13車中泊(3)
けれど、大倉が彼らにはっきり言ってくれたことで、カナコは胸がすく思いだった。ひとりだったら驚きと恐怖で何も言い返せなかったかもしれない。感謝しかないこの気持ちを、彼に伝えなければ……。
そう思った時、大倉が突然足を止め、カナコの体をぎゅっと抱き寄せる。
「わっ」
「俺に合わせて、いちゃいちゃできる?」
すぐそばで優しく見つめる大倉に言われて、カナコの体がかっと熱くなる。……いや、そうではなく。これは彼に合わせなければいけない、何かがあるはずだ。
「うん」
大倉の言葉に合わせて微笑み返すと、彼の腕がカナコの首に周り、耳元で囁かれた。
「……SANAがこっちにスマホ向けてるんだ。たぶんまだ俺たちのことを疑ってる」
「え……」
カナコの背中に再び悪寒が走る。思わず大倉の腰にしがみついてしまった。
「このまま見せつけるようにして、歩いて行こう。たぶんそれで諦める。俺が振り向いてSANAを注意したら、その様子を撮っていいように切り抜かれそうだから、気づかないフリして」
「わかった」
いちゃいちゃといっても、ただ大倉に身を任せて寄り添っているだけだ。それなのに、Tシャツ越しの彼の体温と息遣いを感じて、カナコの体中が熱くなってくる。
(これは演技なの。庇ってくれている彼に失礼なんだから、何も感じない、感じない……)
心の中で唱えながら大倉にくっつき、数秒後。
「行こうか」
「うん……」
そっと体を離した大倉と手をつなぎ、その場を離れた。
透とSANAが追いかけて来ないことに安心しながら歩みを進めていくと、彼が尋ねてくる。
「カナコ、荷物それだけ? みんなのところに置いてきた物ある?」
「ううん。これだけよ」
「オッケー。じゃあ車に戻ろう」
「え? うん」
何かを取りに戻るのだろうかと思いながら、大倉と一緒に駐車場へ到着する。木陰に停めてある車の横で立ち止まった。
彼は「ちょっと待ってね」と言ってスマホを手にし、誰かに電話をかける。
「あ、お疲れ様です、大倉です。急で申し訳ないんですけど俺、彼女と帰りますんで」
「えっ」
会話の内容に、カナコは声を上げた。
「何か聞かれたら、俺の腹が痛くなったってことにしてください、すみません。クーラーボックスは預かっておいてもらえますか? 中の飲み物は皆さんでどうぞ」
「ちょ、ちょっと……」
慌てて大倉の前に回り込み、彼を見上げる。
彼はカナコの視線に気づくと、大丈夫だよというふうに笑みを見せて、話を続けた。
「それから、インフルエンサーのSANAって女と、その旦那を出禁にしてください。今後の企画であのふたりが来るなら、俺は絶対に参加しませんので……ええ、理由は月曜日に話します。あー……、ですね、察してもらえてありがたいです。じゃあお願いします、すみません、失礼します」
いつもの淡々とした口調で、大倉は通話を終えた。
「そ、そんな……、帰っちゃダメでしょう……! 私は大丈夫だから――」
「いいんだよ。胸クソ悪いあいつらの顔、二度と見たくないんだ。カナコもでしょ?」
「それはそうだけど……」
「そもそも俺は今日仕事じゃないし、来ても来なくてもいいって言われてたんだから、気にしなくていい」
焦るカナコに向けて、大倉が真剣な表情になる。
「……巻き込んじゃって、ごめんなさい」
「謝るのはなし! カナコは何も悪くない! 悪いのはどう見てもあいつら! だからこの後も罪悪感なんて持たなくていい! ……わかった?」
「っ……!」
大倉が言い終わったとたん、カナコの目に涙が溢れ、ぽろぽろと零れた。
「カナコ……」
「ご、ごめんなさい。泣くつもりじゃなかったのに……」
カナコの気持ちを汲んでくれた大倉の言葉が、心に染みていく。彼の優しさが伝わった胸の奥が……切なく痛んだ。
「俺のほうこそ、ごめん。知らなかったとはいえ、ここに誘わなければカナコはイヤな思いをしなかったんだ。誰が来るのかよく調べて、カナコに伝えておけばよかった……」




