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暇潰市 次話街 おむにバス  作者: 誘唄
ボケバカリン(ラブコメ)
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隣は嘘をつく人ぞ

前回まで夏のホラーイベントネタを書いたこともあり、全体的にホラーに偏ってきたような?

という理由で、じゃあラブコメでも書くか? となって書いてみました。

一応、4話連作となっていて、奇数話と偶数話で視点が違います。


本項のタグ:「ラブコメ」「高校生」「1/4:木下花梨きのした かりんの主観」


 

 隣の席の須藤誠一(すどう せいいち)は嘘つきだ。見た目はスマートな爽やか系で運動神経もそこそこ良く、成績も悪くない。その分悪いところが性格に偏ったのか、口を開けばどうでもいい嘘をつく。

 小さな頃からの幼なじみで、昔からその嘘で酷い目に遭わされてきた。


 幼稚園では、おとなしい犬だと騙された。撫でようとしたら吠えられて追いかけられた。

 小学校では、身体の違いで騙された。おとなになれば血が出て生えてくると言われて、血は出たけど生えなかった。

 中学校では、受験日が変わったと騙された。第一志望のお嬢様学生の制服が着たかったのに。


 そのせいで高校まで同じになってしまった。しかも同じクラスで、幼なじみだと吹聴されている。

 そこは嘘をついてくれればいいのに、嘘つきの嘘をつく理由はわからない。毎日たくさん嘘をついているのに言わなくていいことを、と思って視線を向けると、前席のクラスメイトに問いかけられていた。



「モカさんって幼なじみだっけ? 彼氏とかいる? どんなのが好みかな?」



 野球部頭の山本くんに優しく笑いかけているのが誠一だ。ちなみにモカは私の渾名で名前が木下花梨(きのした かりん)だから。キノシタがモッカに、モッカがモカになった。ちなみに初めてつけられた渾名がボケバカリンなのは未だに酷いと思っている。

 そういえば苗字でも嘘をつかれたことがある。本当は木の瓜が正しいけど瓜が常用漢字じゃないから当て字だろうって。誠一はこういう意味のわからない嘘も多い。



「カリンは俺と付き合っているからダメだよ」


「付き合ってないっ!」



 ほらまた嘘をついている。演劇部の先輩とか陸上部の部長さんとか、いろんな人に告白されるたびに嘘の言い訳に使われるこっちの身にもなって欲しい。直接なにも言ってこないのにめちゃくちゃ睨まれるんだよ。



「毎日毎日嘘をついてばっかり。なんでこんなに性格悪いのかなぁ。あ、山本くんも、嘘だからね! 信じなくていいからね!」


「あー、うん。そうだな」



 ほら、山本くんも呆れてうなだれちゃったじゃない。

 そんな姿を見てクスクスと笑う誠一は年々性格が悪くなっているような気がする。なんでこんなに捻くれてしまったんだろうか。

 その手をつかんで教室の外へと連れ出しても素直についてくるのに。

 いつのまにか差をつけられた背丈に、顔を見上げるようにして睨み付ける。



「毎日あっちこっちで嘘ばっかり言って回っているの、知っているんだからね。そのうち誰も信用してくれなくなるよ。って聞いてる?」



 人の頭を撫で回して、耳をなぞって、首筋にそっと触れて、襟の隙間から指先がゆっくりと。



「ってこら! その癖まだ治ってないの? 他の人にやったら本気で怒られるから治せって言ったよね?」



 誠一の手が好き勝手に触れようとするのを叩き落として、戻ってこようとする手を封じ込めるように握り締める。

 なんだっけ? カップル4つ?

 そんな風に両手を握り締めると、また口から嘘がこぼれた。



「カリン以外には出ない癖だから大丈夫だよ」


「は? そんな変な癖あるわけないじゃん。ちゃんと治さないと、社会に出たらセクハラで訴えられちゃうよ?」



 意味のわからない嘘もあれば、こういう子供みたいな嘘もある。誠一が嘘だと自覚しているのも私は知っている。じっと目を見ていると、困ったように顔を赤くして目を逸らすから。気まずくなるくらいなら嘘をつくのをやめればいいのに、なんで嘘をつくのか嘘つきの考えはわからない。



「カリンが最後まで自由にさせてくれれば治るよ」


「悪化させて治るなんてありません。全く、よくそんなに次から次へと嘘が出るよね?」



 そう言って呆れたのがちょっとイラッときたらしい。握り返された両手をそのままに、顔に誠一の胸板が迫ってくる。体格差を使うとは卑怯者め。

 どうにか抜け出そうとしてみたが、抵抗虚しく壁へと背中がぶつかった。頭の上にある誠一の綺麗な顔が少し勝ち誇ったように笑っているのが見えて、ちょっと心がざわついた。



「俺は本気でカリンが好きだ。付き合いたい。もっと触れていたい。ずっと一緒にいて欲しい」



 ざわつきが大きくなる。心も、周囲も、今の私たちの状況に振り回されるみたいに。

 握りあった手が熱くて、その熱にうかされたように顔まで熱くなってくる。真っ直ぐに見つめてくる綺麗な顔が、少し赤くなったまま再び口を開く。



「俺は、本気で、カリンが、好きだ」



 ゆっくりと染み込ませるように、その口からまた嘘が溢れる。

 両手を掴まれて、壁に押し付けられて、声に浸されて、挫けそうになる膝に力を入れる。

 顔がとても熱くて心臓が弾けそうなのは、負けん気に火がついたせいだろう。



「俺はカリンが好きだ。カリン以外と付き合う気はない。何度だって言うぞ。カリンが信じるまで、何度だって。俺はカリンが好」


 真っ赤になった顔で視線を逸らさないように耐えながら嘘をつき続ける困ったヤツ。自分の嘘で自分が困って、そこまでして嘘なんかつかなければいい。

 そんな嘘をつく口は塞いでしまえばいい。

 両手が使えないくらいで私が抵抗できないと思ったら大間違いだとわからせてやる。

 やり方は簡単。開くたびに嘘が溢れるその口から、言葉も吐息も漏れないように私の口で蓋をするだけ。

 視界の端でもっと赤くなった顔と唇に伝わってくる熱に、こちらまで熱くなる。顔だけでなく身体まで負けん気に火照って、撫でられた耳や首筋が痺れるように疼く。

 少しだけその感覚に囚われそうになりながら、逃げようと離れた口をもう一度塞いで離さないように追いかける。

 何度も嘘をつこうとして逃げる口を、何度でも塞いで邪魔をしてやると、やがて観念したのか両手を握る力が抜けた。

 ダンスのように身体を入れ替えて、今度はこちらが壁へと押しつけてやる。もちろん、嘘はつかせない。

 ざわついた心も周囲も、だんだんと静かになって熱だけが強く残る。

 負けないくらいに熱くなった吐息を残して顔を離すと、嘘のかわりに吐息がこぼれた。

 握りしめていた両手を離して、この上なく熱くなっている身体をそらして胸をはる。崩れて腰くらいまで下がった頭がうなだれているのを見て、まだ抜けない熱を吐き出すように勝ち誇る。



「嘘ばっかりつくから、そうやってやり込められるんだからね!」


「うるせぇ…………ボケバカリン……」



 半泣きになって顔を隠す姿と懐かしい呼び方に、幼い頃から後をついてきた姿を思い出す。結局その頃から変わっていないのが可愛くて、頭を撫で回す。



「嘘つきは嫌いだけど、誠一のことは好きだよ」


 そう言って笑いかけると、手を払って逃げ出すのも変わらない。



「うっさいバァカ! ボケバカリン! おまえなんかきらいだぁっ!」



 そんな様子を見て、私はやれやれと思いながら呟いた。


「まったくもう。泣かないと正直になれないんだから。ほんとうに、いつまでも子供よね」



 そんな姿が懐かしくて可愛くて、また見たく思ってしまう。

 熱く火照った顔を扇ぎながら教室へと振り返ると、山本くんが睨んでいた。

 死んだ魚のような目で、何の表情もなく、マーライオンのように口を開けて。

 それは演劇部や陸上部の先輩方が私を睨むのと同じような表情だった。

 目を逸らしつつ教室に入る。



「しっかりしろ、山本!」


「ただの致命傷だ! 気をしっかり持て!」


「だから既に手遅れだって言っただろう! 手の施しようがないんだよ!」



 他の男子が崩れ落ちた山本くんに声を掛けているのを聞きながら、次の授業までにちゃんと戻ってくるようにチャットする。

 既読スルーされた。

 たぶんまだ幼い頃と同じように、口をひき結んだ真っ赤な顔で泣いているのだろう。

 そんな様子を思い浮かべて、クスリと笑いがこぼれた。







あまり普通のラブコメって書いたことが無い気がします。

作者のくせなのか影響がでてしまうのか、登場人物がおかしな言動や行動や思考回路をしがちなので、「普通」を書くのが難しい……。

きっと登場人物がバカキャラに偏りがちなのも、作者が単なるバ(これ以上は涙でかすれて読めない)



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