第3話
ツリーハウスを出てしばらく歩いていると、唐突に開けた場所に出る。
「ここら辺があいつの根城よ」
このあたりを縄張りにしているという大妖精をあいつ呼ばわりしているのは一旦置いておくとして、私は少なからず緊張感を感じていた。
自分の存在をどうやって説明すればいいのか、もっと言えばこのあたりを収める長である大妖精の機嫌を損ねてしまわないかどうか……そんなことを考えながら魔女さんの少し後ろを歩ていると木製の機関車のおもちゃで遊んでいるアゲハ蝶のような羽を生やしたピンク色の髪をした妖精の姿を視界に収めることが出来た。
「えっと……大妖精っていうのはもしかして」
まさかあのおもちゃで遊んでいる人……あぁいや妖精がこのあたりを縄張りにしている大妖精なんてことは……
「残念ながらあいつがこのあたりを治めている大妖精よ」
あった。どうやら、妖精というのは比較的子供じみた存在なのかもしれない。
「あっ魔女さんだ。おはよう。うん。朝の挨拶。何か用事? もしかして、新しいおもちゃ買ってきてくれたの? そう。買ってきてくれちゃったの?」
こちらの存在に気付いたらしい大妖精さんはきらきらと目を輝かせながら私たちの方へと視線を向け、少し固まってからむっとした表情を浮かべる。
「魔女さんといるの誰? そう。その見知らない大妖精。勝手に入ってきてもらったら困るんだけど。そう。困っちゃう」
「……まぁ落ち着いて聞いてちょうだい。今日はこの子のことで話があるの」
「……魔女さんが事情を知っているなら一応聞くけれど、そう。聞いちゃうけれど。ほかの場所を縄張りにしている大妖精を勝手につれてこないでよね。そう。不愉快」
魔女さんがそう言うと、大妖精さんはむっとしながらも会話に応じてくれそうな雰囲気を出してくれる。というか、彼女の反応からして私は一応大妖精の部類に入るらしい。
そこから魔女さんは大妖精さんに丁寧に事情を説明していく。私が異世界から来たこと、今のところ縄張りがないこと、魔女さんのツリーハウスを仮住まいにしていること……そういったことを話していくうちに大妖精さんは納得したのか徐々に笑顔を取り戻して私との会話にも応じてくれそうな雰囲気になってきた。
そこで、私は大妖精さんに一つの疑問をぶつける。
「……魔女さんは私が普通の妖精だといったんですけれど、私って大妖精なのか、普通の妖精なのかどっちなんですか?」
私の質問に対して、大妖精さんはきっぱりと答える。
「大妖精だよ。そう。ただの妖精じゃない。だって、あなたは大妖精にふさわしい力があるもの。そう。力を感じる」
その回答に対して、魔女さんは少々意外そうな表情を見せながらこちらを見る。
「あら、この子って大妖精の部類に入るのね。私、てっきりただの妖精かと思っていたわ」
「私から見たらただの妖精じゃないよ。そう。ただモノじゃない。だって、力はあるし、ちゃんとした知性も兼ね備えているもの。そう。条件を満たしてる」
「あーなるほど。確かに言われてみればそうね。知性だけで言えばあなたよりも上かも」
魔女さんの余計な一言で大妖精さんは再びむっとした表情を浮かべる。
「なに。まるで私がこの子よりも劣っているって言いたいの? そう。落ちぶれてるの?」
「そこまでは言っていないじゃない。ただ、元人間のこの子と純粋な妖精であるあなたとでは違いがありそうねって言っているだけ」
「なんかいい気分じゃないんだけど。そう。不愉快」
魔女さんと大妖精さんがけんかになりそうな雰囲気の中、私はひとりで勝手に慌てだす。当然だろう。これは私と大妖精さんの最初の挨拶だ。こんなところでけんかになってしまったらこのままあのツリーハウスに暮らせなくなる可能性すらある。
「あのー私は……」
「あなたは黙ってて。そう。静かにしてて」
「すみません……」
けんかの仲裁をしようにも時すでに遅し。漫画的な表現をするならば魔女さんと大妖精さんの間でバチバチと火花が飛び散っている。
「まぁいいわ。とりあえず顔合わせは終わりってことで……今度、パンと新しいおもちゃを買ってくるわ」
「……うんとおいしいパンと面白いおもちゃを買ってきてよ。そう。お詫びしてね」
しかし、二人のこういったやり取りは日常茶飯事なのか、魔女さんがあっさりと引き下がってけんかが終わる。
「それじゃあ私たちは家に戻るから。あと、しばらくの間はこの子は私の家にいるからね」
「うん。わかった。そう。了解したの。一応、忠告しておくけれどほかの子の縄張りに下手に行かない方がいいよ。そう。行っちゃダメ。私みたいにその行為を許すとは限らないし、そう。わからない」
「あぁはい。わかりました……」
私は二人のけんかが激しくならなかったことに安堵しつつ大妖精さんの忠告を耳に入れる。
その後、私は魔女さんの後を追うような形で大妖精さんの住処? を離れて行った。




