物語2
いつもの帰り道を、田中は歩いていた。ギルドの仕事は基本PM6時に終わるのだが、彼はいつも11時頃に帰っていた。ラインも、「家に帰っても退屈だし」と田中と同じくらいの時間に帰っていた。
暗い路地裏。この場所は窓に面していない。それでも、人間一人分が通り抜けられるかできないかの場所を過ぎると、大通りと大差ないくらいの隙間の空いた道へ出れるのだ。
「何のようですか」
広い場所へと出た田中は、急に立ち止まって振り返らずにそう言った。
「もう、見えていたのね」
小さなナイフを手に握った黒ずくめの女が、暗闇の中から現れた。ダンカンのメンバーのひとりだった。一瞬に感じた冷たい殺気に緊張して、ナイフを握る手はぐしょぐしょだった。
「何のようですか。警備士に連絡しますよ!」
紅白で彩られたギルドコートをひるがえし、慌てたような様子で田中は叫んだ。
「は? あんた、東支部のギルド員じゃない。なんでこんなところにいるの?」
「あなたこそなんですか!? 不審者ですよ!」
現れた女性の顔を見て、田中はハッとしたように怒りを見せた。普段からの顔見知りなので、田中も彼女もお互いを覚えていた。
「ごめんなさい。ちょっとした事件の捜査でね。こっちに犯人の魔力反応があったから。危険だからあなたもにげなさい」
田中は苦笑いしながら頭をかいた。
「最近物騒ですね」
「ええ」
彼女は避難者送還用の呪符を持ち、田中へと近づいていった。
ドガガガン
「だまされるな! そいつだ!」
ダンカンが、他三人のメンバーとともに民家の屋根から降ってきた。爆発音を起こすほどの威力で、田中の居た場所をダンカンの剣が叩き切った。
「え? かれはただの…」
「ずっとだましていやがったんだ!」
月明かりの下、砂煙がゆったりと立ちこもっていた。
「ダンカンさん! この煙…」
「すごいゆっくりして‥ぐがッ!」
「ウああああア!!」
ダンカンの背後で、連れてきた部下3人の悲鳴が聞こえた。振り向くと同時に、キラリと光る何かが見えた。
「ダンカンさんッ!!」
ばっと前へ飛び出た女のチーム員が、田中のワイヤーによって首を絡め取られた。信じられない光景を見て、ダンカンは『眼』を見開いた。
「ギフト…か?」
静かなつぶやきが聞こえ、ダンカンの視線の先に恐ろしく冷たい目をした男が立っていた。味方の姿がどこにもない。ふと、冷たいものが背筋をなで、彼は頭上を見上げた。青白い月を塞ぐようにして、4つのてるてる坊主が、屋根の鉄骨にぶら下がっていた。
「キィサぁぁァまぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!」
ダンカンの中で何かが切れた。




