ガチ女装部門
「いやー壮絶な戦いでしたねー。皆さん目は大丈夫ですか? それでは、本日のメインイベントと言ってもいいでしょう、ガチ女装部門に参りましょう!」
「ガチ女装部門には四人がエントリーしています。いや、始まる前控え室で見たんですけど、全員すごくレベル高いんですよー。これは期待できると思いますねー。さあ、参りましょう! トップバッターは、この人です!」
『こんな可愛い子が男の子のはずがない!? 思い出作りのついでに無料券と皆さんのハートもいただきます! エントリーナンバー一番! ヴァレンタイン!!』
女子の黄色い声が一際大きくなった。恥ずかしげに現れたヴァレンタインはクラシックなメイド服に猫耳という衣装を身につけていた。ロングスカートなのが何かをそそる。極力地味なものを選んできたところは彼らしい選択だが、その装いと振る舞いは彼の溢れ出る可愛らしさをかえって助長させていた。黄色い声は鳴り止まない。
「すごい人気だなぁ。確かに可愛いし」
「あ、ありがとう、ございます…?」
「確かに嬉しいかっつったら微妙だよなこの褒められ」
「ああああああああああああヴァレンタインーーーーー!!!」
「!!!?」
観客席からマイクに負けない絶叫が響き渡り、体育館を木霊して消えた。見ると入り口で金髪の男性が卒倒している。
「あー、職員の方か風紀委員か保健委員、そっち見に行ってみてくれます?」
「どれ、私が行こうか」
「アレックス先生いつの間に着替えたんですか」
「私個人としてはずっと着ていてもよかったんだが、さすがに苦しくてね」
ジャージ姿になったアレックスが観客席を駆け抜けていくのを見ながら、審査員席の花子の「続けろ」という旨のサインを受けてソウルはコンテストを続行させることにした。
「ほんじゃまあ気を取り直して。この衣装はどこから持ってきたんだ?」
「よ、世具先輩が…家にいっぱいあるからおいでって…」
「蒼太が?」
「はい…」
「そうか…えーじゃあ誰かコメントを…ルカさんどうぞ」
「ミニスカートだったらどうしようかと思ってましたが安心しました。メイド服は王道だけどやっぱり可愛いよねー」
「ありがとうございます。では、ライドさん」
「とても似合っていて、可愛らしいと思います…」
「んーなかなかの好感触ですねー。それじゃあ、採点お願いします!」
「六点、九点、七点、五点、五点…合計三十二点です! これは高得点だ!」
歓声と拍手にヴァレンタインは小さくお辞儀をして出て行った。
「そういえばこのガチ女装部門、四人中三人が放課後倶楽部なんだよなぁ。ズルイよな。さて、お次は、この人!」
『大賞にも副賞にも興味なし!? 完全興味本位で参戦の無気力美少女が今宵花神楽に姿を現す! エントリーナンバー二番、ノハ・ティクス!』
おおお、という感心の声が大きく上がった。のんびりとステージに歩いてきたノハはフリルやリボンがふんだんに使われたゴスロリ姿だった。紫の髪に黒と赤の服がよく似合う。ヘッドドレスにはご丁寧にウサ耳までついている。耳だけが白であり強調されている。
「…どこで手に入れたんだよこんな服」
「リアが持ってきたんだ」
「ホントに興味ないんだな」
「これだってリアが勝手に申し込みしてたんだし」
「いいのかそれで」
「んーいいんじゃない?」
「マジかよ。…さて、奈月くん、どうかな?」
「服の出自が気になる。着たい」
「そこか」
「リアに今度聞いてみれば?」
「まぁそれは後でな。…じゃあティータ」
「かわいいー! フリフリでふわふわなのー!」
「確かにこれはすごい。ありがとうございました。…では、採点お願いします!」
「六点、九点、六点、九点、五点! 合計は…三十四点! 最高得点出ました! 暫定一位です!」
興奮に満ちた拍手と歓声にもノハは興味なさげで、マイペースにステージから降りていった。
「これは激戦が予想されますね! 続いては、この人です!」
『今宵の彼はエロ可愛い! セクシーなの? キュートなの? キミはどっちだボクはどっちも! さあ、僕を見て見て! エントリーナンバー三番、世具蒼太!』
やたら体をくねらせて入ってきた蒼太は真っ赤なチャイナドレスを身に着けていた。緑がかった髪とものすごいコントラストをかもし出している。その長い髪も中華娘らしく三つ編みとお団子で構成された髪形に結われている。さらにつけ睫毛まで完備したフルメイクという本気っぷりだ。背丈が低いせいか体にフィットしたチャイナドレスでも難なく着こなしている。スリットが際どい。見えないあたり下着も女性用なのだろう。気合の入れ方が違う。
「部長自ら参戦とは本気だなぁ放課後倶楽部」
「ボクはママの全面バックアップの下今日この日を迎えたのだ!(笑) 衣装も髪型もママのおかげなんだー(笑) あ、でもメイクはしうちゃんがやってくれたのーこのつけまとかさーしうちゃんのなんだよー(笑)」
蒼太はにやにやしながら語る。そこには多分に惚気が含まれており、観客席の大勢の男子がそろって(リア充爆発しろ)と念じたのは言うまでもない。とはいえ、二人もプロフェッショナルな女性を味方につけているだけあって、蒼太の女装はクオリティが高い。周囲の歓声に応えてセクシーポーズを決める蒼太。しかしこの部長、ノリノリである。
「校長、どうでしょう」
「男に見えん。つまらん」
「まあそう言うと思いましたよ。えーとじゃあルカさん」
「スリットが深すぎますね」
「非常に簡潔なコメントありがとうございます。それでは、採点をお願いします!」
「七点、九点、四点、八点、五点…合計は三十三点です! ノハには一歩及ばなかったー!」
「うっそー!くやしー!仇を取ってくれー!」
蒼太がステージを去ると観客席は期待に騒がしくなった。そこに、アレックスが戻ってくる。ソウルはステージの淵に寄って行って話を聞きに行った。
「どうでした?」
「何のことはない、鼻血の出血多量で貧血だ。保健室で休んでもらっているよ。レストの観察付きでね。本当は霧がよかったんだが、まだ着替えが終わっていなかったらしい」
「そうですか。しかしよかったですね、思ったより騒ぎにならなくて」
「さすがの彼もキャパオーバーだったみたいだ。写真が撮れなかったとかうわ言を呟いていたが、彼のことだ、誰か撮影した人を探し出して高値で買い取るくらいのことはするだろう。で、今どこまで行ったんだい?」
「ちょうど次が最後ですね」
「おっ、間に合ったみたいだね、嬉しいな」
アレックスがステージから離れるのを横目で見ながら、ソウルはマイクの電源を入れた。




