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落ちこぼれエンチャンターとデバフの真髄(10)

 デバフの神様


 落ちこぼれエンチャンターとデバフの真髄(10)



 彼らはその日、追撃が付与された"遺物"を手に入れた。


 小部屋に鎮座する宝箱の中身がそれだった。


 価値は非常に高い物だ。迷宮の24階層で出るような代物とは思えないほどに。ビギナーズラックとでも表現すべきか、滅多に無い事である。それは類稀なる幸運と言えた。


「売るか? これで装備も新調できるだろうぜ」


 ラッキーだなぁ。そんな感想を述べたエンチャンターに対して勇者達は真剣な表情を向けた。


「ん? どした?」


 四人はお互いを見て頷いた後、発言を勇者に譲る。


「リヴァイス、その"遺物"は君の装備にしよう」

「は? 何言ってんだ。売れば全員何かしらの装備が上書きできるんだぞ?」

「それでもだよ。今まで君におんぶに抱っこでここまで連れて来て貰った。それは君が受け取るべきものだよ。僕たちは決めてたんだ。こんな装備が見つかったら必ず最初にリヴァイスに贈ろうって。これは僕達の感謝の印だよ」

「……何言ってんだ」


 見れば全員がリヴァイスを見て頷いたり、サムズアップしたり、腕を組んで笑ったりしていた。


 エンチャンターはこんな経験は初めてだった。パーティーメンバーからの総出のプレゼント。そもそもパーティーから『役立たず』と言われて追い出される人生だった。


 しかしこのパーティーでは全く違う経験をしてきた。今までにない素晴らしい経験を。


 人との触れ合いに飢えていた。


 ソロでもやっていける十分な実力はあった。だけど寂しさには勝てなかった。


 思えばいつもパーティー募集を探していたのだ。


 いつかは自分を認めてくれるパーティーに出逢えるはずだと言い聞かせて。


 出逢いは最悪と言っていい。


 ギルドマスターからの指名依頼だ。断ったらペナルティとまで言われて組まされそうになった。


 勇者ギルドから追い出された脱落者パーティー。追い出したパーティーが抜けた途端に落ちぶれてズタボロになっていた。ありえないスピードで冒険者ギルドにおいても降格処分で崖っぷちのパーティー。


 しかし、彼らは見事に立ち直りを果たした。エンチャンターの根気強い支援によって。


 彼らは強さも弱さも知った。


 恥も誇りも知った。


 パーティーとは何かについても理解を深めている。依然発展途上ではあるし未完成ではあるけれど。


 そんな彼らが、感謝を形にした。


 自分に向けて。


「泣かせんなよ」


 気づけば両目を覆っていた。手袋の指先が滲んでいく。


 しかし、感動はリアルに潰されるのが世の常だ。


 モンスターが襲ってくる。


「空気読めよ、コンチクショー!!」


 ズキリと心が痛む作者は無情にも大量のモンスターを送り込んだ。いや、迷宮がだよ? コホン。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 "遺物"は迷宮が落とす挑戦者への餌だと言われている。そうしてチャレンジャーの命を養分に迷宮は生き続けている、と言うのが研究者達の言い分だ。どうあれ、"遺物"は迷宮のどこからともなく出現して、冒険者達に夢を与え続けている。


 ギルドの鑑定所にお金を払えば、詳細を教えてくれる。そして"遺物"の証明書を発行してくれるのだ。この証明書付きが装備の価値を跳ね上げる。しかし、狙われる事を危惧してわざと発行せずに隠し持つ者も一定数存在する。発行するのは実力が付いて、箔がついたらと考える者もいるくらいだ。


 "遺物"で生き方が変わると言うのは大袈裟ではない。


 落ちこぼれエンチャンターが持つ剣は鉄製。しかし、追撃が付与されたエンチャント武器で、エンチャンターにとっての夢の武器の一つだ。攻撃力は低いが、魔法の追撃が彼の魔法威力に乗算される。


 手に入れた"遺物"は魔法追撃のアクセサリー。『豪炎のリング』。装備者の攻撃に火魔法が追加で発生する。例え攻撃が回避されても、追撃は必中する脅威の装備品。当然ここ【炎のダンジョン】では使い物にはならない。火属性のモンスターが跋扈する迷宮だからだ。同属性の攻撃は致命傷をかすり傷に変えるほど有益な防御手段だ。


 しかし、無いよりはいい。あと少しの差で結果が変わることは多々ある事だから。


 リヴァイスはこれで追撃装備二つを装備したことになる。彼の攻撃力は跳ね上がった。


 襲い来るモンスターの群れを撃退し、パーティーのレベルもグングン上がっていく。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 気づけば冒険者達から距離を空けられることが多くなった。日々絡んでくる酔っ払いたちの具合が悪くなっていくからだ。トイレの順番待ちに沈む者が多数現れだし、ギルドで迷惑を巻き起こしている。


 彼らに絡むと"なんかヤバい"という噂が広がった。


 デバフの神様は伊達ではない。


 勇者パーティーは最近平穏な冒険者暮らしができていた。腐りかけの美味しい部分を安く仕入れて遠慮も心配もなく食べる。腹痛はどこぞの酔っ払いが肩代わりしてくれるから。僧侶ファランカは『もう要らない』と思うまで存分に貝を食べた。勇者達も絡んでくる酔っ払いたちが来る度にその恩恵に預かった。特に貝が好きなわけではなかったが、腐りかけはことの他美味しい。


 大量のモンスターを片付けて、共有財産も増えてきた。


 倹約家(ケチンボ)のマーリが提案を。


「そろそろ装備を変えないといけない人は? ラキールの盾はまだ大丈夫? アキラスの剣は? リヴァイスのは大丈夫そうよね?」


 主に前衛の武具の消耗は激しい。近接の物理攻撃で刃こぼれや防具が痛むからだ。


「盾はいいんだ。大剣の方がちょっとな。研ぎに出したい」

「僕のはまだいけるよ。前回いいの買ってもらったからね」

「こっちは問題ない」


「それじゃ、大剣の研ぎ出しに行こうか? それとも大剣新調する? 多分今よりいいもの買えるんじゃないかな」


 倹約家(ケチンボ)から出たとは思えない言葉に驚愕の四名、マーリは苦笑した。


「あのね、私だってパーティーの事考えるわよ。前衛のあなた達のおかげで私らは安全に守られてるって最近はちゃんと理解してるつもり」

「そうですよぉ、いつもありがとうございます!!」


 後衛二人の感謝の言葉。前衛達は顔を見合わせて少し照れくさそうだった。思えばこんなやり取りもしたことがなかった。エンチャンターが役割分担を決めてからというもの、物事の一つ一つに意味があるのだと気付かされる毎日。


 誰かに感謝し、感謝される事がこんなに幸せな事なのだと。


 そんな当たり前の事を知らなかった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 大剣の研ぎ出しで鍛冶屋へ向かうのは女戦士ラキールと魔術師マーリ、そして着いてきてと頼まれたエンチャンター・リヴァイス。勇者と僧侶は他の消耗品を買い出しに共有資金を少し手にして出ていった。


 四人とエンチャンターは宿が別だ。元々彼はソロであるし、勇者達とは期間限定のパーティーだから。宿を一緒にと提案した彼らだったが、エンチャンターはそれを頑なに辞退した。心を許し始めたとはいえ、30階層到達でお別れである。


 もう十分に絆が深まっている。これで追い出されでもしたら立ち直れる気がしない。だから彼は30階層までの期間を本気で大事にしている。期間限定だからこそ、彼の気持ちは揺らいでいなかった。


「いらっしゃい……お、珍しいな、リヴァイス。連れがいるなんて」

「大きなお世話だ」


 リヴァイスはいい鍛冶屋がないかと問われ、行きつけの鍛冶屋に彼女たちを連れてきたのは初めてだった。心を許す人間にしか紹介しないのがリヴァイスと鍛冶屋の暗黙のルール。故に鍛冶屋は連れてきた者を無下にはしない。


 鍛冶屋の男は30歳、細マッチョで褐色。リヴァイスと同じ黒髪に黒目。短髪だが、嫁に拘りの髪型を毎日セットされている清潔感のある男だ。落ちこぼれエンチャンターとは数年来の付き合いで、気の置けない友でもある。


「こっちはダミアン、ここの店主だ。腕はいい」

「どうも」


「コッチの鎧がラキールで、ローブがマーリだ」

「「ちょっ……」」


 雑な紹介である。無駄を嫌う彼らしさにダミアンと呼ばれた男は微笑んだ。


「ラキール」


 エンチャンターに呼ばれた女戦士はハッとして自身の大剣を包んだ布ごとカウンターテーブルにそっと置く。


「研ぎをお願いしたい、んです」


 咄嗟に敬語に切り替えた女戦士を店主は"おや?"と眉を上げた。エンチャンターは苦笑する。パーティーではいいが、普段目上の人間にタメ口をすると、然るべき敬意は得られないと教えたことがあった。


 敬語で話しかけてくる相手は自分より下だと思う人間は、一定数世の中に存在する。しかし、大きな勘違いだ。そういう人間に人は心から着いて行きたいと思わない。親しき仲にも礼儀ありとはよく言ったもので、敬語は人を大きく二種類の者に分けるのだ。


 舐められてはいけない、そんな思いから敬語を使わない者がいる。上下関係をハッキリさせるためと思い込んで。しかしその実、"その程度"の人間だと思われるのだ。認識の齟齬が発生する。


 女戦士はそんな何気ない会話を思い出したのかもしれない。


 彼女はよく男が使う言葉を好んで話す様だった。それが彼女の処世術でもあったから。大きく見せないと、女で戦士は見下げられる事が多かったのかもしれない。エンチャンターはそれを否定したことは無い。彼女にとっての最適解だと思っていたから。そうしなければ強い自分を保てなかったのかもしれない。意地というのは時に自分を奮い立たせる大きな力だ。頑固とも言うけれど。


 彼女が自分のスタイルを曲げたのは何故か。


 エンチャンターの教えを実践して失敗した事が無かったからだ。此度はそのエンチャンター紹介の鍛冶屋。実践するには最高の舞台だった。


「かしこまりました。それでは見せていただきますね?」


 女戦士に衝撃が走る。これ程の丁寧さで接してきた者はいなかった。虚勢を張って怒鳴られることも偉そうだと言われて言い争ったこともあった。目の前の鍛冶屋は女戦士の期待を大いに上回った。


 "コレか"


 敬語の力は。


 もちろん態度も大事だが。


 女戦士の大剣は、この鍛冶屋以外に研ぎを注文することは二度となかった。




最後までお読み下さりありがとうございました!!

良ければ下の

☆を★★★★★にお願いします!

"(ノ*>∀<)ノ

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