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「シャロンの喫茶店」シリーズ お嬢様のドールハウス  作者: Toru


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3/3

最終章 美亜

外は、秋の雨が静かに降っていた。

喫茶店「樹」の窓を叩く雨粒が、店内の灯りを淡く揺らす。

閉店時間を少し過ぎた店内には、

シャロンの立てる小さな物音だけが響いていた。


「……今日は、もう誰も来ないわね」


片付けを終え、ふと視線を落とすと、

カウンターの上に置かれた一冊の日記が目に入った。

――宮田絹枝の日記。

房江から託されたその日記は、

シャロンの胸に重く、そして温かい余韻を残していた。

読み終えたばかりのページには、

絹枝の最後の言葉が静かに刻まれている。

『私はずっと、あなたの隣にいたかった』

シャロンはそっと日記を閉じた。

その瞬間、ふわりとアールグレイの香りが漂う。


「……ミアさん?」

思わず振り返る。

誰もいないはずの店内。

しかし、足元に“何か”が落ちていた。

拾い上げると、それは――

あの欠けたボタンだった。


「……呼んでいるのね」


シャロンは静かに息を吸い、

決意を胸に灯した。


「房江さんと、美亜ちゃんに……会って伝えなきゃ。」


雨音が、まるで背中を押すように優しく響いた。



翌日。

喫茶店「樹」の扉が、軽やかな音を立てて開いた。

カランッ。


「こんにちは、シャロンさん」

房江と、その隣に小さな美亜が立っていた。


「いらっしゃいませ。……来てくださって、ありがとうございます」


三人は窓際の席に座った。

雨は止み、柔らかな光が差し込んでいる。

美亜は店内をきょろきょろと見回し、

ふと、カウンターの奥をじっと見つめた。


「……だれか、いるの?」

「え?」


シャロンと房江が振り返る。

もちろん、誰もいない。

しかし美亜は、

まるで“そこに誰かが立っている”かのように、

静かに微笑んだ。


「ミアって、だれ?」


その一言に、

シャロンの胸が震えた。

シャロンは、

絹枝、真理亜、そしてミアの物語を

ゆっくりと、丁寧に語り始めた。

房江は涙をこらえながら聞き、

美亜は不思議そうに、しかしどこか懐かしそうに頷いていた。

語り終えた時、

カウンターの奥を見つめて、美亜はぽつりと言った。


「……ミア、かなしいの?」


シャロンは答えられなかった。

ただ、美亜の小さな手をそっと握った。

美亜のその瞳には慈しみがあふれていた。



三人は、山手の人形作家記念館へ向かった。

あの日、シャロンが“違和感”を覚えた場所。

館内には、真理亜が生涯をかけて作った人形たちが静かに並んでいる。

美亜は展示室に入るなり、

まるで何かに導かれるように歩き出した。


「美亜ちゃん、危ないわ」

房江が呼びかけても、

美亜は振り返らない。

向かった先は――

中庭の奥にある、小さな教会。


「ここ……知ってる」


美亜が呟いた瞬間、

教会の扉が、誰も触れていないのに

ゆっくりと開いた。

中には、

白い布に包まれた一体の人形が置かれていた。

――ミア人形。

欠けたボタンが、

光を反射してかすかに揺れている。

シャロンは息を呑んだ。


「……ミアさん」


その時だった。

背後に、柔らかな気配が立つ。

振り返ると――

そこに“ミア”が立っていた。

あの日、記念館で見たメイド。

絹枝にも、真理亜にも似ている。

しかし、どちらでもない。


「……お待ちしておりました」


ミアは深く頭を下げた。

房江は震える声で言った。


「あなたは……誰なの?」


ミアは静かに微笑んだ。


「私は、絹枝様の願い。

真理亜お嬢様の祈り。

そして――

この子たちが紡いだ“想い”の形です」


ミアは美亜の前に膝をつき、

優しく手を取った。


「あなたは……あの方の続き。

どうか、お幸せに」

挿絵(By みてみん)

美亜は、まるで理解しているかのように頷いた。

ミアはシャロンに向き直る。


「あなたが繋いでくれました。

ありがとう、シャロンさん」


その姿は、光に溶けるように薄れていく。


「もう……大丈夫です」


ミアは最後にそう呟き、静かに消えた。

ミア人形のボタンが、ひときわ強く光を放つ。

ミアが消えた後、美亜の小さな掌の中には、あのちょっと歪で欠けたボタンが残されていた。



数日後。


「こんにちは!」

「いらっしゃい美亜ちゃん」

「今日の美亜ちゃん、なんだかお人形さんみたいに可愛いわね!」

「えへへ、ありがとう翔子お姉ちゃん、リサお姉ちゃん!」


翔子もリサも、もうすっかり美亜と仲良くなっています。


美亜は喫茶店「樹」に来ると、

カウンターの奥が見える、いつもの席に座りました。


「いらっしゃい、美亜ちゃん」

シャロンは微笑みながら美亜を迎えます。


「今日は何のケーキにしますか?」

「う〜ん…やっぱり、いつもの!」

「うふふ、はい、かしこまりました。」


そう言うと、シャロンはケーキと紅茶を美亜の前に持ってきました。


「お待たせしました、「樹」特製タルト・タタンとアールグレイです。」


その瞬間、店内にアールグレイの香りがふわりと広がる。

それはかつての冷ややかな気配ではなく、どこか日向のような温かい香りだった。


美亜はカウンターの奥を見つめて微笑みました。


「…また来てるね、ミア」


シャロンは驚かなかった。

むしろ、自然に感じられた。

シャロンは静かに微笑んだ。


「ええ……きっと、ずっとね」


雨上がりの光が、

店内の人形たちを優しく照らしていました。


お嬢様のドールハウス 完



「お嬢様のドールハウス」完結です。

ここまで読んで下さった方、ありがとうございました。

三代にわたる孤独と愛が、シャロンという存在を通じて「日向のような温かい香り」へと昇華されました。

ミアの正体ですが、

「人の願いと祈り、人形たちの叶えてあげたいという想いの形」にしました。

今回はいつもと違って、静謐で美しいゴシック・ロマンを目指して見ました。

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