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朝の始まりを告げる鳥の鳴き声が聞こえ始めたころ、玲奈はゆっくりと目を開けた。テントの中は外の朝日の光を透かし、まるで水中にいるかのような薄白い明るさだった。持参してきた寝袋は想像以上に快適で、野宿をしたとは思えないほどの快眠をすることができた。玲奈は身体を伸ばし、ふと横に目を向けたが、桃花と拓人はまだ目を閉じ、眠ったままだった。もう少しこのままの状態でいようかとも思ったが、じわりと便意を感じ始めた玲奈は、渋々暖かい寝袋を脱ぎ捨て、テントの外へ出た。
玲奈は車の中から携帯トイレや携帯型をシュレットを取り出し、テントの十メートル後ろほどの茂みで用を足した。そして、玲奈は携帯トイレを持ったままバギーの方へ歩いて行き、右後方部の給油口を開け、そこに中身が入った携帯トイレや、昨晩出た残飯等を詰め込んでいく。乱暴に給油口のふたを閉じた後、運転席へ行って、バギーのスイッチを入れると、猛々しい音とともにバギー全体が小刻みに振動を始めた。しばらくして鼻につく腐臭があたりに漂いだすと、玲奈は鼻をつまみながら車の外へ出た。貴重なエネルギーを生み出すためとはいえ、何度やってもこのにおいだけはいつまでたっても受けつかなかった。もちろん、これは玲奈だけではなく、大勢のフクシマコミュニティの人間に当てはまることだった。
トイレを済まし、車の燃料補給を終えてもなお、他の二人が起きてくる気配はいっこうになかった。そのため、玲奈は道の駅であった建物の周りをぶらぶらと散歩し、所々がサビたベンチに腰を下ろした。辺りにはもちろん人っ子一人いない。文明が滅び、人間の絶対数が激減して以降、一人ぼっちで過ごすことなど大して珍しいことではなくなった。しかし、突き抜けるような青空と澄んだ朝の空気が、朽ち果てた建物の寂寥感を一層掻き立て、玲奈に忘れかけていた孤独感を思い起こさせた。玲奈は何回か観た、人類最後に取り残された男を主人公としたアメリカ映画をふと思い出した。彼は何か月の間もたった一人で誰もいない街で日々を過ごしていた。現実は映画の世界ほど過酷なものではないものの、主人公が感じたであろう孤独感と不安を今ならごく正直に共感できるような気がした。
玲奈はそろそろ二人の内のどちらかが目覚めた頃だろうと思い、ベンチから立ち上がり、テントの方へと歩いて戻った。しかし、予想が外れ、車や焚火跡の周囲に、拓斗と桃花の姿はなかった。仕方なく玲奈は車の運転席に座り、エネルギー生成の進行度合いを確認してみた。メーターの針は半分程度までしか上がっておらず、まだ青森まで走り切るだけの燃料は生み出されていなかった。若干古い型のバギーであるため、投入した有機物のエネルギー転換効率は低い。そのため、大戦直前に販売された普通自動車と異なり、残飯と排せつ物のみではなかなか十分な燃料を生み出すことはできなかった。おそらく、桃花と拓人の分を考慮しても、不足するだろう。もったいないが、トランクに積んである固形燃料を使うしかない。玲奈はそう考え、バギーの後ろのトランクを開き、持ってきた燃料を確認しようとした。
しかし、玲奈が後部トランクを開けた瞬間、すえた臭いが玲奈の鼻を襲った。それは一番上に積み上げていたクーラーボックスから発せられる臭いだった。玲奈は眉をひそめながら蓋をあける。中に入っていたのは、冷蔵処置もむなしく、腐敗が進行してしまったタマオの亡骸だった。




