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『世界が大変だけど、念のため備えていたら家族と生き残れました ~通信障害から始まる終末サバイバル~』  作者: バックドロップ
第四章 地域共同拠点編

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間話 巣の駆除



 最初の銃声が響いたのは、日の出から間もない時刻だった。


 乾いた破裂音が雑木林の木々へぶつかり、朝靄の残る住宅地へ広がっていく。


「接触! 北側、二!」


 無線から鋭い報告が飛ぶ。


 高橋健吾三等陸曹は、倒れた資材の陰に身体を寄せながら、小銃の照準を林の奥へ向けた。


 茂みが大きく揺れる。


 現れたのは、緑色の小さな人影だった。


 粗末な布を腰へ巻き、石斧を振り上げて走ってくる。


 その後ろにも、もう一体。


「止まれ!」


 高橋が警告する。


「武器を捨てろ!」


 言葉を理解した様子はない。


 二体のゴブリンは甲高い声を上げ、速度を落とさず接近してきた。


「ギャアッ!」


 先頭の個体が石斧を投げる。


 回転しながら飛んできた石斧が、隊員の手前にある木箱へ突き刺さった。


「射撃!」


 短い銃声が重なる。


 二体のゴブリンが地面へ倒れた。


 訓練された隊員と、粗末な武器しか持たない小型の生物。


 正面から戦えば、勝負にはならない。


 だが、高橋は倒れた個体へ近づかなかった。


「周囲を確認しろ!」


 村上義明一等陸曹が声を上げる。


「見えてる奴だけだと思うな!」


 直後。


 高橋たちの頭上を、黒い影が通過した。


 短い矢。


 木箱に当たり、硬い音を立てて弾かれる。


「東側に弓!」


 隊員たちが身を伏せる。


 矢が飛んできた方向へ銃口が向けられるが、茂みの中には何も見えない。


 葉が僅かに揺れただけだった。


「追うな」


 村上が命じる。


「誘われてるぞ」


 茂みの向こうから、ゴブリンの鳴き声が聞こえた。


 ギャッ。


 ギィッ。


 互いの位置を知らせるような、短い声。


「北側二体、排除」


 高橋は無線へ報告する。


「弓を持った個体が東へ移動。追跡せず、予定経路を維持する」


『了解』


 作戦は、巣を二方向から包囲する形で始まっていた。


 西側から高橋たちの班。


 東側から別の班。


 南側には、巣から逃げ出した個体を監視する隊員が配置されている。


 北側は用水路と住宅地。


 完全に囲めているわけではない。


 それでも、無秩序に突入するよりはましだった。


 無人機による事前確認では、少なくとも二十七体。


 小屋や穴の中まで含めれば、三十体を超える可能性がある。


 さらに。


 群れの中心には、通常個体より大きな一体がいた。


「進むぞ」


 高橋は倒れたゴブリンから視線を外す。


 死体の調査は後だ。


 今の目的は巣の制圧と、生存者の救出。


 そのためには、足を止めている余裕はない。



 雑木林の中は、外から想像していた以上に歩きにくかった。


 伸び放題の雑草。


 倒木。


 不法投棄された家電。


 錆びた鉄柵。


 以前、資材置き場として使われていた痕跡も残っている。


 ゴブリンたちは、それらを巣の一部として利用していた。


 廃材を組み合わせた壁。


 木の枝とブルーシートで作られた小屋。


 土を掘って作った穴。


 人間の住宅から持ち去ったと思われる家具や衣服。


「止まれ」


 村上が片手を上げる。


 先頭を歩いていた隊員が足を止めた。


 足元には、枯れ葉が不自然に積み重なっている。


 村上が長い棒で突くと、表面が崩れた。


 下には、浅い穴。


 底には割れたガラスや、先端を削った木の枝が並べられていた。


「落とし穴か」


 高橋が息を吐く。


「人間を殺すほど深くはない」


 村上は穴の中を確認する。


「だが、脚を傷つけて動きを止めるには十分だ」


 高度な罠ではない。


 作りも粗い。


 それでも、偶然できた穴ではなかった。


 獲物が通りそうな場所へ設置され、上から枯れ葉で隠されている。


「こいつら」


 若い隊員が呟く。


「本当に、ただの獣じゃないですね」


「だから厄介なんだ」


 村上が答える。


 穴を避け、進路を変える。


 数メートル進んだところで、別の班から銃声が聞こえた。


『東側、五体と接触!』


『一体が後退! 追跡しません!』


『負傷者一名! 矢が左上腕へ命中!』


 高橋の表情が険しくなる。


「容体は?」


『意識あり! 出血を抑え、後方へ移送します!』


「了解」


 粗末な弓でも、当たりどころが悪ければ人間を殺せる。


 防弾装備は胴体を守れるが、腕や脚、顔までは覆っていない。


「速度を上げ過ぎるな」


 高橋は班員へ伝えた。


「巣が近い。足元と上を同時に見ろ」


 木の上にも、ゴブリンはいた。


 枝へしがみつき、人間が下を通るのを待っている個体。


 穴の陰へ潜む個体。


 死んだふりをして、近づいた相手へ石刃を振るう個体。


 通常の軍事訓練で想定される敵とは違う。


 それでも、隊員たちは一体ずつ確実に対処した。


 姿を確認する。


 武器を持って接近する個体には警告。


 止まらなければ射撃。


 逃げる個体は追わない。


 誰も、倒した数を競うような真似はしなかった。


 必要なのは敵を多く殺すことではない。


 作戦を終え、全員で戻ることだった。



 巣の中心へ近づくにつれ、臭いが強くなった。


 腐った肉。


 排泄物。


 煙。


 血。


 様々な臭いが混ざり、息をするたび喉へまとわりつく。


「ひどいな」


 隊員の一人がマスク越しに呟いた。


 木々が開けた場所へ出る。


 かつての資材置き場だった広場。


 中央には、廃材で組まれた大きな小屋があった。


 周囲には七体ほどのゴブリン。


 人間の包丁。


 鉈。


 金属バット。


 住宅から奪った武器を、それぞれが握っている。


 そして。


 小屋の前に、一体だけ明らかに異なる個体が立っていた。


 身長は百五十センチほど。


 通常のゴブリンより頭二つ以上大きい。


 肩幅は広く、緑色の皮膚の下には太い筋肉が浮かんでいる。


 身体には、人間の作業着を無理やり切り、紐でつないだものを巻いていた。


 胸元には、標識から切り取ったような金属板。


 右手には、大型の鉈。


 首には、人間や動物の歯を通した首飾りが掛けられている。


「対象確認」


 高橋が無線へ告げる。


「大型個体一。通常個体七以上」


『東側班も位置についた』


 二等陸尉の声が返る。


『警告を行う。攻撃があれば排除』


「了解」


 拡声器を持った隊員が、遮蔽物の陰から声を発した。


「武器を捨てろ!」


「我々は日本国自衛隊だ!」


「攻撃をやめ、両手を見える位置へ出せ!」


 通常個体たちが騒ぎ始める。


 言葉を理解している様子はない。


 だが、中央の大型個体だけは違った。


 黄色い目が細くなる。


 高橋たちの姿を一人ずつ確認するように、ゆっくり首を動かした。


「ニンゲン」


 低く濁った声。


 高橋の背中に冷たいものが走る。


 片言ではある。


 だが、確かに日本語だった。


「武器を捨てろ!」


 もう一度警告する。


 大型個体は、口元を歪めた。


「ニンゲン、武器、捨テル」


 自分の鉈を捨てる様子はない。


 左手を上げ、後方の小屋へ短く鳴き声を発した。


「ギャッ!」


 小屋の中から、二体のゴブリンが現れる。


 その間に、一人の女性が引きずり出された。


 両手を縄で縛られている。


 衣服は汚れ、頬には青い痣。


 歩く力も残っていないのか、両脇をゴブリンに抱えられていた。


「人質!」


 隊員たちの銃口が僅かに下がる。


 大型個体は女性の髪をつかみ、自分の前へ立たせた。


「オマエ、武器、捨テル」


「女、残ス」


「男、肉」


 周囲のゴブリンが一斉に笑うような鳴き声を上げた。


「ギィヒッ」


「ギャッ、ギャッ!」


 言葉を話せる。


 だからといって、話し合える相手ではない。


 高橋は銃を向けたまま、大型個体へ呼び掛ける。


「その人を放せ」


「放せば、こちらから攻撃しない」


 完全な約束はできない。


 それでも、人質の命を守るために言葉を重ねる。


 大型個体は、女性の首元へ鉈を当てた。


「女、巣、増ヤス」


「男、肉、ナル」


「ニンゲン、皆、同ジ」


 女性の顔から血の気が引く。


 高橋は歯を食いしばった。


「こいつは交渉してるんじゃない」


 隣の村上が低く言う。


「俺たちが人質を見捨てられないと確かめてる」


 大型個体の視線は、高橋たちだけを見ていなかった。


 時折、左右の茂みへ向く。


 仲間の配置を確認している。


「伏兵が動くぞ」


 村上の言葉と同時に。


 左側の茂みから、複数の矢が放たれた。


「伏せろ!」


 隊員たちが遮蔽物へ身を隠す。


 一本の矢がヘルメットへ当たり、乾いた音を立てて弾かれた。


 通常個体たちが一斉に走り出す。


 鉈。


 包丁。


 石槍。


 人質を盾にしたまま、大型個体は後退を始めた。


「東側班、伏兵を抑えろ!」


『了解!』


 銃声が重なる。


 突進してきたゴブリンが倒れる。


 一体は撃たれても動きを止めず、隊員の脚へ包丁を振り下ろそうとした。


 その前に、村上の射撃が頭部へ命中する。


「近づかせるな!」


 数の差ではない。


 武器と訓練の差は圧倒的だった。


 通常個体は次々に倒れていく。


 しかし、大型個体はそれを見ても動揺しなかった。


 仲間を逃がそうともしていない。


 通常個体を盾として使い、自分だけが小屋の裏へ退こうとしている。


「後ろに逃走路がある!」


 村上が叫ぶ。


「人質ごと連れていく気だ!」


 高橋は照準を合わせる。


 女性の身体が、大型個体の胸元を隠している。


 頭部も、女性のすぐ横。


 少しでも狙いがずれれば、人質へ当たる。


「女、動くな!」


 大型個体が女性の髪を強く引く。


 女性が悲鳴を上げ、身体を反らした。


 その瞬間。


 大型個体の右腕が、人質の身体から僅かに離れた。


 村上が撃った。


 銃弾が大型個体の右肩へ命中する。


「グアアッ!」


 鉈が地面へ落ちる。


 女性の髪をつかんでいた手も緩んだ。


「今だ!」


 高橋が飛び出す。


 別の隊員が援護する中、人質へ駆け寄った。


 女性の腕をつかみ、地面へ伏せさせる。


 大型個体が左手を伸ばし、高橋へ掴みかかろうとした。


 距離は数メートル。


 その黄色い目には、痛みよりも怒りが浮かんでいた。


「ニンゲン!」


 高橋は人質を庇いながら、引き金を引く。


 銃弾が大型個体の胸へ命中する。


 一発。


 二発。


 三発。


 胸へ付けていた金属板が歪み、その隙間から黒い血が噴き出した。


 それでも、大型個体は倒れない。


 大きく口を開き、牙を剥きながら前へ出る。


「ニンゲン、肉!」


 村上の銃声。


 大型個体の右脚が崩れた。


 膝をつき。


 それでも左手を地面へ突き、這って進もうとする。


「動くな!」


 高橋が銃口を向ける。


「これ以上動けば撃つ!」


 大型個体が顔を上げた。


 理解している。


 それでも止まらない。


「御方……」


 先ほどまでとは違う言葉だった。


 敵意ではない。


 祈るような。


 恍惚とした声。


「御方、見テル」


 高橋は引き金から指を離さない。


「御方とは何だ」


「お前たちの指揮官か?」


 大型個体の口元から、血が流れる。


 その顔に、歪んだ笑みが浮かんだ。


「指揮……違ウ」


「王か?」


 高橋が尋ねる。


 すると大型個体は、血を吐きながら笑った。


「王……弱イ」


「御方、王、違ウ」


「御方……我ラノ、始マリ」


 胸の傷から流れる血が、地面を黒く染めていく。


「我ラノ、終ワリ」


「千ノ腹」


「千ノ牙」


「千ノ巣……一ツ、ナル」


 高橋は大型個体の言葉を、一つも聞き逃さないよう意識を集中した。


「その御方は、どこにいる」


「この巣にいるのか?」


「巣……小サイ」


 大型個体は、空を見上げた。


 木々の間から、朝の光が差し込んでいる。


「御方、目覚メル」


「コノ世界ノ……腹ノ中」


「待て」


 大型個体の身体が傾く。


「ほかの巣はどこだ!」


「お前たちは、どこから来た!」


 返事はなかった。


 巨体が地面へ倒れる。


 黄色い目は開いたまま。


 口元には、最後まで笑みが残っていた。


「生命反応なし」


 隊員が慎重に確認する。


 高橋は銃口を下げなかった。


 死んでいる。


 それでも、すぐに近づく気にはなれなかった。


「王ではない」


 村上が呟く。


「御方、か」


「死に際の妄言かもしれません」


 高橋は答えた。


「そうだといいがな」


 村上の表情は険しいままだった。



 巣の中心にいたゴブリンを排除した後も、作戦は続いた。


 一つずつ小屋を確認する。


 穴の中。


 倒れた資材の裏。


 廃棄されたコンテナ。


 動くものがいないか、慎重に調べていく。


 生存していた通常個体の多くは、最後まで武器を捨てなかった。


 一体だけ、武器を持たずに穴の奥へ隠れていた小型個体がいた。


 まだ幼体なのか。


 成人した小柄な個体なのか。


 現場では判断できない。


 攻撃行動を見せなかったため、網と拘束具を使って生け捕りにされた。


 抵抗し、噛みつこうとはしたが、武器を持った成体ほどの力はない。


「研究班へ回す」


 二等陸尉が命じる。


「ただし、接触には十分注意しろ」


「了解」


 巣の奥から、さらに三人の生存者が発見された。


 成人女性が二人。


 十代後半と思われる少年が一人。


 全員、衰弱していた。


 少年は脚を負傷し、粗末な檻へ入れられている。


 女性たちは別の小屋へ閉じ込められていた。


 高橋たちが近づくと、一人の女性は恐怖から悲鳴を上げた。


「自衛隊です!」


「助けに来ました!」


 迷彩服を見ても、すぐには理解できなかったらしい。


 何度も説明し、武器を見えない位置へ下げる。


 ようやく女性は、小さく頷いた。


「もう、あいつらはいないんですか」


「この周辺の個体は排除しました」


 高橋が答える。


「ほかに捕まっている人は?」


 女性の目から涙が流れた。


「男の人たちは……」


 その先を言えず、口元を押さえる。


 巣の別の場所から、人間のものと思われる衣服と骨が見つかっていた。


 詳しい確認は、後の調査になる。


「大きいのが」


 もう一人の女性が、震える声で話し始める。


「あの大きい奴が、命令していました」


「何と?」


「男は殺せって」


 女性の指が震えている。


「女は、生かしておけって」


 高橋はそれ以上、無理に聞かなかった。


「今は安全です」


「後方へ運びます」


 安全。


 そう言い切ることに、僅かな迷いがあった。


 この巣は制圧した。


 だが、周囲に逃げた個体がいる可能性は残っている。


 大型個体が語った「千ノ巣」という言葉もある。


 それでも。


 この瞬間だけは、救出された人々へ安全だと伝えたかった。



 巣の最奥。


 倒れた資材の向こうに、他の場所とは明らかに異なる空間があった。


 小さな洞窟のように地面が掘られ、その奥へ石が積まれている。


 石の上には、食料。


 人間の髪。


 動物の骨。


 錆びた硬貨。


 壊れた携帯電話。


 包丁。


 ゴブリンたちが奪った品々が、規則性を持って並べられていた。


「貯蔵場所ではないな」


 村上が呟く。


 食べられる物と、食べられない物が混ざっている。


 道具として使える物も、壊れた物もある。


 中央には、泥と木材で作られた像が置かれていた。


 ゴブリンに似ている。


 だが、身体の比率は大きく異なる。


 頭部には、角とも冠とも分からない突起。


 口は顔の半分を占めるほど大きい。


 腹部には、無数の線が刻まれている。


 一つ一つが、小さな口のようにも見えた。


「祭壇か」


 高橋が周囲を見回す。


 壁には、同じ印が何度も描かれている。


 大きな円。


 その内側に、無数の牙。


 中心には、黒く塗られた目のような形。


「ゴブリンに信仰があるのか」


 村上の問いに、誰も答えられなかった。


 通常個体が、この像の意味を理解していたのかも分からない。


 大型個体が命令し、形だけ真似させていた可能性もある。


 それでも。


 ただ物を積み上げただけには見えなかった。


 血を塗り。


 獲物から奪った物を供え。


 何かへ向かって頭を下げた跡がある。


「すべて記録する」


 高橋が命じる。


「像と壁画は、可能なら壊さず回収」


「研究班へ連絡します」


 隊員が写真を撮影していく。


 像の足元には、乾いた血で文字のようなものが描かれていた。


 人間の文字ではない。


 ゴブリンが文字を使うという報告も、これまでにはなかった。


「大型個体が書いたのか」


「それとも」


 高橋は、死に際の言葉を思い出す。


 御方。


 我らの始まり。


 我らの終わり。


 この世界の腹の中で目覚める。


「誰かに書かされたのか」


 村上が静かに続けた。



 作戦が終了したのは、正午近くになってからだった。


 確認されたゴブリンの死体、三十一体。


 大型個体、一体。


 生体捕獲、一体。


 救出した住民、四人。


 自衛隊側の負傷者、三人。


 一人は矢による上腕の負傷。


 一人は石刃による脚の裂傷。


 もう一人は、落とし穴を避けた際に足首を捻った。


 死者はいない。


 巣の駆除作戦としては、成功だった。


 だが。


 周辺の足跡を調べた結果、少なくとも五体以上が作戦開始前に巣を離れていたことも判明した。


 昨夜、住宅地やホームセンターへ現れた個体かもしれない。


 別の場所へ移った可能性もある。


「完全な駆除とは言えませんね」


 高橋が二等陸尉へ報告する。


「ああ」


 二等陸尉は地図へ印を付ける。


「だが、巣と指揮個体は排除した」


「周辺の巡回を継続し、残存個体を確認する」


「大型個体の発言は?」


「すべて記録しています」


 高橋は胸元の記録装置へ触れた。


「片言ですが、人間の言葉を理解していました」


「御方という存在について発言しています」


「巣の指揮者ではないのか」


「本人は、王でも指揮者でもないと言っていました」


 死にかけた生物の言葉。


 どこまで信じるべきか分からない。


 それでも、祭壇と像が見つかっている。


「研究部門へ情報を送れ」


 二等陸尉が命じる。


「捕獲個体と遺体、像も回収する」


「了解」


 高橋は、担架で運ばれていく救出者たちを見る。


 助けられた。


 少なくとも、今ここにいる四人は。


 それだけで、この作戦には意味があった。


 しかし、巣の中から見つかったものは、今後の脅威を示している。


 ゴブリンは、ただ地球へ迷い込んだ生物ではない。


 巣を作り。


 人間を襲い。


 上位個体へ従い。


 そして。


 自分たちよりも遥かに大きな何かを、崇めている。


 村上が、大型個体の死体を載せた車両を見つめる。


「一つ、片づいたな」


「はい」


「安心した顔じゃないぞ」


「一つだけですから」


 高橋は祭壇から回収された像を見る。


 無数の牙。


 大きな口。


 腹部に刻まれた、小さな口のような傷。


「こいつらの巣が、本当に一つだけならいいんですが」


 無線機から、新たな報告が流れた。


『本部より各隊へ』


『県西部および北部で、小型人型生物の新たな目撃情報あり』


『複数の集団が、同一方向へ移動している可能性』


 高橋と村上が顔を見合わせる。


「同一方向?」


 高橋は無線機を取る。


「移動先は分かるか」


『現在確認中』


『ただし、いずれも南東方向へ移動しているとの報告あり』


 ゴブリンが散らばっているのではない。


 どこかへ集まり始めている。


 その理由は、まだ分からない。


 死に際の大型個体は言った。


 千の巣が、一つになる。


 高橋は、雑木林の奥へ視線を戻した。


 巣は壊滅した。


 捕らえられていた住民も救出した。


 自衛隊は勝った。


 それでも。


 地面に残された無数の足跡が。


 今回の戦いが終わりではないと、静かに告げていた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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皆さまの反応を参考に、今後の更新ペースや展開も調整していきたいと思っています。

誤字脱字なども気づいた点があれば、遠慮なく教えてください。


これからもよろしくお願いします。

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