物語3
「ッ!!」
地面を削りながら進んできた見えない腕に首を締め上げられ、田中は小さな唸りを上げた。
腕に手を置き、見開いた『眼』を向ける。田中の放った赤い魔法陣は、透明の腕の前でガラスのような音を立てて弾けた。
「覚醒したか{デストラクション 劣化版}」
自身を殺そうとしていた腕の一本を、田中は魔法で潰した。次々と襲ってくる腕をナイフでさばきながら、放心状態で座り込んでいるダンカンに肉薄していく。
「本当だったら、アンタに聞きたいことがいっぱいあったんだがな」
「………」
真っ白に濁った感情のない『眼』は静かに前方を見続けていた。空間操作系統の魔法である{闇ノ手}は空間魔法の中でもランクが高く、それ相応の魔力を使う。それを連発することが出来る訳は、ダンカンという人物の『眼』が、宿主の生命力を感情で増幅さして魔力に換えているからだ。
「まあ、こんなんじゃお話もできないな。痛いだろ? 苦しいだろ? すぐに仲間のところへ送ってやる」
{亜空切断}を{空間安定 劣化版}で中和し、田中はダンカンの頭を掴んだ。光系統の中でも詠唱破棄のできない儀式魔法を唱え始めた。
「{魔力を糧に道を開け。一つ。汝、安らかに目を閉じよ}」
ダンカンから発せられていた空間系統の魔法が止まり、白濁とした『眼』も元に戻り、ゆっくりと閉じられた。
「{二つ。汝に、共に逝くものを選択させよう}」
ゆっくりとダンカンの周りにいくつかの霊が寄ってきた。そこら辺を彷徨っていた奴らが天への門をくぐりたがって現れたのか。こいつが選んできたのか。第三の句を詠むために息を大きく吸う。
「{ディバイン・スペル}!」
突然放たれた無属性の上級魔法が彼を邪魔した。
「……邪魔するな」
「さ、サークさん」
拘束用の呪いである{茨の眠り 劣化版}をダンカンに掛け、路地裏に現れた少年に顔を向ける。ひどく困惑した様子の少年は、握ったままの拳を震わせながら涙目で問いかけた。
「あなたが葬儀屋ですか?」
「ライン………」
「…ぼくの兄はあなたに殺されたんだ! {我、光を喰う魔獣。照らせ、闇の焔よ}」
ラインが開いた掌は、爪が食い込んで血だらけになっていた。儀式魔法が発動した瞬間、その血を媒体として、ラインの体を銀色の体毛が覆った。
「殺してやる」
鋭い爪が田中の心臓部分を捉えた。が、ギルドコートのみが残り、田中は背後からラインの首へとナイフを突き立てようとしているところだった。
「{テンペスト}」
濁った発音で、狼のようにかわったラインが魔法を唱えた。ロスタイム0で田中の体は吹っ飛び、一回転しながら着地をした。
「お前を殺すまで、おれは死なない」
鋭い爪が月光を受けて怪しく光る。
田中はため息をつきつつ、闇属性の{人払い}を唱えた。




