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業務スタンプ


幸いにも依頼品の個数が少なく、精度も求めなかったため、お抱えの鍛冶屋の見習いたちによって作られた『試作品』は翌日の昼には届けられた。

侯爵家からの依頼品ということもあって、急いでくれたのだろう。


そして私が入団して始めての週末には部下たちにより噂を聞いた団長までが動き出した。


「よう、ここにキラキラ王子こと、ヴィルっていう奴がいるって聞いたんだが……」


「王子ではありませんが、何用でしょうか」


「俺は第二騎士団団長のアーサー・ルイスだ。お前の提案の『業務スタンプ』を大量に仕入れたいので業者との仲介を頼んでもいいか」


「……現在は業務中ですので、休み時間でよろしければお話を聞きましょう」


「……トライド室長」


「相手してこいヴィル。だが、納品は俺たちを優先させろ」


「了解しました」


室長の許可がおりてしまったので、渋々計算を中断してルイス団長の話を聞く。



彼の目当ても……私がガイに提供した印刷事業でも使われる『スタンプ』だった。

『経費』や『出張費』など単語を彫られたスタンプは読めれば使うことが出来、さらに一定の美しい字で誤字脱字も防げる。


見習いたちが作ったことにより予定よりも安くすんだそれを届けるとガイたちは大喜びで私に抱きついてきた。

……汗臭さと、想像以上の強い力加減で顔が引きつったのは秘密だ。


そしてそんなスタンプで作られた報告書を見た室長が自分たち用のスタンプを依頼してきたのは今朝の事。

どうやら私がまだ習ってない部分の業務でも『業務スタンプ』は活用できると、室長の眼が狩人のごとくギラリと光っていた。


その後トントン拍子で第二騎士団長にも大口での購入を頼まれた。どうやら彼も、団員の識字率の低さに困っていたようだ。


「ヴィル、お前さっさと注文に行け。今日はそのまま帰っていいぞ」


「……いえ、まだ仕事が」


「一秒でも早く業務スタンプが届く方が有難い。さっさと帰れ」


「……了解であります」


そんなこんなで騎士団に通い出して初の週末、私はお使いからの直帰指示を出された。


カルヴァン殿は騎士団の外までは着いてこなかったけれど

……最後まで何か物言いたげに私をじっと見つめていた。


スタンプの発注は問題なくすんだ。

量が増えたぶん、見習い以外にも作らせることとなったため値段は上がったがそれでも許容範囲内だ。

……むしろスタンプを一般販売したいと頼まれたので、それに関しては兄上に許可を得てからということで話が着いた週末。

てっきりテオリアが来ると思ったが、残念ながら彼は従者教育のためうちには来ず代わりと言ってはなんだが淑女教育の先生と家庭教師の先生が来た。



学園の授業と

淑女教育と

騎士団の業務の三つ巴の地獄のスタートである。



開始前に、スタンプの受注をしておいて良かった。本当に良かった。

……それほど三つ同時進行の日々は地獄だった。


以外にも、三つの中で一番楽なのは……頭を使わないでたんたんと計算をすればいい事務官の仕事だった。


とはいえ、スタンプで第二騎士団の書類改革を行って以来私は色んな人に声をかけられるようになった。


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