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男装部門

『面白そうだったから、という理由ながら、トレードマークを捨てて本気の男装! 演劇部の全面バックアップの元、大賞を目指す期待の一年生! エントリーナンバー一番、リアトリス・リニ!』


 颯爽と、堂々と登場したリアトリスは、執事服に身を包んでいた。その金髪にいつもの三つ編みはない。一つにまとめリボンで結んである。執事服という特殊な服で勝負できたのも、彼女が演劇部に所属している故だろう。


 「おおリアトリス…リアトリスだよな?」

 「なんですかそれー。ちゃんと私ですよー?」

 「いやぁ、やっぱりいつもの三つ編みないと誰だか一瞬分からないなぁって」

 「失礼ですねー」

 「いやごめんな。…さて、今回のコンセプトは?」

 「え?いや、これ私が選んだんじゃないですよ? 演劇部の先輩に相談したら『絶対執事服だ!』って力説されたですよー」

 「そ、そうか…」


 『面白そうだったから』という適当な理由も起因してか、リアトリスはあくまでマイペースだ。きっちりとした服装と口調のギャップが割と激しい。


 「それでは審査員にお話を伺いましょうか。んー、ライドさん」

 「あ、ぼ、僕ですか? えーっと…か、可愛いと思います…」

 「男装で可愛いってのもどうなんでしょうねぇ…ありがとうございます。では、奈月くん、何か」

 「んー、意外と似合ってるよね。髪型変えたのも大きいかも」

 「なるほど。ありがとうございます。それでは、採点といきましょう! 審査員の皆さん、どうぞ!」


 審査員たちには一から十までの数字が書かれた、演劇部特製の札を掲げる。


 「ライドさん六点、ティータくん五点、ルカさん七点、奈月くん八点、校長は四点、ということは…リアトリスの得点は三十点です!」


 拍手が沸く。満点の五十点中三十点ということはなかなかの点数だ。これにはこの後にもプレッシャーになるだろう。リアトリスは点数にも特に目立った反応を示すことなく、にこにこしながらステージを去って行った。


 「これは男装部門、期待できますよー! それでは、続いてエントリーナンバー二番!」


***


 ちょうどその頃、正門には一台のタクシーが横付けされた。後部座席から長身の男性が降りてくる。ちょうどかの体育教師と同じような金髪と青い目をしていて、白いスーツに身を包んでいる。

 彼は正門に立っている警備員に向けて入校証を差し出した。


 「これでいいかな? …ありがとう。ご苦労様」


 確認を受けて正門をくぐった男は受付でパンフレットをもらい、まっすぐ体育館に向かっていった。覗き込むと、二人目の出場者が紹介を受けているところだった。


 「おお、やってるやってる。…間に合ったかな?」


***


 『誰よりも強く、誰よりも男らしい…風紀三強と畏敬されるそんな彼女が今宵、男装で真の漢となる! さあ、ゲームの時間だ。 エントリーナンバー二番、白井裕未!』


 裕未は勢いよくステージの中央まで駆けていくと、何かの漫画かアニメか分からないがビシリとポーズを決めた。拍手と歓声が沸く。


 「おうおう、元気な登場だな」

 「へへっ、かっこいいだろー? 父さんに学ラン借りたんだ!」


 裕未の服装は父親に借りたという学ランだ。着ずに肩に羽織っている。男物なのでサイズが大きいようだがそれがどこか一昔前の長ランのようにも、マントのようにも見えた。どちらにせよ裕未はうまく着こなしている。


 「いいなぁ学ラン! コンセプトは?」

 「学ランマントはロマン! byテオ」

 「テオかよ」

 「ただマントが手に入らなくってこうなったんだよな。でも、直樹も似合うって言ってくれたからさぁ」

 「ほーなるほどな。それじゃあコメントをもらおうかな。ルカ、どうだ?」

 「確かにかっこいいけど…実際その着方してたら指導の対象だね」

 「ははは、さすが風紀委員のオカン。ありがとうございます。じゃあ、ティータ、どうぞ」

 「ゆみゆみかっこいいの!」

 「おーう! ありがとなティータ!」

 「ありがとうございます。それでは採点タイムです! 審査員の皆さん、お願いします!」


 「六点、八点、四点、六点、三点…ということは…裕未の得点は二十六点! リアトリスに一歩及ばず!」

 「ああーっ! くっそぉ!」

 「いやー惜しかったなぁ…ありがとうございました!」

 「校長! 来年もやってくれよ! 来年こそ優勝してやる!」


 裕未はなおも悔しそうにしていたが、最後は拍手に応えて笑顔でステージを降りていった。


 「さあ残るはあと一人! リアトリスが逃げ切るか、この最後の出場者が優勝を勝ち取るのか! 参りましょう、エントリーナンバー三番!」


 『現役モデル業界からの刺客! 見せ方を知り尽くした女! スタイルの良さは吉と出るか凶と出るか!? 男装部門最後の一人、エントリーナンバー三番、リックス・ウェグレー!』


 颯爽とステージに現れたリックスに一際黄色い声が上がった。リックスは黒のスーツ姿であった。女物のパンツスーツではなく、本物の男物のようだ。シャツは白でネクタイは赤。スラックスのポケットに手を入れた姿はとても様になっている。


 「おおーっ! かっけぇーっ!」

 「ありがとうございます」

 「これ…男物だよな? こんなサイズよくあったな」

 「仕事場でお願いしたら探してくれたんです」

 「いいなぁそういう縁があると」

 「そうですね。何かすごく真剣に選んでもらっちゃったので、大賞を取らないと申し訳なくなります」

 「それは確かに。では…校長、何かありますか」

 「うーん…似合ってはいるけど、男装かと言われると微妙なとこだな。スーツが男物ってだけじゃまだまだだ」

 「これは校長手厳しい。あとはじゃあ…ライドさん。…あれ?」


 ライドはソウルの言葉が耳に入っていないようで、ただひたすら呆けた顔でリックスを見つめている。花子が身を乗り出してライドの顔を覗き込んだ。


 「あー…これはダメなやつだ。採点もまともにできないな」

 「えっ、じゃあどうするんですか」

 「誰かライドの代わりに採点しろ。公正な審査にならん」

 「誰かって…」

 「じゃあ、私が代わりにやりましょうか?」

 「えっ?」


 花子の背後にいつの間にかあの金髪男が立っていた。思わず花子は一歩身を引く。その声と姿に会場は騒然となった。観客の一人が興奮したように立ち上がる。


 「アリーライングループの代表、ロス・アリーラインだ!」

 「へぇ、私を知ってるんだ。最近の高校生はすごいなぁ」

 「へっ…しゃ、社長!?」

 「ようライド!」


 これにはさすがのライドも我に返ったようで、あわてて立ち上がりペコペコしている。どうやらリックスが所属する芸能事務所はロスの会社がメインスポンサーであるらしく、様子を見に訪れたという。


 「もっと男らしいものを選んであげればよかったな。それじゃあまだ普通に女性だ」

 「えっ、あのスーツ、社長が選んだんですか!?」

 「そうだよ。…さて、リックスに関してはライドの代わりに私が採点する。これでいいでしょうか? 校長先生?」

 「構いませんよ」

 「リックス、厳しくつけるから覚悟しておけよ」

 「…それでは、気を取り直して、採点と参りましょう! これで男装部門、大賞が決まります! 皆さん、お願いします!」


 「五点、七点、七点、七点、三点……合計、二十九点! おおーっと! リアトリスに一歩及ばず! 男装部門、大賞は、リアトリスに決定です!」


 決まった瞬間、ファンファーレが鳴り、それ以上の歓声がこだました。リアトリスが再びステージに現れる。大賞となればやはり嬉しいのかいつも以上に笑顔だ。


 「おめでとうリアトリス!」

 「ありがとうございますー。まさかホントに大賞取れちゃうとは思わなかったですよー。先輩たちもかっこよかったですー」

 「表彰式はコンテストの最後に行われます! もう一度大きな拍手を! おめでとうございます!」


 割れんばかりの拍手喝采の中、リアトリスはステージを降りて行った。彼女が向かう先は、あの二人の元である。


 「ホントに大賞とっちゃったね、ひとまずおめでとう」

 「よかったですねぇ、購買無料券ですよぉ☆」

 「私たちで山分けしたいところですけど、演劇部に何枚か分けないといけないんですよねー」

 「僕ら別に購買あんま使わないしいいんじゃない? それより演劇部に貸し作っておいて損はないと思うけど」


 何やら物騒な会話が聞こえてくるのもいつものことである。

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