第1話
さて、異世界転生と言えばどういったものを想像するだろうか? チート能力で無双? それとも、前世の知識を生かして大活躍? 残念ながら、現状の私にはそのどちらもできそうにはない。
朝、目が覚めたらどこかの森の中で寝ころんでいた。
周りの状況を確認しようと起き上がってみると、自分の背丈がやけに小さく感じる。もっと言えば、背中に少々違和感がある。
何が起こったのだろうか? さらに言えば、この異変が起きる前に自分は何をしていたのだろうか?
何となく、ぼんやりと記憶しているのは森の中で寝ころんでいるような状況になる前。確か、駅のホームで学校に行くために電車を待っていたはずだ。そう、私は日本の学校に通う女子高生……だったと思う。残念ながら名前すら思い出せないが、そこだけは確かなはずだ。
はたして、自分の身に何が起こっているのか? それを考えながら周りを見回すと、すぐ近くに池があった。水も綺麗そうだし、もしかしたら自分の容姿を確認できるかもしれない。
そんな軽い気分で池をのぞいてみると驚きの事実が判明する。
なんと自分の背中にアゲハ蝶を思わせるような羽が生えていたのだ。さらに言えば、自らの容姿はぼんやりとした記憶の中にあるそれとはまったく違っていて、背は幼稚園児ぐらい、髪の毛は肩ほどまでの長さの黄緑色で、肌は白色、瞳はすんだ青色で白いワンピースに身を包んでいる。
「えぇ……どういうこと?」
あまりにも大きな変化に私は大きく困惑する。
何が起きているのか理解できない。それが第一の感想だ。
あまりにも状況が理解できない私はとりあえず周囲にほかの人がいないかという確認も含めて歩いてみることにした。いや、羽をうまく使えば飛べるのかもしれないが、なんというか、使い方がわからない。
しかし、どれだけ歩いても森の木々や茂みが続くばかりで人の気配はない。
時々、ドラゴンと思われる生物が空を飛んでいたり、それよりも低い高さで自分と似た容姿の妖精? が複数人ではしゃぎまわっていたりはするのだが、ドラゴンには声はかけられないし、妖精に話しかけたところで一緒に遊ばないかと誘われるだけで状況を説明してくれそうにはない。
そうして一日歩き回っている間に太陽はゆっくりと落ちて行き、だんだんと夜に近づいてきていた。
「どうしよう……」
私は途方に暮れたまま近くにあった大木に身を寄せて座り込む。
「あら、こんな時間に妖精が出歩いているなんて珍しいこともあるものね」
そうしているとふいに正面から声が聞こえてくる。どうやら、誰かが来ても気づかないぐらい考え込んでいたようだ。
そのようなことを考えながら顔を上げてみると、目の前には水色の髪と青い瞳が目を引く自分と同じぐらいの背丈の幼女が立っていた。
「……あの。あなたは?」
「この森に住んでいて私を知らないの? まぁいいわ。私はね。この森に住む魔女よ。人からは『永遠の魔女』なんて言われているわ」
「……永遠の魔女? 名前は?」
私が尋ねると、目の前の幼女……もとい、魔女さんは一瞬だけ悲しげな表情を浮かべた後に私の質問に答える。
「……そんなもの、とうに忘れてしまったわ。それで? あなたはどうしてこんなところを出歩いているの? それによく見たら、このあたりじゃ見かけない顔ね……迷子かしら?」
「あぁいえ。その……なんと言いますか、自分でも状況がよくわかっていなくて……」
そこから、私は目の前にいる魔女さんに事情を説明する。一通りの話を聞いた魔女さんは小さく首をかしげながらあごに手を当てて考え込み始める。
「……元々ジョシコーセーとかいう人間で駅で列車を待っていたら妖精になってここに来ていた? 変な話ね」
「あはは……やっぱり理解してもらえないような感じですかね?」
「そうね。状況はよくわからないけれど、あなたが困っていることはわかったわ。とりあえず、うちに来る? 私、この近くに住んでいるから」
そう言いながら魔女さんは私の方へ手を差し伸べる。
「……ありがとうございます」
私はその手を取ってから立ち上がる。
「さてと。さっそく案内するからついてきてちょうだい」
魔女さんはそう言うと、私を誘導するような形で森の中を歩き始めた。
*
森の中を歩きながら、私は魔女さんからこの世界について話を聞いていた。どうやら、この世界はもともと魔法と科学が共存している世界だったのだが、科学文明が発達した結果世界中を巻き込むような大きな戦争が起こって、いったん文明が滅び現在は魔法が主流で科学文明はほとんどと言っていいほど存在していないそうだ。なので、世界のあちらこちら……この森の周辺にも科学文明の痕跡を感じされられるような遺物はあるものの、それの使い方や意味を知っている人類は減少傾向にあるのだという。
「着いたわよ。あのツリーハウスが私の家」
そんな話をしているうちに私たちは魔女さんの家に到着する。大きな大木の上に乗っかるような形で建てられているツリーハウスの近くに小さな池があり、魔女さんが言うには生活に必要な水はその池から調達したものを魔法できれいにして使っているのだとか。
「……時間も時間だし、この森のちゃんとした案内は明日にしましょうか。幸いにも私の家にはベッドが二つあるからちゃんと寝る場所もあるし。ほら、ついてきて」
そう言ってから魔女さんはツリーハウスの入り口につながっている階段を上り始める。私もその背中を追うような形で階段を上り、家の中へと入って行った。




