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調達の際は、原則的に貴重な燃料は現地で有機物を拾い、それだけで済ます必要がある。実際、玲奈もまた物資が不足した初期に活躍した調達メンバーでもあり、その作業にも慣れっこだった。枯葉や腐葉土がコスト面から一番良い。しかし、それらがどこにおいても採集できるわけではない。そういう時は、特にコミュニティの初期メンバーは、猫や犬といった動物を生きているか死んでいるかにかかわらず、燃料生成タンクに突っ込んだし、どうしても燃料不足が深刻になった場合にだけ、そこらへんに大量に転がっている人間の死体をバラバラに解体して、燃料として使わせていただいたこともあった。
人間の死骸は最終手段ではあったが、皮肉にも、最もエネルギー転換効率が高かった。最初は玲奈を始め皆がそのような冒涜行為に拒絶反応を抱いていたが、次第にそれは薄れていった。生きるために必要という理由もあるが、それよりはむしろ、あまりにも多くの死体があちらこちらに散らかっており、なかなか彼・彼女ら一人一人に対する畏敬の念を保ち続けることが難しかったからだ。幾度たる調達により物資が充実した現在においては、そのような行為をする必要性は亡くなったが、それでも、すでに堕落しきった死者へのまなざしは容易に戻ることはなく、それは過酷な日々と困難を乗り越えてきた人間の特徴や勲章とさえなっていた。
だからこそ、コミュニティの古参であり、幾多もの艱難辛苦を乗り越え、一種の合理的行動をその身に刻み付けていた玲奈が、クーラーボックスから腐りかけのタマオを抱き上げ、ためらうことなく、燃料生成タンクの中に放り込んだことは何の驚くべきことはない。玲奈はふたを閉めた後も、さぼらずに燃料を生成しているかを見張るかのように燃料生成タンクを外側から見つめ続けた。新しい有機物を投入されたタンクは振動を強め、より大きな音を立て始めた。
玲奈はその様子をしばらく観察したのち、ふとテント側へと視線を向けた。そして、その瞬間、玲奈の表情が一瞬で石像のように固まった。玲奈の視線の先にあったのは、寝間着姿のまま立っていた桃花の姿だった。桃花はじっと玲奈の顔を見つめ、そして、玲奈のすぐそばにある燃料生成タンクへと目を向けた。その表情には、困惑と、底知れぬ失望が宿っていた。そして、それはまさに、つい先日に玲奈が目にした、タマオの亡骸の表情とまったく同じものだった。
玲奈は桃花の姿を見て、初めて自分の失態に気が付いた。今までの彼女の経験上、動物の死骸を燃料にリサイクルすることは褒められはすれど、非難されることはなかったからだ。
「見た?」
玲奈が恐る恐る尋ねると、桃花は少しだけ間を置いた後、ゆっくりと首を縦に振った。