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走れ  作者: 酉飼 改
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第一話 位置について

 西暦2009年にアメリカで起こった株価暴落が発端となった世界的経済危機は終息しないまま、三十年経った今も暗いため息があちこちから聞こえてくる。

 今から丁度百年前に起こった世界恐慌もアメリカが発端となったせいか、今のアメリカは各国メディアから蹴られ叩かれさげすまれ、あげつらわれて笑われて、過去の栄光と影響力は微塵もない。

 世界的に反米の動きが高まり、ここ五年でアメリカは四度のテロ攻撃を受けた。自由の国とうたわれた時代は去り、失敗の国と不名誉な呼び名がついた。


 長い不景気は教育や医療の分野にも暗い影を落とし、金のかかる大学院や大学病院の廃止が決まるのは早かった。

 人類から教育を奪ってはならないと誰かが声高に叫んだものの、教育と命のどちらが大切だと突き付けられれば、選ぶことなどできなかった。



 とうとう発展途上国から先に学校制度の廃止が決まっていき、かつての先進国も次々と教育を捨てて行く中、日本は最後まで学校制度を守っていたが、一ヶ月程前ついに日本でも廃止が決定された。

 そして今日、日本で学校制度の廃止を悼むということで、世界から大勢の人々が来日する。各国政府の幹部や世界的に有名だった教育関係者、小金持ちなどなど。会場に来れるだけの財力があれば、一般の人でも参加できる。式は首都圏や地方都市に散在するドームで行われることとなった。




 時刻は八時五十七分。もう少しで式が始まる。ドームのライトは薄暗く落とされ、グラウンドの中央だけが浮かび上がるようにぽっかりと照らされている。

 黒く品の良いスーツを着た黒髪の女の人がその中央の部分に立ち、静かに礼をすると話し始めた。



 「本日は皆様、お集まりいただきまして誠にありがとうございます。それでは失礼ですが、早速式を執り行わさせていただきます」


 どこからか金管楽器の伸びの良い音が鳴り、開式を告げる音楽が鳴り始めた。どこにオーケストラを用意する金があるのかと疑問だが、ファンファーレが鳴り止むことはない。



 「各国の方々からいただいた弔電を出入り口に掲示させていただきます。大変失礼ですが、これを弔辞の紹介と代えさせていただきます」




 女の人は深々と礼をすると、顔を上げて退場しようと後ろを向いた。



 と、その時。



 ドッカーン!! と大きな爆発音のようなものが辺りに轟いた。

 最初はシンとしていた場内が徐々にざわつき始め、ついに叫び声や怒鳴り声が辺りに散らかった。


 どこの国のものとも分からぬ大声や、女の人のものであろう耳をつんざく叫び声。スーツを着た男の人がガタイの良い男たちに囲まれながらドームを後にしたりしている。

 阿鼻叫喚の地獄絵図とはこのことかと、少しぼんやりする頭で考えながら僕もドームから抜け出た。



 出入り口から差し込む明るい光を抜けるとドームの外側に出た。

 ドームの外側も場内もあまり変わりはなく、僕は家に帰ろうと歩き出したのだが、突然後ろから二の腕を掴まれてしまった。

 前進も後退もできずに後ろを振り返ると、やっぱり知らない誰かの顔が目の前にあった。

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