第2食目 冒険者、弁当でパワーアップ!
翌朝。
アジノ屋の前に、見慣れぬ行列ができていた。
「な、なんだこの人数は……?」
味野味男は目を丸くする。
鎧を着た戦士、弓を背負った狩人、ローブ姿の魔法使い。まるでゲームやラノベのパーティー表紙のような人々が、店の前に列を作っていた。
「昨日のお客さんが村中に宣伝してくれたみたいだよ」
看板娘・甘味がエプロン姿で胸を張る。
「“食べれば強くなる弁当屋”だって!」
「お、おお……! なんか怪しいキャッチコピーになってないか……?」
しかし、客たちは疑いもせず期待の目を輝かせている。
味男はごつい腕をぶんと振り上げた。
「よし! なら今日も全力で作るぞぉ!」
炊き立ての白飯が、湯気を立てて輝く。
玉子を割り、半熟の黄身がとろりと広がる。
肉厚のとんかつを油に落とせば、ジュワッと黄金色の泡が弾けた。
「アジノ屋特製、かつ弁当! 食ってけ!」
戦士ががぶりと食べる。
「うおおっ、筋肉が膨れ上がっていく……!」
「わ、わたしの魔力が倍増してる!? 詠唱が速い!」
「俺の矢が軽い! 命中率が跳ね上がったぞ!」
店内は大騒ぎになった。
「……どうやら、昨日だけの偶然じゃなかったみたいだね」
「おう。アジノ屋の弁当には、本当に“魔力付与”が宿ってる!」
味男は豪快に笑った。
料理の腕を活かし、この異世界で再び立ち上がれるかもしれない――そんな希望が胸に芽生えた。
その日の午後。
「なぁ親父!」
昨日の冒険者三人組が、慌てて店に駆け込んできた。
「どうした? そんなに慌てて」
「村の外れに、でっかいイノシシ型モンスターが出たんだ! 俺たちだけじゃ勝てねぇ!」
「だが、アジノ屋の弁当さえあれば……!」
「なるほどな!」
味男は頷き、すぐに厨房へ戻る。
「弁当は戦う者の腹を満たすもんだ! しっかり食って、しっかり戦ってこい!」
特製の「スタミナ弁当」を手渡す。
分厚い牛肉のステーキに、にんにく醤油ダレをかけた豪快な一品だ。
「うおおおっ! 力がみなぎる!」
「これなら勝てる! 行くぞ!」
冒険者たちは意気揚々と飛び出して行った。
しばらくして。
「うわああああっ!」
外から悲鳴が聞こえた。
味男と甘味は顔を見合わせ、慌てて店を飛び出す。
森の入り口で、巨大なモンスターが暴れていた。
体長は馬ほどもあるイノシシ。牙は木の幹を軽々とへし折り、地面を踏み鳴らすたびに土煙が上がる。
「ひ、ひぃ……! やっぱりダメだ!」
「倒せねぇぞ!」
冒険者三人組は押されっぱなしだった。
だが、腹に弁当を詰め込んでいるおかげで、まだ倒れずに踏ん張っている。
「おいお前ら! 弱気になるな!」
味男が大声で叫ぶ。
「その弁当はな、俺の魂を込めた料理だ! 信じろ! 食ったお前らは絶対に負けねぇ!」
「親父……!」
三人は顔を上げ、再び武器を握りしめた。
「うおおおおっ!」
剣が光り、矢が飛び、炎の魔法がモンスターを襲う。
弁当パワーで強化された彼らは、見事に巨大イノシシを仕留めてみせた。
「や、やったぁぁぁ!」
「勝ったぞ!」
「アジノ屋の弁当のおかげだ!」
村人たちが歓声を上げ、英雄を見るような目で冒険者たちを称える。
同時に、その視線は味男にも注がれていた。
「アジノ屋ってすげぇな……!」
「弁当食っただけで、あんな強さになるなんて!」
「これから毎日通わなきゃ!」
味男は照れくさそうに頭をかく。
「はっはっは! だが、弁当は魔法じゃねぇ。あくまで“メシ”だ。食った奴の力を引き出すもんなんだ!」
「それがすごいんだよ!」
甘味が笑顔で父を見上げた。
「お父さん、またお店が賑やかになるね!」
味男は一瞬、胸が熱くなる。
二年前に妻を亡くし、沈んでいた心。潰れかけた店を守る力もなく、諦めかけていた自分。
だが今は――この異世界でなら、もう一度立ち上がれる。
娘と一緒に、新しいアジノ屋を作っていける。
「よし! 明日からもっと腕を振るうぞ! アジノ屋、異世界支店はここから大繁盛だぁ!」
味男の豪快な声に、村人たちの拍手と笑い声が重なった。
本日のお品書き 魔力弁当:かつ弁当(食べると、各ステータス小アップ)スタミナ弁当:(食べると、スタミナアップ+ど根性アップ)
ー第3食目へ続く。




