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第4.5話:羽休め

「やっぱり、呼び方変えたほうがいいよねぇ?」

 

 オジェロはマイナの切りそろえても溢れ出す豊かな髪を、後ろから櫛で丁寧にすきながら、椅子に座るマイナの言葉に耳を傾けていた。

 心地よい風が窓から入り込む室内で、二人だけの時を過ごしている。マイナの髪をすくのは好きだ。それどころか、目の前に座る愛する女性には何でもしてあげたくなる。愛するがゆえなのか、庇護欲を掻き立てる何かが彼女から出ているのか。不思議に思うが、オジェロにとってはどちらも変わらないことだ。


「このままでもいいんじゃないか?それを咎める人もいないだろう」

「でもこうするのが普通でしょ?常識というか、私は普通にしたいんだよ。普通がいい」


 鼻息を荒くするマイナをかわいいなと頭を撫でる。マイナは異常なほど普通を好む。マイナの人生を考えるとそうなっても仕方ないなと納得はしているし、その願いは叶えてあげているつもりだ。だがマイナの「普通にする」は本人は頑張っているが、あまり上手くいかないようで、その失敗や不器用さもオジェロにとっては好ましい。

 

「もー。オジェロ君にとっても大事なことなんだよ。真剣に考えてよぉ」


 プンプンと頬をふくらませるマイナ。感情表現が増え、表情が豊かになった。

 

「だって、私が恥ずかしい真似をするたび、オジェロ君がバカにされちゃう。私は何を言われても良いけど、オジェロ君が私を選んだことを間違いだったって言われるのは……嫌だよ」


 オジェロはたまらない愛しさが込み上げてきて、破顔しそうになるのを必死に我慢する。


「僕のことをしっかり考えてくれて。ありがとうマイナ。呼び方の話だったね。なら今から練習しておこうか。今は二人きりだ。誰かに聞かれることもないし恥ずかしくないだろう?」

「わ、わかったよ。えっと… その……」


 マイナは口をパクパクさせながら、喉の奥で言葉を絞り出そうとしているが、恥ずかしさゆえか、すっかり顔が真っ赤になった。

 そんなマイナを見てオジェロは辛抱たまらず、後ろから優しく抱きしめる。基礎体温の高いマイナがさらに熱を帯び、オジェロの体を温める。二人の体温は混じり合い、鼓動が重なっていく。この時間がたまらなく好きだ。

 オジェロは顔をマイナの髪に埋め、耳元で囁く。


「愛してるよ。マイナ」


 マイナは体をオジェロに預け、手を遠慮がちにぎゅっと握り返す。


「私も…… 愛してる…… だ……だ……」


激しく打つマイナの心音が、その大きな身体を震わせ、精一杯の勇気となって溢れ出す。



「……旦那様」



 ポン!と羞恥に耐えきれずに、撫でつけたマイナの髪の毛が跳ねる。それは、大きなのんびり屋の鳥が精一杯に羽を広げているかのような、愛らしい跳ね方だった。

 凶鳥と呼ばれ、恐れられた鳥はもういない。


 オジェロの生家の私室に流れるこの風を、マイナも好きになってくれているといいな。

 式を間近に控えたひと時の中で、オジェロは願った。

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