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ネタ女装部門


 その頃、外から体育館の様子を窺う一つの影。

 「入校許可証持っていったのに正門から入れなかった…裏門にも人がいたし…どっかから入れないかなぁ…」


***


 男装部門の激戦の興奮冷めやらぬまま、コンテストは続いていく。


 「さぁ、ここからはいよいよ女装部門が始まります! 始めはネタ女装部門から参りましょう!」


 ソウルの声に拍手と期待の声が上がる。


 「ネタ女装部門には三人がエントリーしています! まぁ目に痛い光景が繰り広げられること必至の方々ばかりですね! 審査員の皆さん、頑張って採点してください! それでは、参りましょう! ここからはエントリー申込み順となります」


『これほどこの男を奮起させたのは何なのか!? そしてどうしてこうなった!? 花神楽No.1ガチムチがまさかの女装! 今宵の私はヒロインだ!! エントリーナンバー一番、アレックス・ラドフォード!!』


 アレックスがステージに上がるやいなや、黄色い声に混じって悲鳴のような歓声が上がった。それもそのはず、アレックスはこともあろうに花神楽高校の女子制服を着ていたのだ。シャツや上着が今にもはち切れそうなところを見ると女子生徒から借りたようだ。まあ特注だったらそれこそその熱意が恐ろしいが。


 「うわあこれはいきなり目に痛い。誰が貸してくれたんですかアレックス先生」

 「祐未が貸してくれたんだ! 感謝するよ我が女神よ!」

 「あとで着たらすごいことになりそうですね、伸びちゃって」

 「ははは!」

 「えー…それじゃあえーと、ティータ、どうだ?」

 「先生可愛いのー!」

 「お前あれが可愛いというのか」

 「失礼だねソウル! ありがとうティータ!」

 「では校長」

 「似合わなさではかなりのものだがやたらさわやかなのがむかつく」

 「校長らしいコメントありがとうございます。それでは審査員の皆さん、採点をお願いします!」


 「五点、七点、三点、六点、八点…合計、二十九点です!」

 「うーん、パッとしないね」

 「ありがとうございました。さあ、続いては、この方です!」


『ピンクのナース服に白いニーソックス! 輝く絶対領域に君は萌えることができるか!? エントリーナンバー二番! 内原黒人!!』


 少し戸惑いがちに出てきた内原にまたもや歓声が上がった。今度は笑い声が多い。その歓声に内原はさらに萎縮してしまったようで、背の高い体が縮こまっている。


 「内原さん、お察しします」

 「なんだってこんなことしなくちゃいけないんだ…」

 「しっかし丈短いですねー」

 「僕が普通のサイズ着たら普通こうなります」


 ピンクのナース服はワンピースの形状だったが、丈は膝上をゆうに通り越している。タイトなだけに大変際どい。これが女性であればサービスショットだが、着ているのは色黒の成人男性である。そのスカートと白いニーソックスの間の足も、男の足では台無しにもほどがある。

 しかし、それにそそられた者がただ一人。


 「うん、この似合わなさ絶妙だ。アレックスと違って嫌がっているのがまたオツだな」

 「校長、勝手にコメントしないでください、振りますんで。…じゃああとは、ライドさん、いかがでしょう」

 「えっ、えーっと…あー…よく、着られましたね、それ…」

 「ホントですよ」

 「それでは、採点をお願いします!」


 「六点、八点、二点、七点、九点…合計、三十二点! アレックス先生を上回ったぁっ!」


 歓声が上がった。花子がこの時点で満点に近い九点をつけた。女装部門になり水を得た魚のようにイキイキとし出している。もうすでにエントリー者が分かっている生徒たちは、次に期待をかけていた。


 「それでは、ネタ女装部門、最後のエントリーです!」


『SAN値直葬! 狂気の沙汰! 三十七歳独身男性の女装がついに登場! エントリーナンバー三番! 深夜霧!!』


 悲鳴と笑い声で会場は最大音量に達した。三十七歳独身男性はもはや開き直りというと名のある種の悟りに達したのか、案外堂々としている。その姿はアイドルを思わせるフリルたっぷりのドレスである。服装が女性的なだけで、そこにいるのはまぎれもなく男性だった。もはや女装になっていない。


 「わーラスボス来ちゃいましたね」

 「ラスボスって何だよ」

 「破壊力的な意味で」

 「あー…すいませんね見苦しいものをお見せしちゃって」

 「これこそネタ女装って感じですねー。さて…校長お待ちくださいね先に他の方聞きますから。それでは奈月くん」

 「ぶっ飛んでるよね。さっきの用務員さんもすごかったけど」

 「確かに。…はい、お待たせしました校長」


 花子は思わせぶりにマイクを取ると、噛み締めるように言葉を発した。


 「…この似合わなさ…滲み出る男性感…どこをとっても完璧だ。さすが私が見込んだ男だ。素晴らしいぞ深夜」

 「はははさすが校長…何でちょっと嬉しそうなんですか深夜先生」

 「恋は何とかって言うけど…ここまでとはね」


 観客席の直樹の声は、誰に届くともなく消える。


 「それでは採点です! これは色んな意味で期待できますよ!」


 「五点、八点、二点、八点、…十点! おおっとここで校長からコンテスト初の満点が出たぁっ!! 合計は…三十三点! 内原さんを僅差で上回ったーっ!! ネタ女装部門大賞は深夜先生に決定です!!」


 歓声が沸く。深夜は喜んでいいのか、という複雑な表情をしたままステージを出て行った。

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