101:救出
アンディとの通信を切ってからは、特にすることがないのでひたすら本を読んだ。
運んできてくれた食事も手をつけるのを躊躇ったけれど、わざわざ攫って毒殺させる意味とは? と考えた結果、まあ大丈夫だろうと結論づけ、美味しくいただいた。あ、もちろん、毒が入っていないか魔法で確認はして食べた。
ちゃんと作ってくれているようだ。味もしっかりとしているし、調理人がこの屋敷内にいるのかもしれない。
攫われてから、攫った本人がわたしに接触してこないのが気になる。
普通、なにかしら接触は図るものではないだろうか。なにか目的があってわたしを攫ったのだろうし。
なにかしらのアクションが向こうからあるのなら、それなりに対処するし、なんなら手がかりの一つや二つくらい手に入れてみせるのになあ。
本当になにが目的なんだか……。
食事も着替えも用意してくれている。つまり、わたしをどうにかする気は今のところはないということ。
接触がないということは、わたしがここにいるだけで犯人は目的を達成できているのかもしれない。
わたしがここにいることが目的だとしたら、一体なぜわたしなのか?
考えたところで結局のところ、なんのヒントもないこの状況では謎が増えるばかりだ。考えるだけ無駄なのかもしれない。
それでも、考えることをやめてはいけないと思う。
たとえ考えてもなにもならないとしたとしても、思考を停止させることだけはしてはいけない。常に考えて、最善の行動ができるように準備をしておく──それが今のわたしにできることだ。
そして五日後、わたしは無事に救出された。
いつも通りの時間に起きて、朝ごはんと着替えがいつもよりも遅くて、遅いなと思っていた矢先に、約束通りアンディが迎えにきてくれた。
アンディの顔を見て、すごくホッとして……わたしに駆け寄ったアンディに無言で抱きしめられたとき、わたし助かったんだなって実感をした。そしたらなぜか涙が出てきて、驚いた。
自覚はしていなかったけれど、どうやら誘拐されたことでずっと気を張っていたみたい。だから、アンディに抱きしめられて安心して、気が緩んだんだと思う。涙が止まるまで、アンディは背中をさすってくれた。
わたしが少し落ち着いたところで、移動することになった。
どうやってわたしがここまで移動したきたのか、その手段はわからないけれど、普通に車を使っても三日はかかるような辺地にこの屋敷はあるらしい。
街まで行くのにおよそ車を使って半日。それを考えると……やっぱりわたしは魔法で移動したと考えるのが自然だ。それ以外の移動手段では一日であの屋敷を移動することは不可能だろう。
街の宿に部屋をとってあるようで、一旦はそこに落ち着くことになった。
そして、温かいお茶を飲んで一息ついたところで、アンディが話しかけてきた。
「落ち着いた?」
「ええ、だいぶ。いろいろ迷惑をかけてごめんなさい」
「君は悪いことなんてなにもしていないんだから、謝る必要はないよ。ちゃんと今回は僕の言いつけを守っていたようだし」
今回はを強調し、悪戯な笑みを浮かべたアンディに小さく笑う。
……いつもは守ってないみたいに言わないでくれる?
「それで……今日までのことを聞いても?」
「大丈夫よ。……と言っても、アンディに連絡した以上のことはないけれど……わたしは部屋から一歩も出られなかったし、食事や着替えは決まった時間にオッドアイの女の子が運んでくれた。でも、その女の子とは会話にならなかった」
トイレなんかは部屋に備え付けられていたし、簡易的なシャワーも設置されていた。
ちょっとしたホテルの部屋みたいな感じ。
「向こうに会話をする意思はなかったと。その女の子が誘拐犯……というわけではなさそうなんだね?」
「ええ。明らかに誰かの命令を受けている感じだったわ。教祖様って言っていたけれど……実際は違うかもしれない。直々に命令を受けたとは限らないと思う」
「悪魔教、か……こちらでも調べてはいるけれど、実態は見えない……手強い相手だな……」
そもそも、その悪魔教っていつからある組織なんだろうか。
すごく昔からあるようにも、つい最近できたばかりの組織であるようにも感じる。不思議な組織だ。
「……ジャックさんはなんて言っているの?」
「なにも。彼にとっても予想外な行動だったみたいだよ。あれは本気で驚いていた」
ジャックにとっても予想できなかった行動をした。その意味は……そしてわたしを誘拐し、あっさりと解放した理由はなんだろう……?
「ジャックが君を誘拐したメイドと繋がっているんじゃないかと疑ったけれど……その様子はなさそうだった。僕は今回の件に関しては彼はシロだと思う」
「わたしもそう思う。そもそも、わざわざ危険を冒してまでアンディに接触してきて、そのすぐにあとにわたしを攫うなんて自分を疑ってくださいと言っているようなものだわ。ジャックはそこまで考えなしではないし……あなたの点数を稼ぎたいなら、真っ先にわたしを助けに動くはず」
「そうだね。ジャックは君が誘拐されたと知っても動こうとしなかった。それよりも組織に見つかるリスクを恐れたみたいだ。大人しく家に閉じこもっているよ。もちろん、見張りはつけているけれどね」
それはそうだ。一番疑わしい人物だし、悪魔教の諜報員だって自ら告白したくらいだから。
わたしの話は終わった。次はわたしが質問をする番だ。
「……アンディはどうやってわたしの居場所を突き止めたの?」
そう問うと、アンディは少し顔を固くした。
どうして……?
「君の居場所は……正直に言えば、僕たちだけの力では突き止められなかった。リックも行方不明のままなんだ……」
「え……?」
ヴァーリックが行方不明……?




