早く、早く!
鹿見夫婦。十五年ほど前からその名前を知られているテロリスト夫婦で、何度もメディアに露出している割に捕まった試しがない。息子と娘が一人ずついることは有名で、出産報告をメディアでやってのけた六月二十日と十月六日といえば知らない者はない。
「鹿見夫婦って、テロリスト夫婦の?」
「はい・・・・・」
僕の質問にそれだけ答えると、閃は俯いてしまった。
頭上で小鳥の鳴き声が高らかに空に響いてすぅっと吸い込まれていった。閃は顔を下げたままだ。
ぽうっとする頭をなすがままにしていると、いきなり閃が声を上げた。
「ちょっとこっちに来てください! 早く!」
何だと思って顔を向けると、閃が必死に手招きをしながら今にも走り出しそうに足を動かしていた。
閃はすぐに走り出す。僕がその後を追うと、スピードを上げて必死に走り始めた。
「何、何?」
ヒュッ、ヒュッと裏返りそうになる喉を気にかけながら聞く。閃は一度こっちをちらりと見て、また前を目指した。
「すいませんっ、また後で!」
そう言ったきり猛スピードで走り続けることしかしなかった。
角を右に左に曲がり、石畳の続く道が遥か遠くに消えたころ、やっとスピードを落として止まった。
息をするのも苦しくて、喉と胸が刺すように痛い。唾液が後から後から溢れて止まらない。
それもおさまった頃に、僕は閃に尋ねた。
「な、何?何があったの?何でいきなり、走り出したんだ」
閃は申し訳なさそうに顔を歪めて答えた。
「僕が協力してほしいっていう事と関係があるんです」
それから閃は事情を話し始めた。時々顔を悲しそうに歪めたり、憎らしげにしかめたり、かと思うと静かな無表情を作ったりしながら。
「さっきも言った通り、僕の親は鹿見夫婦です。今日のドーム爆破も親のしたことなんです。今までに何度も爆破事件を起こして、警察に追われて死にかけたことも、何度もあります」
そこまで言うと、堰が切れたみたいに話し始めた。
「このままじゃいつか絶対死ぬと思って、親から逃げてきました」
閃はふうっと息をついた。
「で、その事とお前が僕に頼んできた事と、どういう関係があるんだ」
閃は言った。
「今までずっと逃げてばっかりの生活だったから、僕には友達がいないんです。親もそのことは知っています」
「カモフラージュっていうわけか」
ようやく合点がいったので、僕は閃に顔を向けて聞いた。
「閃はこの後どうするんだ?」