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第3章 役立たずの証明

フィアの案内で辿り着いた村は、想像していたよりもずっと小さかった。


粗末な木の柵。

土壁の家々。

そして――どこか沈んだ空気。


「……静かだな」


ルクスが呟くと、フィアは少しだけ表情を曇らせた。


「最近、外に出る人が減ってるんです」


「魔物か」


「はい……」


村の中央へと進むと、数人の村人がこちらを見た。


見慣れない顔に、警戒の色が浮かぶ。


「フィア、その人は?」


年配の男が声をかけてくる。


「旅の魔術師さんです!魔物を……その、なんとかできるかもって」


「……本当か?」


疑うような視線が、ルクスに向けられる。


その目は、王都で何度も見てきたものと同じだった。


(まあ、そうなるよな)


ルクスは肩をすくめた。


「期待しないでくれ。とりあえず、状況だけ聞かせてほしい」


男は少し迷ったが、やがて頷いた。


話は単純だった。


ここ最近、村の周辺に魔物が異常発生している。


特に問題なのは――


「“夜になると必ず現れる”?」


「ああ」


男は深く頷く。


「しかも数が増えてる。昨日は柵を壊されかけた」


「討伐は?」


「やったさ。だが……」


そこで言葉を濁す。


「効かないんだ」


「効かない?」


「傷を負っても、すぐ動く。まるで……」


「痛みを感じてないみたいに?」


ルクスが言うと、男は驚いたように目を見開いた。


「……あんた、見たのか?」


「いや。ただの予想だ」


だが、確信に近かった。


(おそらく――)


「その魔物、“普通じゃない”な」


フィアが不安そうにこちらを見る。


「どういうことですか?」


ルクスは少し考え、言葉を選んだ。


「簡単に言うと、“壊れてる”」


「壊れてる……?」


「本来あるべき性質が、狂ってるってことだ」


痛覚がない。

恐怖がない。

行動が単調。


それは、生物として不自然すぎる。


(誰かがいじったか……それとも)


そこまで考えた時だった。


――ドンッ!!


村の外から、鈍い衝撃音が響いた。


「来たぞ!!」


誰かが叫ぶ。


空気が一気に張り詰めた。


「ルクスさん……!」


フィアが不安そうに袖を掴む。


ルクスは静かに頷いた。


「行こう」


村の柵の前。


そこには、十数体の魔物が集まっていた。


昼間見たグレイウルフに似ているが――


明らかに違う。


目が、濁っている。


動きが、不自然にぎこちない。


そして何より――


「止まらないな」


村人が放った矢が突き刺さっても、まるで気にしていない。


ただ、ひたすらに柵を壊そうとしている。


「これが……」


フィアが息を呑む。


ルクスは一歩前に出た。


(対象:異常個体)


頭の中で、言葉が組み上がる。


(状態確認――)


違和感が、はっきりと形になる。


(やっぱりか)


原因は単純だった。


「“痛覚”と“恐怖”の定義が欠落してる」


つまり――


「壊れてるんじゃない。“消されてる”」


誰かが、意図的に。


「ルクスさん、どうしますか……?」


フィアの声は震えていた。


村人たちも、限界が近い。


柵が軋む音が響く。


(普通に倒しても意味がない)


また来る。

何度でも。


なら――


「元に戻す」


ルクスは、静かに呟いた。


「え?」


「本来の姿に」


そして、手をかざす。


(対象:魔物“グレイウルフ”)


(欠落項目:痛覚、恐怖)


(修正――)


「書き換え」


その瞬間。


空気が、わずかに震えた。


次の瞬間――


「ギャアアアアアッ!?」


一体の魔物が、絶叫した。


矢の刺さった痛みが、一気に戻ったのだ。


他の個体も同様に、動きを乱す。


怯えたように後ずさり、


やがて――


一斉に逃げ出した。


「なっ……!?」


村人たちが、言葉を失う。


たった一瞬だった。


あれほど苦戦していた魔物の群れが、完全に崩壊したのは。


静寂が戻る。


風の音だけが、かすかに響く。


「……終わった、のか?」


誰かが呟く。


ルクスは、ゆっくりと手を下ろした。


「ああ。とりあえずはな」


振り返ると、フィアがこちらを見ていた。


その瞳は――


もう迷いなど一切なく。


ただ一つの感情で満ちていた。


「すごい……」


その一言は、前よりもずっと重かった。


「ルクスさんの魔法……」


「役に立っただろ?」


少しだけ、冗談めかして言う。


するとフィアは、強く頷いた。


「はい!」


その声は、迷いなく、真っ直ぐで。


――村人たちもまた、同じだった。


「助かった……」

「本当に……ありがとう……」


先ほどまでの疑いの目は、もうない。


あるのは――


明確な“評価”。


ルクスはそれを、静かに受け止めた。


(……なるほどな)


王都では“無能”。


だがここでは――


「必要とされる」


その事実に、胸の奥が少しだけ熱くなる。


そして同時に。


(やっぱり、この力――)


ただの“便利な魔法”じゃない。


「世界のルールそのものを、いじれる」


その自覚が、はっきりと形になった。


遠くで、怯えた魔物の鳴き声が消えていく。


その音を聞きながら、ルクスは思った。


「――面白くなってきたな」


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