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ナイトメアハザード  作者: せっさ 拓馬
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第44話 思わぬ難関

カプリース号が念物の上空に着いた。

拠点にしては至って静かで何の音沙汰もない。

モニターで周りを検索するも、見えるのはどこまで行っても変化のない茶色の泥の海だ。


「どう見ても敵の拠点とは思えない雰囲気だけどな」

「まだだいぶ離れているからじゃない」


俺と和泉の会話に都リーダーが口を挟んだ。


「とにかくあの卵らしい物体を探しましょう。結論はそれからでもいいわ」


カプリース号はゆっくりと慎重に表面を飛んでいく。

船が進むと風が起こり、泥がさざ波を立てた。

あんまり近づくと何か泥から出てくるんじゃないかという不安に襲われた。


「もう少し上昇しましょう」


都リーダーも同じような心配をしたのだろう。

カプリース号は五十メートルぐらいの高さに上がった。

そのままの高度を維持しながら、しばらく進んだ。


「前に何かあるよ」


急に愛ちゃんの声が響いた。


「船を止めて」


都リーダーの指示の元、カプリース号は上空に静止する。


「どこにあったの?」

「ここから前に5キロぐらいの所かなあ。変な卵みたいのが見えるよ」


言われたところを拡大表示させると、確かに卵にしか見えない例の物体が見える。


「ここからは歩きよ。カプリース号で直接乗り付けるのは、何があるか分からないから様子を見た方がいいわ」


都リーダーはそう言うと、和泉、日向、信濃さん、そして俺の顔を順に見た。


「これからこの泥の上に上陸して。船はあなたたちが降りるまで待機します」


俺たち四人は同時に「了解」と答えた。


「ここはこう見えても拠点よ。くれぐれも油断しないで」

「分かっていますよ。リーダー」


俺たちを代表して信濃さんが答えた。


「それではこの念物の調査に向かいます」


都リーダーは笑顔で俺たちを見送った。



俺たちはカプリーズ号の甲板に集まった。

下を見ると波打った泥の海が広がっている。

深さが分からないので、カプリース号の錨を下ろしてみる。

錨は泥の中に沈んだが、すぐに鎖が緩んだ。

幸いなことに底なし沼というわけではないらしい。

足が届く高さであることを確認すると、甲板から縄ばしごを下ろす。

泥の地表まで足がかりを得たことで、下に降りる準備は整った。


「さてと、取りあえず誰が行くべきか?」


信濃さんが考え込む。


「泥の深さは大したことがないようだ。ここは私の判断だが、武蔵君がいいと思うが」


突然指名された俺は、ちょっと動揺してしまった。


「お、俺ですか? でも、どうして俺なんです?」


青天の霹靂へきれきとはこのことだ。

普通に考えれば経験の少ない俺が最後というのが基本だ。

それともある程度犠牲を覚悟したスケープゴート作戦とか。


「ああ、理由は簡単だ。武蔵君、君は夢を操れる能力者だろう。なら、不慮の事態にあった際にも一番的確に行動できる。ほかの能力では臨機応変に動けないからな」


俺のちょっと疑わしい視線に気付いた信濃さんが説明する。


「た、確かにその通りですけど・・・・・・」


俺は困惑したが、確かに矢を撃つ和泉や、剣を振り回す日向より、俺の方がこういうときは向いているのは分かる。


「納得してくれてよかった。何かあったらすぐ引き上げるから」


俺は腰にロープを巻き付けられ、慎重に縄ばしごを降りていく。

未知の念物で周りに気をつけながら、ぎしぎし動いて思ったよりも緩いハシゴを降りるのは、結構勇気がいる。

上を見ると、不安げにこっちを見る日向と、祈るような目で俺を見つめている和泉の姿が見えた。


泥の表面に足が着ける高さまで降りる。

俺は慎重に右足を下に下ろし、泥に触れる。

泥特有の粘りっこい感覚とじんわりした暖かみが伝わってきた。


よくよく考えればこの泥が、俺たちの世界の泥と同じ成分か確かめるべきだったと、今更ながら気付いた。

もし、有害な成分が混ざっていたら、俺の足はたちまち溶けてしまうかもしれない。


そういう意味ではこの行動は無茶だったが、俺はそれほど意識していなかった。

もし、危険な成分でもすぐに死ぬことはないという安心感があるからだ。

それまでに船に戻ったらいい。

幸い夢幻界では毒や酸は意味をなさない。

意志と気合ですぐに治ってしまうのだから。


幸運にも何事もなく膝あたりまで泥に浸かったところで足が下に着いた。

これといった異常も痛みもない。

この泥は地球の泥とほとんど変わりはないようだ。

俺は安堵のため息をもらし、両手で輪の形を作った。


OKサインを見て、周りから歓声が上がった。


「ホントに大丈夫なの? 異常はない?」


和泉が真剣な表情で問いかけてくる。


「今のところ問題ないみたいだ。普通の泥と変わらないぞ。慣れたらどろっとした感覚が気持ちよくなるかもな」


実際、俺は靴を脱いで直に泥の感触を確かめたい誘惑に駆られた。


「よーし、大丈夫なようだ。次は俺が降りる」


信濃さんが縄ばしごを降り、泥の中に入る。

俺よりもちょっと深く、腰のあたりまで浸かるものの足は立つ。

溺れることはないと確認すると、上にいる二人の名を呼んだ。


続いて日向が降りてきて、調子に乗って勢いよく飛び降りる。

ドボーンと音とともに泥を跳ね上げて、地表に上陸した。


「おーい、和泉、何モタモタしてんだよ」


俺は上から降りてこない和泉に向かって声を掛けた。

袴姿の和泉は慎重にはしごを下りてきた。

袴の先は両足とも袋状にくくられているため、スカートみたいに見えることはない。

もし、見えたりしたら一時の至福と引き換えに、和泉からきついお仕置きは間違いない。


何事もなくうまくいっていると俺は思ったが、思わぬことが起こった。

和泉は泥の中に入った途端、体がずぶりと泥の中に沈んでしまった。

首だけ出した状態のまま、体を必死で動かしている。


「私、動けない」

「ええっ!?」


和泉の袴には泥が絡み付き、身動きができないぐらいになっている。

考えてみれば袴はかなりブカブカで、これ全体に泥がつけば相当重くなるはずだ。


「これじゃまともに戦えないわ。動くことさえできないのよ!」

「待ってろ!」


日向が背中の羽をはばたかせた。

空に浮くと、空中から和泉の両肩をかかえ上げた。


「和泉さんのためならああああああーーーーっ」


日向が気合を込めて、泥の中に埋まりこんでいる和泉を持ち上げた。

ズボボボボとゴボウ抜きで和泉を引き上げ、そのままカプリース号の甲板まで飛んでいった。

何とか甲板の上に和泉を降ろし、日向はハアハア荒い息をついている。


「助かったわ、ありがとう」


和泉の礼を受けて、日向は照れて少しだらしない顔になっていた。

やっぱり俺も空飛べるように少し練習した方がいいな。


とりあえず、俺たちは一度カプリース号に戻った。

和泉が来られないとなるとちょっと問題だ。

戦力ダウンは計り知れない。


かと言って、代わりに戦える人はいないし。

ここはなんとかして、和泉が泥の海を渡る方法を見つけ出すしかない。

服を着替えた俺たちは甲板に円陣を組んで座り、急きょ対策会議を行う羽目になった。


「なあ、何か別な衣装はないのか?」

「別なって、急に言われても」


俺の問いに和泉は当惑している。


「袴姿じゃこの状況じゃ無理だろ。泥がついてもかまわない格好はできないのか?」


和泉は困ってうつむいた。


「私、あんまり想像力が豊かでないから……。だって、そこまで細かく浮かばないし……」

「和泉さんがいつも袴姿なのは、そうだろうとうすうす思ってはいたけど……」


日向がかばうように付け加えた。


「でも、このままじゃ降りられませんよ」


神在月さんが困った顔で言った。

そのまま、みんな押し黙ってしまった。


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