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最終章 世界に刻む約束

王都。


かつてルクスが追放された場所。


その中心――王立魔術学院の大広間に、彼は立っていた。


ざわめきが広がる。


「……あいつ……」


「本当に戻ってきたのか……?」


かつて彼を“無能”と笑った者たちが、息を呑む。


その視線の先で。


ルクスは、ただ静かに立っていた。


隣には、フィア。


少し緊張した様子で、袖をぎゅっと握っている。


「大丈夫か?」


ルクスが小さく聞くと、フィアは頷いた。


「はい……でも、ちょっとだけ怖いです」


「そりゃそうだ」


軽く笑う。


「でも――」


ルクスは前を見る。


壇上には、学院長と、そして多くの貴族たち。


「今日で、終わらせる」


その声は、静かだったが。


確かに響いた。


「本日は――」


学院長が口を開く。


「辺境の異常事態を解決した功績により、ルクスの再評価を――」


「必要ない」


その言葉が、すべてを止めた。


ざわめきが、一瞬で消える。


学院長が目を見開く。


「……何?」


ルクスは、一歩前に出た。


「評価はいらない」


かつて、欲しかったもの。


認められたかった場所。


だが今は――


「もう、持ってる」


そう言って、隣を見る。


フィアと、目が合う。


彼女は少し驚いて、でもすぐに笑った。


その瞬間。


場の空気が、少しだけ柔らぐ。


「……では、何のために来たのだ」


学院長の問い。


ルクスは、少しだけ考えてから答えた。


「証明しに来た」


「何をだ」


「この力が、“無価値じゃない”ってことを」


ざわめきが戻る。


「今さら何を……」


「もう結果は出てるだろ……」


そんな声が飛び交う中。


ルクスは、静かに手を上げた。


「見せるよ」


その一言で、空気が変わる。


「――書き換え」


その瞬間。


世界が、揺れた。


だが、破壊ではない。


歪みでもない。


優しく、穏やかに。


空間が変わっていく。


「……え?」


誰かが声を漏らす。


次の瞬間――


大広間の天井が、消えた。


いや、消えたのではない。


“夜空に変わった”。


満天の星が、広がる。


ざわめきが、驚きに変わる。


「な……なんだこれは……!」


「幻覚……!?」


違う。


誰もが、本能で理解する。


これは――


“本物”だと。


風が、そっと吹く。


夜の空気。


遠くで、星が流れる。


ルクスは、ゆっくりとフィアの前に立った。


「フィア」


名前を呼ぶ。


彼女は、驚いたまま見上げている。


「はい……」


その声は、少し震えていた。


ルクスは、少しだけ言葉を探した。


いつものように、簡単に“書き換える”ことはできない。


これは――


自分の言葉で伝えなければならないから。


「俺は――」


一度、息を吐く。


「全部を変えることはできない」


フィアが、静かに聞いている。


「でも」


ルクスは、手を差し出した。


「大事なものだけは、守れる」


その言葉に。


フィアの目が、少し潤む。


「お前と過ごす時間も」


「笑ってる顔も」


「全部――」


夜空の星が、ゆっくりと動き始める。


まるで、意思を持っているかのように。


「残したい」


星々が集まり、形を作る。


文字。


光の粒で描かれた、それは――


“結婚しよう”


誰も思いつかない形で。


世界そのものに刻まれた、言葉。


会場が、完全に静まり返る。


フィアは、言葉を失っていた。


涙が、静かにこぼれる。


「……ずるいです」


小さく、笑う。


「こんなの……断れないじゃないですか」


ルクスは少しだけ困ったように笑った。


「断る気、あったのか?」


「……ありません」


即答だった。


涙を拭いながら。


でも、しっかりと前を見て。


「はい」


一歩、近づく。


「喜んで」


その瞬間。


星が、一斉に輝いた。


まるで祝福するかのように。


ざわめきが、歓声へと変わる。


誰もが、理解した。


この力は――


「無能」なんかじゃない。


むしろ。


「――奇跡だ」


誰かが、そう呟いた。


少し離れた場所で。


エリシアは、静かにその光景を見ていた。


「……負けたな」


小さく笑う。


悔しさはある。


でも、それ以上に――


「……よかった」


心から、そう思えた。


星空の下で。


ルクスは、フィアの手を取る。


「これからも、頼む」


「はい」


フィアは、微笑んだ。


「ずっと一緒です」


その言葉に。


ルクスも、静かに頷いた。


世界は、変わらない。


すべてを思い通りにはできない。


けれど。


「――それでもいい」


大事なものが、ここにあるなら。


それでいい。


夜空は、ゆっくりと元に戻っていく。


けれど。


その光景は、誰の心にも残った。


消えない記憶として。


そして――


新しい物語が、ここから始まる。

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