第21話 届いた声
翌朝。
藤堂家のリビングには、朝食を終えた八人が集まっていた。
食卓には食べ終えた食器と、誠が昨夜まとめた備蓄一覧のノートが置かれている。
「米……約..キロ。」
「飲料水は二リットルが..本。」
「缶詰が...個。」
「レトルト食品...食。」
誠はゆっくりとページをめくる。
「この人数だと、一か月持つかどうかだな。」
誰も楽観視はしなかった。
人数が増えたことで安心感は生まれた。
しかし、それは同時に消費量も増えたということだった。
その時だった。
ザーッ……
居間の隅に置かれた携帯ラジオから、突然ノイズが小さくなった。
「……!」
全員の視線が一斉にラジオへ向く。
誠がゆっくりと音量を上げた。
そして。
『――こちらは臨時災害放送です。』
機械的な女性アナウンサーの声が部屋へ響いた。
誰も言葉を発しない。
久しぶりに聞く、人の声だった。
『現在、首都圏を中心に大規模な通信障害及び停電が発生しております。』
『埼玉県、東京都、千葉県、神奈川県では物流網に深刻な影響が出ており、一部地域では断水も確認されています。』
『政府は災害対策本部を設置し、自衛隊による災害派遣を開始しました。』
誠が静かに頷く。
「やっぱり国は動いてる。」
真由美も少しだけ安堵した表情を浮かべた。
『現在、自衛隊は首都圏各地で救助活動及び重要施設の警備を実施しています。』
『また、高速道路、主要幹線道路、県境付近では警戒態勢を強化しています。』
由紀が小さく呟く。
「助けは来るのね……。」
『なお、現在も通信障害が断続的に発生しており、被害の全容は把握できておりません。』
『SNS等では様々な情報が拡散されていますが、真偽不明の情報も多く確認されています。』
『冷静な行動をお願いします。』
悠真は思わず息を吐いた。
能力者の話は出ない。
魔獣という言葉も使われない。
政府ですら、まだ正確な状況を把握できていないのだ。
『一部地域では大型野生動物による人的被害も報告されています。』
『現在関係機関が調査中です。』
大型野生動物。
その表現に悠真は苦笑した。
(あれを野生動物って言うのか。)
あの巨大な獣を見た今となっては、とてもそうは思えなかった。
放送は数分で終わり、再びノイズだけが流れ始める。
◇
静寂が部屋を包んだ。
最初に口を開いたのは誠だった。
「助けは来る。」
その一言に、少しだけ空気が和らぐ。
しかし英樹が腕を組んだ。
「問題は、いつ来るかだ。」
その言葉で現実へ引き戻される。
真由美も頷いた。
「病院も機能している所は限られているはず。」
「少なくとも、しばらくは自分たちだけで生活する覚悟が必要ね。」
悠真は備蓄ノートを見ながら言った。
「復旧しないで今のままだと厳しいです。」
「食料も、水も。」
「日用品も足りません。」
「特に燃料ですね。」
「発電機があってもガソリンやオイルが無ければ動きません。」
英樹が頷く。
「建築資材や身を守る最低限の武器も欲しい。」
「この家は守りやすいが、防御はまだ甘い。」
誠が全員を見渡す。
「だったら今日動こう。」
◇
目的地は決まっていた。
悠真が働いていたホームセンター。
「店長や皆んなが気になる。」
悠真が言うと、誠も頷く。
「佐伯さんなら何か知っているかもしれない。」
英樹も賛成した。
「あそこならかなりの資材もある。」
「木材、コンパネ、ロープ。」
「手に入るなら今のうちだ。」
彩乃が立ち上がる。
「私も行く。」
しかし誠は首を横に振った。
「いや。」
「家を守る人も必要だ。」
「もし俺たちが戻れなかったら、この家を頼む。」
彩乃は少し不満そうな顔をしたが、やがて真剣な表情で頷いた。
「……分かった。任せて!」
◇
出発前。
悠真は皆へ今まで気付いたことを話した。
「魔犬は音に敏感です。」
「大きな音には集まってくる可能性があります。」
「レイブンクロウは仲間を呼ぶ習性がある。」
「あとは、夜になると魔獣の動きが活発になります。」
英樹が腕を組む。
「つまり。」
「昼間に動いて、日没までには戻る。」
「そういうことか。」
「はい。」
誠も頷いた。
「無理はしない。」
「助けられる命より、自分たちの命を優先する。」
その言葉に全員が静かに頷いた。
世界はまだ終わっていない。
だが、元通りでもない。
だからこそ。
生き残るための備えを始めなければならなかった。




