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暇潰市 次話街 おむにバス  作者: 誘唄
「単話3」
47/293

卒業記念を消し去りたい

世の中って結構移り変わりがあって、気づくと色々なルールなどが変わっていることがありますよね。

将来的には、こんな体験をする人が増えるのかなぁ、という思いから書いてみました。



本項のタグ:「卒業記念」「若気の至り」「ノリと勢いと雰囲気に流された結果」「黒歴史(史実)」

 高校卒業の思い出に。


 そんなことを言いながら二人だけの秘密を作ったことを、完全に忘れていた。

 卒業してから十年。学生気分など無くなり、使えない上司と部下を怒鳴りながら仕事に追われる毎日。

 気分転換に合コンに参加した相手と以外に意気投合して、トントン拍子にコトが進んで。

 いざ結婚! となった直後に全部が壊れた。



「お前! 結婚してたなんて騙してたのか!」



 そんなことを言いながらキレて暴れて、彼は家を出て行った。

 全く覚えがない話。

 キレて窓口に怒鳴り込んで、自分の戸籍謄本を確認して、結婚していることを知った。いや、思い出した。


 高校卒業の思い出に。


 バカな自分がバカを相手にバカをやったことを思い出した。

 結婚できるようになって、卒業と同時に同棲するつもりでいた恋人とオンライン手続きで出した、結婚届け。

 ずっとずっと好きでいられると思った相手とは、大学に入って一月で別れた。世界にはもっと良い男がたくさんいるのだと、何故高校の時の私は思わなかったのだろうか。

 確かに格好良かった。優しいヤツだった。少し頭は悪かったし、物覚えが悪くて記念日忘れまくって遊びまわってムカついて、あぁもう腹立ってきた。

 大学に入って引越しして、いらない物は全部捨てた。そのせいで連絡先も残ってない。付き合っていた頃の写真をあげたアカウントも、もう覚えていない。

 未だに当時の自分のキス写真が残っているのかと、恥ずかしさとも怒りとも言えない思いに悶絶する。

 アカウントを消したかどうかも覚えていない。ちゃんと全部消去してからアカウントも消したよね? いや怒りに任せてアプリ全部消しただけのような気もする。

 うろ覚えのアプリ名を検索しても、アカウントもパスワードもわからないし、どうやって検索すれば写真が出てくるかわからない。見つけたくもないのになんで検索しているのかと、ベッドに飛び込んで呻き声を漏らした。


 一人になった部屋は散らかるばかりで、誰も片付けてくれない。忘れていったシャツを送りつけることも、捨てることも出来ずにいる。

 通知音に目を開けてベッドに座り直す。内容を確認すると、同窓会の誘いだった。

 同窓会。

 もしかしたら、あいつに再会出来るかもしれない。

 そう思った私は、その瞬間を思い描きながら力いっぱいに枕を殴った。





 同窓会当日。


 隙のない女と揶揄されるような普段と同様に、タイトパンツと少し厚手のオーバー。ちょっと型落ちしているがブランド物のポシェットを身につけて、駅前広場に群がる人混みの中にいた。

 卒業生一同という、雑多な人々が社交するための同窓会の会場では、人を探すのも殴りつけるのも難しい。

 たまたま出会えた旧友と盛り上がって、すっかり目的を忘れて同窓会は終了。

 その友人が連絡先を知っていたため呼び出して貰った。呼び出した当の本人は何か勘違いしているのか、用事があると言い張って去っていったので、一人で待ちぼうけをしている。

 そういえば昔もこんな風に部活上がりを待っていたなと思い出して、少しだけ懐かしい気分になる。


 友人が教えてくれたあいつの連絡先に、催促してやろうかと思いながら時間を見ると、日が変わるところだった。

 そういえば昔から遅刻してたな、と走ってくる姿を思い出し、改札から出てきた人の群れを眺める。

 その中の一人がこちらに向かってくるのが見えた。爽やに整えられた髪型に、少し良さげな男だと思ってしまったのが腹立たしい。垂れ目気味の目と引き攣ったような口元が不快そうに見えて、さらに苛立ちが増した。

 しかし無言で目の前に立たれて、その顔が以前よりも少し低く見えた。私の背が伸びたのも、革靴からヒールに変わったのもあるだろう。ちょっとだけ勝ち誇った気分になって、腕を組んで胸をそらすように言ってやる。



「よく来たわね」


「呼び出しておいてお前……変わってねえなぁ」



 そう言ってウンザリしたような素振りを見せられて、何様のつもりかと言いたくなる。

 本当なら問答無用で殴ってやりたかったけれど、ちゃんと離婚手続きをするためにも話し合いは必要だと自分に言い聞かせる。



「……とりあえず、どこか座りましょう」



 裁判離婚にしてもいいが、協議離婚で済むのならそれにこしたことはない。

 既にお腹はバイキングで満ちていたし、そこそこに酒も入っているせいで少し眠い。それでも懐かしい面影がある顔を見て、湧き上がる感情を理解して手に力がこもった。

 終業間際の立ち飲み屋に入り、とりあえず生を頼んで口を湿らせる。

 飲み干されていくビールを眺めて、そういえば二人で飲むのは初めてかもしれないと思う。



「どうやって話したらいいか悩んだんだけど……高校のさ、卒業の記念みたいなノリでやったの、覚えてるか?」


 少しだけ、今の年になってから付き合っていたら自然消滅しない恋になったのだろうかと思っていたら、向こうから話題に出してきた。


「あれさ、マジで処理されててさ。俺も家を出てたから、そういう書類とかみてなくってさ。全然忘れてて」


 その一言に身体が熱くなった気がした。他人の結婚の妨げになっておいて、そんな言い草があるのか。


「そんで、処理しようと思ったんだけど、一人で勝手にできないらしくって。でもお前、連絡先変えてたし、アプリの方も返事こないし。そしたら同窓会っていうからさ、会えるかなって」


 こちらを見ようともせずに、気まずそうに言葉を重ねていく顔を睨みながら、吹き出そうな熱にビールを流し込んで冷やしていく。空になったジョッキを叩きつけて、おかわりを頼む。

 まるでこちらだけが悪いような態度が、昔の喧嘩を思い出させて、テーブルに置かれたビールがすぐに空になった。


「そんでお前……ペース早いな……。お前もさ、他に相手とかできているだろうしさ。それなら、早いうちにやれることはやっといた方がいいよな。だから、今度手続きに」



「あんたねぇ! 先にまず謝んなさいよ! そのせいであたし別れたんだからね! どうしてくれんのよ!?」


 ビールをいくら飲み込んでも、沸き上がるものは収まらない。


「だいたい何が卒業の思い出よ、考えなしもいいとこじゃない! 連絡先だってなんとかして探すとかしたらいいじゃない! それにアプリ? なんで未だにそんなもの残しているのよ! とっくに消したに決まってるじゃない!」


 胸ぐらを掴み上げて懐かしい顔に罵声を浴びせれば、お前が言い出したんだろうなんて呟きながら顔をそらす。

 昔からそうやって他人のせいにして、自分は悪くないみたいな態度をするのが本当に嫌いで、同棲する前に大喧嘩して、それっきり。大学に入ってからは全部忘れようとして全部捨てて。

 それなのに、ほとんど変わらない顔を見ているだけで、どれだけ好きでいたのかを思い出してしまう。忘れていた二人の記憶が、どんどん蘇ってくる。



「あんた本当に全然変わってない! もう最低!」



 沸き上がる熱に呑まれるように吠えまくって、溢れ出る言葉はどんどん増えて止まらない。勝手に流れそうになる涙を押し込むようにビールを奪って空にした口はどんどん呂律が回らなくなっていく。

 昔のことを思い出して次々にあの時はこうだった、この時はこう言ったと、ぐるぐると浮かぶ思い出とぐるぐると回る景色に文句が止まらない。

 そんな私を昔のように抱きしめてくる腕を振り解こうとしても、世界はゆらゆらと揺れて回る。


 きっと、その時にはもう私はちゃんと意識を保っていなかったのだろう。そんな揺れがだんだん気持ち良くなって、微睡ながらしがみついて。しばらくその温もりと揺れに懐かしい気分を味わい続けていたけれど、いつしかこそばゆさと暑さが混じって身悶えた。






 こそばゆい温もりが遠くなって、肌寒さを感じて我に返ったとき、最初に思ったのは馬鹿野郎の一言だった。

 それを声にすることも出来ず、隣でこちらを見ていた全裸の男を殴りつけようとして、腕をとられた。



「あんた! なんっ……何してくれてんの!?」



 懐かしいとか可愛いとか、そんな言葉で誤魔化されると本気で思ってるわけ? 元カノが酔ってたからって、ヤッていいことと悪いことがあるでしょう。

 全裸のままでそんな言葉を浴びせながら、殴ろうとしては防がれる。



「だいたいあんた、離婚しようと思ってたんじゃないの!?」


「いや、まぁ、俺も同じ理由で振られたから、気持ちはわかるし、結局俺らって似てるんだなぁって」



 似たところがあればヨリが戻るとでも思っているのか、こいつは?

 掴まれたまま転がされて、体勢が入れ替わる。昔にはこうして覆い被さるのを照れていたのに、そんな素振りはどこにもない。



「あんたと一緒にしないでくれる!? あぁ、もう本当に最低! 信じられない! もうすぐにでも縁切りたい!」



 それでも笑う顔は当時のように優しくて、懐かしい匂いと体温が昔の幸せを感じていた頃の自分を蘇らせて、これ以上流されてはいけないと直感する。

 酔っていた時の勢いを取り戻そうとしても、呂律が回るようになった口は言葉に詰まった。



「夫にホテルで抱かれたから離婚って、意味わかんなくね?」



 そう言って塞がれた口の中で、協議離婚でも裁判離婚でもしてやるからと叫んでも、全然言葉は届かない。

 結局、ビールが流れ出るほどの汗をかくまで、満足に言葉を出せなかった。








「法改正によって18歳で(親の承諾不要で)結婚できるようになり、オンラインで結婚届の提出が可能になる」というのが現実的に近い将来で起こるようです。


これによって、本話のように「卒業記念の思い出づくりに(その場のノリで)オンラインで結婚手続き申請したら、本当に結婚していたことを10年後に理解した」という冗談としか思えないようなことが現実に起こるかもしれません。


もしかしたら皆様にも、そんな記憶にない結婚歴が残っているかも……?



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