第32話 怖い顔の治癒士、盗賊に会う
その日の朝は晴れていた。
宿を出て、街道を北へ歩き始めた。昨日より空気が冷たい。北に向かっているせいだとアルフが言った。
チャが荷物の上で丸くなっていた。
「……寒くないか」と俺は聞いた。
「にゃ」とチャが答えた。
「……そうか」
アルフが「……猫は寒さに強い」と言った。
「……そうか」
「……心配するなら自分の防寒を心配しろ」
「……問題ない」
「……本当に問題ないのか」
「……前の世界でも冬に薄着で歩いていた。慣れている」
「……それは単に無頓着なだけではないか」
「……そうかもしれない」
チャが「にゃ」と言った。アルフが「チャはどう思う」と聞いた。チャがまた「にゃ」と言った。
「……チャも無頓着だと思っているようだ」とアルフが言った。
「……チャは寒さに強いから関係ない話だ」
「……話をすり替えるな」
しばらく黙って歩いた。街道は続く。人通りは少ない。
◆ ◆ ◆
昼前、街道が森の中に入るあたりで、前方に人影が見えた。
四人だ。街道の真ん中に立っている。動いていない。待っている。
アルフが「……止まれ」と小声で言った。
俺は止まった。
四人の様子を見た。全員、武装している。先頭の男は頭の真ん中だけ髪を残して両側を剃り上げていた。鶏のとさかのような形だ。体格がいい。腰に剣を差している。残りの三人はそれぞれ斧、棍棒、棍棒を持っていた。
「……盗賊か」と俺は言った。
「……そうだろう」とアルフが言った。「森の中で待ち伏せ。よくある手口だ」
「……どうする」
「……通り道だ。通るしかない」
俺たちは歩き始めた。
四人との距離が縮まった。
先頭の男、モヒカンの男が腕を組んだ。足を開いた。仁王立ちだ。後ろの三人も武器を構えた。
「おうおう、旅人さんよ」とモヒカンの男が言った。よく通る声だった。場慣れした声だ。「この道を通りたきゃ、通行料を払ってもらおうか。俺たちは親切だから、命は取らない。財布の中身だけ置いていきな」
後ろの三人が「へへへ」と笑った。斧を持った男が斧を肩に担いだ。棍棒の二人が棍棒を構えた。
堂々たる登場だった。
俺たちが近づいた。
モヒカンの男が俺の顔を見た。
笑いが止まった。
「お、おう……」と言いかけた。
口が開いたまま、止まった。
目が、開いた。限界まで開いた。白目が見えた。
体が後ろに傾いた。
そのまま、地面に倒れた。大の字だった。
後ろの三人が「頭!?」と声を上げた。
一人目、斧を持った男が俺を見た。顔が一瞬で青くなった。肩に担いでいた斧が手から滑り落ちた。地面に刺さった。男が「ひっ」と言いながら後退りした。後退りしながら木の根に躓いて、尻もちをついた。そのまま木の陰に転がり込んだ。
二人目、棍棒を持った男が俺を見た。棍棒を構えたまま固まった。固まったまま、ゆっくりと前に傾いた。傾いたが、倒れなかった。
立ったまま、目が半開きになった。棍棒を握ったまま、止まった。
立ったまま気絶していた。
三人目、もう一人の棍棒を持った男が、二人目を見た。「おい、立ったまま気絶してるぞ」と言った。それから俺を見た。手の棍棒を落とした。
落ちた棍棒が、二人目の男の足に直撃した。
「……っ!」
二人目の男が足を押さえてその場に崩れた。立ったまま気絶していたのが、足の痛みで目が覚めたらしい。目が覚めた瞬間に俺の顔が正面にあった。また気絶した。今度は普通に倒れた。
三人目の男が「お、おい!」と叫んだ。俺を見た。「な、なんなんだ、あんた……!」と言いながら、きびすを返して森の中に走り去った。足音が遠ざかった。
静かになった。
街道の真ん中に、モヒカンの男と棍棒の男が倒れていた。斧の男が木の陰に隠れていた。地面に斧が刺さったままだった。
チャが「にゃ」と言った。
「……何が起きたか、わからなかった」と俺は言った。
「……俺にはわかった」とアルフが言った。声が少し疲れていた。
◆ ◆ ◆
「……このままにしておくわけにはいかない」と俺は言った。
「……何をするつもりだ」
「……怪我をしている者がいる」
アルフが「……盗賊だぞ」と言った。
「……怪我をしている」
「……なぜ棍棒が落ちたかは、こいつら自身の問題だ」
「……それでも怪我をしている」
アルフが何か言いかけて、止まった。それから「……好きにしろ」と言った。
倒れた二人に近づいた。モヒカンの男は気絶しているだけで怪我はない。棍棒の男は足を押さえていた。棍棒が直撃した足だ。
男が俺を見た。また気絶しそうな顔になった。
「……足を見せてくれ」と俺は言った。
「……ひ、ひいっ」
「……怪我の確認だ。治癒士だ」
「……ち、治癒士……?」
「……そうだ」
「……そ、その顔で……?」
「……この顔で」
男がしばらく俺の顔と俺の言葉の間で揺れていた。それから恐る恐る足を差し出した。
光を当てた。骨にひびが入っていた。
「……ひびが入っている。治す」
「……え、あ、は、はい……」
治した。男が「……温かい……」と小声で言った。しばらく自分の足を見た。それから「……なんで盗賊を治すんだ……」と言った。
「……怪我をしていたから」
「……それだけか」
「……それだけだ」
男がしばらく黙った。俺の顔を見た。怖そうな顔をしながら、それでも目を逸らさなかった。
「……あんた、本当に治癒士か」
「……そうだ」
「……その顔で盗賊を治す治癒士が、この世にいるのか……」
「……いる。俺だ」
男が何か言いかけて、止まった。言葉が出てこないようだった。
アルフが「……そろそろ行くぞ」と言った。
「……わかった」
立ち上がりかけたところで、木の陰から斧の男が恐る恐る顔を出した。
「……あ、あんたら、行くのか……」
「……そうだ」と俺は言った。「北に向かっている」
「……頭は……」
「……気絶しているだけだ。しばらくすれば目が覚める」
斧の男がモヒカンの男を見た。街道に大の字で倒れている。それから俺を見た。
「……な、なんで頭、倒れたんだ……」
「……わからない」と俺は言った。「心当たりがない」
男が「……そうか……」と言った。納得していない顔だったが、それ以上は聞かなかった。地面に刺さった斧を引き抜いて、仲間のそばに座った。
俺たちは歩き始めた。
◆ ◆ ◆
森を抜けたところで、アルフが口を開いた。
「……治した」
「……怪我をしていた」
「……盗賊だぞ」
「……怪我をしていた」
アルフがしばらく黙った。
「……お前と旅をしていると、いろいろ想定外のことが起きる」
「……俺は普通にしている」
「……それが想定外だ」
チャが「にゃ」と言った。
「……一つ聞いていいか」とアルフが言った。
「……何か」
「……あの棍棒が足に落ちた男。立ったまま気絶していたのを見て、どう思った」
俺は少し考えた。
「……珍しいと思った」
「……それだけか」
「……立ったまま気絶するのは、初めて見た。仕組みが気になった」
「……仕組み」
「……足に力が入ったまま意識が飛ぶことがあるのか、と思った。医学的に興味深かった」
アルフがまた黙った。
「……お前と話していると、やはりどこで笑えばいいかわからなくなる」
「……昨日も同じことを言った」
「……毎日言うことになると思う」
チャが荷物の上で伸びをした。それから丸くなった。
「……一つ教えてくれ」と俺は言った。
「……何か」
「……盗賊を治したのは、おかしかったか」
アルフが少し間を置いた。
「……おかしくはない」と言った。「ただ、お前以外の治癒士はしないと思う」
「……なぜ」
「……盗賊に手を貸す理由がないからだ。普通は」
「……俺には理由があった。怪我をしていた」
「……それがお前らしい、ということだ」
チャが「にゃ」と言った。
街道は続いていた。グラムハイン領まで、あと数日だろう。
盗賊に遭いました。
頭目のモヒカンの方が、俺の顔を見て倒れました。心当たりがありません。
棍棒の方が立ったまま気絶しました。仕組みが気になりました。足に棍棒が落ちて目が覚めた後、また気絶しました。怪我をしていたので治しました。
盗賊を治したことをアルフさんに指摘されました。怪我をしていたので治しました。
アルフさんが「毎日どこで笑えばいいかわからなくなると言うことになると思う」と言いました。そうかもしれません。




