第17話 未知の念物調査
次に俺が船に乗ったのは、三日後のことだった。
睡眠観察室で眠りにつくと、すぐに俺は夢幻界にリンクアップした。
「うわわわわ!」
気がつくと俺の下に床はなかった。
俺の出た場所はカプリース号の上、およそ上空20メートルの高さの場所だ。
そのまま下に落ちていく。
俺はカプリース号の甲板の上に叩き付けられた。
効いたあ~。
現実だったら全身打撲で大けがだ。
下手したら死んでたかもしれない。
夢幻界でよかった。
この世界で落ちたって、大丈夫とは聞いていたけど……。
それでも、下に落ちる感覚は悪夢みたいで嫌だ。
とりあえず、気を取り直していこう。
今日はカプリース号での講義と実技演習だ。
俺は後ろにある提督室に入る。
中の階段を下へ下へと降り、その突き当りのドアを開けた。
カプリース号の船尾は視聴覚室及び作戦会議室になっている。
その前正面はステージ台になっており、そこに巨大な黒板画面があった。
後ろは三人掛け座席を半円状に配置していた。
それが映画館のように段ごとに上まで続いている。
夢幻界に関する情報を発表する場合は、極秘事項につき愛ちゃんの夢の中で行うこと。
このルールがあるため、夢幻界の授業に関しては必ずここで開かれる。
その点をふまえて、この船の中で実践をかねての講義だ。
実技があるせいか、来ていたのは俺と和泉と日向の三人だけだ。
だだっ広い部屋に俺たちだけというのはちょっと寂しい。
すぐに都リーダーと信濃さんが入ってきた。
信濃さんが俺たちがそろっているのを確認して、口を開いた。
「さて、今回の実技演習だが、君たちにはちょっとやってもらいたいことがある」
「えっ、俺の実践訓練じゃないんですか?」
日向が不思議そうに聞き返した。
「斥候部隊から気になる情報が上げられていてな。君たちにはその調査に行ってもらいたい」
「また戦闘になるんじゃないでしょうね?」
和泉が困惑した顔で言う。
「すまんな。どうしても戦える者たちが限られているので、その手の依頼は君たちになってしまう」
和弓使い和泉、ソードマスター日向だからな。
すでに俺たちチーム和泉は、荒事専用の攻撃部隊として扱われているような。
「まあ、まだ戦闘になるとは限らない。調査だけで済めばそれに越したことはない」
そんなこと言って、戦いになることが確実そうだから俺たちに頼んでるんだろうけど。
和泉は何を言っても無駄とあきらめているのか、観念した表情で都リーダーのほうを向いた。
「そういうわけで悪いけど、今回の任務を説明するわね」
都リーダーは黒板画面に向かって意識を集中すると、長細い管のようなイメージが浮かび上がった。
「これが今回の調査によって見つかった念物よ」
形としてはちくわのようだ。真ん中に穴が開いており、それが端っこまでつながってように見える。
「見ての通り、中央は空洞になっているの。この穴の中はまだ誰も入ってない。今回の任務はここを調査し、この念物が危害を加えてくるかどうかを判別することよ」
「そのためにはどうしたらいいんですか?」
和泉の質問に信濃さんはうなずいた。
「方法としては『核』を見つけ出してほしい」
「核ゥ?」
日向が何のことかと聞き返した。
「念物の奥底には『核』と呼ばれるものがある。これは念物を構成するうえでの中心となるもので、これがあるからこそ念物は存在できる。逆に言えば、核が壊されてしまえば、その念物は消滅してしまう」
俺には初めて聞く話だったが、和泉がうなずいているのを見ると、知ってて当然の内容らしい。
「でも問題はその念物が危険かどうかは、核を見つけてみるまでわからない、ということですよね」
「そうだ。害を与えるものでなければいいが、問題は悪意のある念物だった場合だ。この場合は十分な注意が必要だ」
「悪意かァ、『恨みの川』程度ならまだかわいいし、利用価値があるんだけどなあ」
「確かにそうだが、悪意を持つ念物には、それこそ本当に邪悪なものまである。場合によっては核を破壊しなければならないケースもな」
「その決断はどうやって?」
和泉がたずねた。
「俺も同行しよう」
おおっ、今回は信濃さんも参加か。なんか心強い。
「ただ、残念ながら俺の能力は戦闘向きではない。ましてや、このような念物内部では大いに制限される」
「あの、信濃さんの能力って、何なのですか?」
俺の質問に信濃さんはちゅうちょなく答えた。
「俺の能力は『索敵』。敵のいる位置を把握する。ただし、大まかな傾向を伝えるぐらいで、細かい調節はできない。さっきも言ったように念物内ではうまく働かない」
「それでも助かりますよ」
「他に質問は?」
これ以上の質問は出なかったので、信濃さんは解散を告げた。
愛ちゃんの睡眠サイクル後、一度ノンレム睡眠を終えてから、レム睡眠になった時点で俺たちは作戦を開始した。
カプリース号は報告を受けていた斥候部隊の隊員一人を加えて、目的地へと向かった。
この人の記憶をトレースすることで、念物までたどり着けるらしい。
俺にはあまり詳しい経緯は分からないが、指令室と愛ちゃんが連携しているのだろう。
やがて、モニターには都リーダーがイメージした、ちくわ型の念物が見えてきた。
カプリース号は念物のすぐ側まで寄った。
着陸はせずに、上空で停止している。
俺と日向、和泉、信濃さんの四人は、縄ばしごを伝って念物の大地へと降りたった。
砂利が足にまとわりつき、ガシャガシャ音をたてる。
よく見るとガラス玉だった。
「まるでビー玉工場のゴミ捨て場だな」
「気をつけないと、すべって転ぶわよ」
「おっととっとォ」
早速、日向がバランスを崩して倒れそうになっている。
信濃さんが手を伸ばして支えた。
「えらく厄介な所だな」
「気をつけていきましょう」
俺たちは慎重にビー玉平原を歩いた。
それでも幾度もすべって転ぶハメになった。
転んだぐらいでは死ぬことはないからマシだが、ものすごい気が滅入る。
やがて、念物の端までたどり着き、ここから内側はちくわ状の内側に入ることになった。
重力は念物の地面にかかっているので、端からそのまま中の表面にくっついた状態で歩くことが出来た。
ちくわの内側から見ると、穴が円形に空いており、頭上に反対側の上の地面が見えた。
「おもっきりジャンプしたら、反対側に着いたりして」
日向がそう言ったが、信濃さんは首を振った。
「重力が中まで働いているとは限らないぞ。離れたとたんに外に飛ばされることだってあり得る」
それを聞いた日向が身体をブルッと震わせた。
「おぉー怖ッ。変なこと試さない方が良さそうだ」
俺たちはそのまま中へと進んだ。
ここではビー玉はなく、硬い大理石のような地面だ。
そのまま進んでいくと、やがて大理石は水晶のように輝き、様々な光沢を帯びたものに変化していった。
「見てると目がチカチカしてきた」
「夢幻ゴーグルつけた方がいいかも」
和泉の提案で、全員ゴーグルを装備する。
確かに輝きは抑えられたが、辺りが暗くなるのが欠点だ。
やがて周囲は三角形の光沢を帯びた破片が動き、歩くことに景色が変わるように見えだした。
「これってまるで万華鏡を覗いているみたいね」
「そうか、どこかで見たような景色だと思ったら、万華鏡の中か」
「そういやあ、昔作ったよなァ」
「万華鏡をモデルにした念物か。この程度では邪悪なものではないが・・・」
信濃さんが意味ありげにつぶやく。
「やっぱり人の意志が入ったものでしょうか?」
俺の問いに信濃さんはうなずいた。
「おそらくな。だが、人だけとは限らないぞ。人類以外の知的生物のものというのもあり得る」
「ええっ、じゃあ宇宙人?」
驚いた俺の声に他の三人は不思議そうに俺を見た。
「インプなんて化け物が存在する場所で、この世界が人類のイメージした世界じゃないことは明らかじゃない」
「まあ、俺にしてもこんなのが出てくるんだから異世界の住人の世界だとは思っていたけどな」
「夢幻界は人類以外の生命体も存在しうる未知の世界だ。もっともここでは夢魔だがな」
俺以外の他の三人はそれが当然と言わんばかりだ。
「でも改めて考えてみると、これって未知との遭遇ですよ」
「すでにこの世界に足を踏み入れたときから、俺達は異世界に侵入しているということだ。この世界の住人にとっては、俺たちは外部からの異物であり排除すべき存在だろう」
信濃さんが意味ありげに言う。
「さて、仮にここを万華鏡の念物と呼ぶとして、このまま奥まで続いているかどうか?」
俺はこの念物の構造を思い出した。
ちくわのような形なら、必ず反対側に出口があるはずだ。
「ずっと行けば出られると思いますけど、でもこれより先は行き止まりのようです」
万華鏡の奥は光り輝く壁によって遮られており、細かい結晶がまぶしく反射している。
「日向、その剣で叩き切って見ろ」
「わかりました」
日向が腰につけた剣を頭上に掲げ、気合いを入れて振り下ろした。
壁に当たったとたんにガラスの割れたような音がして、目の前の壁が四散した。光のかけらがきらめきながら飛び散っていく。
すべての欠片が地面に落ち、中をうかがってみると、そこには別な空間が広がっていた。
万華鏡の間の先には、広々とした部屋になっていた。
周りには石英が並び立っていて、水晶で出来た鍾乳洞の中といった印象を受けた。
「きれい・・・・・」
和泉がつぶやいた。
「注意しろ! 奥に何かがあるぞ」
信濃さんが鋭い声で警告した。




