレアンドラの反応が良いのだろう。彼女の婚約者はぼけーっとしているように見えて、人をよく観察している。


 レアンドラの元婚約者は性格が最悪な男だったのだが、なかなか婚約を解消せず、周囲はやきもきしたものだった。そんな時にヴィオレッタが「物語の騎士のように抗議に行ったらどうか」と冗談交じりでアルベールにけしかけたところ、彼は「行ってもいいが、彼の性格上婚約期間を伸ばしてくる危険性がある」と返答したものである。


 ちなみにその元婚約者は、レアンドラと婚約を解消した後、すぐに当時の恋人と婚約した。しかしその後徐々に2人の仲は冷えていき、最近では婚約解消をするのではないかと専らの噂である。男性にも女性にも新しい恋人がいるわけではないようで、近しい者にもいまいち内情がよくわからないらしい。


「アンが良いならそれで良いのだけど」


 どうしても、なんとなく、なんとなーく、不満だ。せっかく王都にいるのだから、もっとこう、お洒落なデートをしてもいい筈だ。別に郊外で動物まみれになるのが悪いとは言わないが、年頃の乙女としては納得出来ない、と言うかしたくない。


 まあしかし、この2人の最初の出会いは臍の尾のついた猫を彼の師の獣医が診察した所から始まっているので、徹頭徹尾動物と言うことなのかもしれない。ちなみにその時の猫は6匹中2匹なんとか生存し、今レアンドラの家で元気に過ごしている。


 そうすると、全くお似合いだとしか言いようがない。大袈裟に、歌劇のように言うなら、まさしく運命なのだろう。随分と様々な鳴き声が聞こえてきそうな運命ではあるが。


「ねえ、アン」

「はい」

「キスはもう済ませていて?」

「キ……」


 絶句したレアンドラの顔がみるみるうちに紅潮する。その赤くなった顔に気付いたのか、レアンドラは慌ててわたわたと扇を開いた。いつもの彼女のお気に入りの扇ではなく、鳥の羽根がふんだんに使われた一品で――恐らく婚約者から贈られたものだろう。


「アンったら、大人に一歩近付いてしまったのね」

「違います! そういうのではなくて。もうっ!」

「ふふふ。婚約者ですもの。キスの1つや2つ常識ですわ」


 ほほほ、と笑いながらヴィオレッタは扇でレアンドラの真っ赤になった顔を仰いだ。真っ赤になって慌てる友人も可愛い。女の子らしい。


 でもなんだか少し寂しいような、嬉しいような、可愛いような、悔しいような……。


 やはりヴィオレッタは近頃少し不満なのである。

これにて完結と致します。お読み頂いてありがとうございました。

長さ的に短編ですが、場面転換が多いので読みやすさを考えて連載形式に致しました。


<レアンドラの年表 ※本文中で書いていない設定も含む>

13歳より前 :ヴィオレッタと友人になる

13歳 :マルセルと婚約

14歳 :社交デビュー、アルベールと知り合う、猫の会会員になる

15歳 :

16歳 :マルセルと婚約解消 ←本編時点

17歳 :アルベールと婚約 ←おまけ時点


こんな感じです。多分整合性は取れている筈。

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