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暇潰市 次話街 おむにバス  作者: 誘唄
仕事【春チャレンジ2026】
303/308

好感度調査役と誤認したヒロインポジ

なろうイベント「春チャレンジ2026」のお題「仕事」ということで書いてみた話。



本項のタグ:「春チャレンジ2026」「仕事」「いい仕事してますねぇ」「乙女ゲームで好感度を調査する仕事」「気づいていないのは主役だけ」「詐術」「ものは言いよう」

 

「あんたの仕事は好感度合いを測って攻略のヒントをあたしに教えることなんだから、ちゃんと調査してくれないと困るのよ」



 授業の終わった教室に飛び込んできた幼馴染の言葉に、僕は思わず首を傾げた。

 まるで乙女ゲームの主人公のような要求をしてくる彼女の振る舞いを思い返してみる。去年からずっと他の女子たちと一緒に有名どころの追っかけをしていた彼女は、ついに恋人候補を絞ったのだと思いいたり、果たしてそれは誰なのだろうかと促した。



「やっぱり男バス部長は外せないわ。爽やか細マッチョって良いわよね」



 言われて思い浮かぶのは猫を思わせるしなやかな体躯でコート中を縦横無尽に走り回る姿。少し不適な笑みを浮かべた笑みを向けられて1on1に付き合わされたことは数えきれない。



「お前、もうちょっと筋肉つけろよ。強めのあたりがきたら吹っ飛ぶんじゃないか?」



 ボールの奪い合いで押し負けてのしかかられたのは入部してすぐの頃で、言われたことがあり多少なりとも努力したのだが、より大きな努力をしていた彼は部長に選ばれるという実を結んだ。そんな経緯からか、たまに彼から1on1に誘われて部員たちを尻目にのしかかられるという痴態を晒しており、わりと気軽に話しかけてくれている。



「やっぱり、一緒にバスケを楽しめるくらいの運動神経がある子のほうが好みなのかしら」



 エアバスケを始めた彼女の足元はバタバタと忙しない。彼なら僕の足の間にするりと入り込んで体勢を崩してくるが、彼女の場合は蹴られて体勢を崩しそうだ。



「どちらかというとやっているうちに動きが良くなっていくのが楽しいみたいだよ。あ、でもそれなりに筋肉質なほうが触り心地がいいとか言ってたな」



 押し倒されるたびに筋肉チェックをされているけれど体質もあるのだろうか、なかなか簡単に筋肉がつかない。



「……そうなのね。筋トレするのは面倒だわ。それなら生徒会長はどう? ほらあたし字は綺麗だし、書記なんていいんじゃない? 人気のない生徒会室で二人っきりなんて、シチュエーションとしてもいいじゃない。生徒会長の好きなタイプは理知的なあたしに近いんじゃない?」



 エアメガネをくいくいとする彼女の言葉に、進級に合わせて書記から生徒会長になった先輩の顔を思い浮かべる。縁無しの細い眼鏡をした理知的で穏やかな笑みの彼は、いつも生徒会の面々の意見に耳を傾けている。

 確か全生徒を対象にしたアンケートが読めなかったと話を聞きに来たのが、先輩に初めて会ったときだ。最初はわりと怖かった覚えがあり、今でもあまり強く逆らえない。元々頭の出来が違うのだろう、気がついたら説き伏せられている。

 汚い字を書く奴がマトモにモノを考えているはずがないなんてことを始めの頃は言っていたが、アンケート内容を口頭で伝えたあとは態度が一変して、いいアイデアも読まれなければ無意味になるからと字の練習をさせられている。

 生徒会室に連れ込まれて小学生みたいに手を取られて書き取り練習をさせられるのはさすがに恥ずかしく、生徒会の面々も気を遣ってか席を外すことも少なくない。



「幼い弟妹がいてね。全く予想もつかない行動をよくするんだ。だからかな、こうして手の中で思う通りに動いてくれて、望んだ形が作られていくのを見るのはなんだか感動的なものがあるよ」



 背後から利き手を重ねられて耳元で囁かれた言葉を思い出す。書きながら密着しているためか、たまに耳に口が掠めているのがこそばゆいのだが、それを伝えても先輩は穏やかな悪い顔で続きを促す。そんな振る舞いから考えると、わりと先輩は乙女ゲームで言うと俺様系なのかもしれない。



「なんて言うか、会長は自分の思う形に近づいていくのが嬉しいみたいなところがあるかなぁ。だからこそ会長なんて役職を担えるんだろうけど」



 既に漢字の書き取り練習は基礎が終わったので、自主練習すると告げたら英文の筆記体と聞き取りが今年度から始まって未だに逃げ道が見つからない。結果として成績があがっているのが、なお逃げにくい理由でもある。



「……そうなんだ。お互いの折り合いがつけばいいけど、つかないときは面倒ね。あ、それなら科学だったかの先生は? あの白衣の。一見すると生徒の相手とか面倒くさそうに見えるけれど、恋人相手ならちゃんと大人として相手を立ててくれるんじゃない? ちょっと地味目だけど案外イケメンだし、足も長い気がするし」



 椅子に座って彼女が足を伸ばすと、引っ掛けてあったカバンにぶつかって落ちた。それを戻しながら癖毛と黒縁眼鏡で俯きがちな先生の姿が思い浮かぶ。

 どこにするか迷って白紙にしていた入部届を拾ってもらったのが先生と話す最初のきっかけだった。今年度では受け持っていたクラス担任が外れて担当授業以外は暇になっているらしい。ビーカーに入れられたコーヒーを飲みながら聞いたのを思い出す。

 特に学校の進路に強い影響がなく、部員も幽霊が多いためか準備室には人気がない。たまにくるのは僕と野良猫くらいだと微笑む先生にはあまり愛想というものがなく、僕も彼女の質問攻めがなければ足を運ぶようになるのはもっと遅かったと思う。先生は物静かではあるが気まぐれで、それこそ野良猫のように突然資料に没頭することも珍しくない。



「それでもわりと質問には答えてくれるし、別教科でも聞けば勉強を教えてくれるし、無料でコーヒーを貰っているし、として貰ってばかりなので何か僕にできることはありますか? なんでもしますよ?」



 そんな風にお礼を述べた際にもコーヒーを淹れてくれたが、少し心配をさせてしまったらしい。



「お前な、世の中には悪い大人がたくさんいるんだから……例えば、コーヒーに何か入れて攫うような奴だっているんだから、もう少し警戒心を持ってくれないと……俺が保たない」



 そんなことを言われた気がする。というのはすぐに僕は眠ってしまって、心配した先生が僕の服を緩めたり呼吸を確認したりしていたらしく、目覚めたときに心配したと珍しく慌てた様子だったから。しきりに呼吸確認の際に僕の口がひび割れたことを謝られたのは、そんな些細なことでとかえって申し訳ない気分になった。

 でもほんの少しだけ、もしかしたら本当にコーヒーに睡眠薬でも入れられたのだろうかなんていう冗談じみた思いもあり、ふと口をついて出てしまった。



「わりと心配症で気まぐれなんだけど、もしかしたらコーヒーに睡眠薬を入れて攫うようなことがある……なんて話をされたことがあったよ、そういえば。まぁ冗談としてはあまり上手くないかもね」



 例え話をされたのだと軌道修正をしてみたものの、なんだか慌てて取り繕ったようになってしまって思わず視線が泳ぐ。伸ばした足から目を逸らしたと勘違いしたような勝ち誇った彼女の顔が、足が戻るに合わせて引いていく。



「……そ、そっか。あー、わりと独占、溺愛系なのかもね。見た目に反して案外ヤバい人なのかな……。あ、でもそれだったら、見た目ヤバいけど中身は案外マトモだったりするかな、ほら先輩? って言っていいのかな? ヤバい髪色で髪型の。留年して同学年になったのに、わりと普通に溶け込んでるあの人。実はすごいいい感じだったりしない? あたしに見合う感じのおすすめだったりとか?」



 頭の中がヤバいかもしれない彼女が言っている先輩の、顔よりも先に派手な頭が思い浮かぶ。昨年大病で入院したために留年した先輩は見た目が派手なせいでよく喧嘩を売られている。そのため知らない人からは不真面目なせいで留年したと思われているらしい。

 うちの学生目当てで金を集ろうとした他校生から守ってくれたのが先輩に出会った最初のきっかけだ。あのときほど心から誰かをかっこいいと思ったことはなかったし、思ったことを意識もせずにそのまま口にしたことはない。それ以来、先輩には気にかけてもらっている。



「お前に手ェ出す奴がいたら、いつでも言え。俺が守ってやっから」



 ぶっきらぼうな言い方だったが耳まで真っ赤だったのは、先輩の良いところだと思う。見た目に反してわりと素直な人なので、良くも悪くも裏表がない。その分、仲の悪い相手とは徹底的に悪くなるし、仲の良い人とはとことん仲良しだ。

 でもあまり自分のことを話すのは得意ではないみたいで、病気のことを知ったのは入院したと聞いてから。見舞いに行くと嬉しそうに僕の手を握って、退院したら免許を取ってドライブしようと約束してくれた。いまはそのための勉強をしており、仲良しな人たちからも誘われているらしいが、わざわざ僕が先約だからと断っているのは頑固なのか律儀なのか。

 そんなことを思い出して、僕は彼女の期待するような顔に微笑んで答えた。



「確かに見た目よりも素直でいい人だよ。ただその分、頑固というか割り切りが強いところもあるかなぁ。なんて言うんだろう、ふところが深いというか、身内に甘いというか。あ、でも生徒会長とは仲良しみたいだったよ。なんでも好みが合うとか、見る目があるとかお互いに褒めあったことがあるんだって」



 あいにくと僕は二人の先輩が話している様子を見たことがない。お互いに行動範囲が違うのもあるだろうし、いまは学年が分かれたために付き合いにくさもあるのかもしれない。そんなことを思いながら今日は誰のところに行こうかと思いを馳せてみる。

 そんな僕の横で勢いよく立ち上がった彼女が大きく深呼吸を繰り返した。



「……そっか、そっかぁ。うん。わかった。ありがとう。それじゃああたしは今の情報を元にこれからのストーリーを考えるから、あんたはまた調査に励んでちょうだい」



 バシバシと僕の両肩を叩いて教室内の隅で談笑していた女子たちの元へと向かった彼女が、同じように肩を叩かれて迎えられる。

 今度はあっちで好感度合いの聞き取りをするのだろうかと思いながら、教室から出る。



「あんた本当いい仕事するわ!」



 迎えられた幼馴染がそんな言葉をかけられているのが聞こえて、彼女も同じ仕事をしているのだろうかと、また首を傾げた。



乙女ゲームの好感度回答担当という役割だと騙されているBLゲームのヒロイン、という話。

幼馴染は確信犯。


皆さんは誰に堕ちるところがお好みでしょうか。考えてしまったあなたは幼馴染ポジになる才能があるかもしれません。


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