030:凜華の悩み
◇2038年12月@福島県郡山市《玉根凜華》
考え無しで無鉄砲なのは、安斎真凛の悪い癖だ。『これは、後で言い聞かせてやらなきゃね』と思いながら、玉根凜華は、ビル街の上空から高度を下げて行く。
先に急降下した真凛の水色に輝く翅は、既に地上付近に到達しようとしている。真凛の翅は凜華よりも小さくて小回りが利く分、機敏な動きには有利なのだ。
一方、凜華の「蛇の目」の翅は大きくて、そんなに急には降りられない。それに、『二人が揃って地上に降りると、却って騒ぎを大きくしかねない』と思い至った凜華は、十階建てのビルの屋上に身を潜めて、そっと下の様子を窺う事にした。
真凛は、地上から五メートルくらいの高さでホバリングしている状態だった。当然ながら周囲は騒然としており、恐慌状態に陥った人達が逃げ惑う姿が見て取れる。
そんな中、真凛の真下には、尻もちをついた女子高生二人がいて、その場から動けないでいた。さっき真凛が「変なのに絡まれてる」って言ってたのは、きっと彼女達に違いない。
ところが、その女子高生達の周囲には未だに不良っぽい男達が残っていて、少し離れた辺りから真凛と彼女達の様子を窺っている。どうせ真凛が立ち去った後に颯爽と現れて、今度こそ何処かに連れ去ろうとしているのが見え見えだ。
その事に真凛も気付いたのか、不良男子達に向かって行く。当然、男達は逃げる。そして何を思ったのか、凜華がいるビルの一階にあるコンビニに駆け込んだ。
当然のように真凛が中に入ろうとした所で、凜華は心話を飛ばした。
〈真凛、もう止めなよ〉
〈何を言ってんの。徹底的に懲らしめてやらなきゃ。てか、凜華もおいでよ〉
〈どうやって?〉
〈今、ビルの屋上でしょう? 光を纏ったままで、ビルの中を一気に下りて来なよ〉
凜華は一瞬だけ考えて、「光のチョウ」に変異した。そして、コンクリートの床の下に身体を沈める姿をイメージする。その直後、身体が一気に沈んで行った。そのままエレベータに乗っている感覚で、ビルの中を突っ切って行く。
気が付くと、一階のコンビニにいた。その瞬間、翅を消すことを忘れない。
真凛もまた自分の翅を消しており、銀色に光る少女の姿で不良男子達に向かい合っていた。凛かは、その横に並ぶ。
不良男子は四人いて、全員が怯えてガクガクと震えている。
〈ねえ、真凛、この後どうするつもり?〉
〈どうしたら良いと思う?〉
〈呆れた。何にも考えてないの?〉
〈だって、変異を解かないと声が出せない訳じゃん。そうかといって変異を解いたら、ただの女子小学生になっちゃう〉
凜華は、溜め息を吐いた。結局、凜華が変わってやるしかないのだ。
次の瞬間、近くの陳列棚がカタカタと震え出した。もちろん、これも凜華の能力のひとつだ。
更に、凜華の髪の毛がシュルシュルと伸びて行って、男達四人の首に絡み付く。すぐに彼らは堪え切れなくなって、次々と床に膝をついてしゃがみ込んだ。その内の二人の股間が濡れているのに気付いた凜華は、『ちょっと、やり過ぎたかも?』と思って、慌てて髪の毛を解いた。それから、真凛に《行くよ》と心話を飛ばすと、一瞬で「光のチョウ」になって天井をすり抜け、ビル内を上昇して行く。
さっきの屋上に戻って下を覗いてみると、問題の女子高生達はいなくなっていた。
〈これで、一件落着だね〉
〈あのさあ、真凛。あんた、もう少し考えてから行動しなよ。それから、あんまり人に迷惑を掛ける事は、やっちゃダメ〉
〈えっ、迷惑? アタシ、お姉さん達を助けたんだよ〉
〈それはまあ、そうなんだけど、いきなり真凛が街中に現れたことで、大騒ぎになっちゃったでしょう? それでケガした人とか、いたんじゃない?〉
〈そんなの、調べてみなきゃ分かんないじゃん〉
〈そういう状態を招いたって事が、良くないって言ってんのっ!〉
思わず、ちょっと強めに言ってしまった。それで真凛が怒ったかと思ったら、何故かニコニコしている。それが何故なのか分からず、凜華は少しだけ困惑した。
★★★
凜華が真凛という少女と知り合って、まだ一週間。だけど、その短い間でも分かった事がある。
安斎真凛という奔放な少女は、あまり後先を考えず思い付きだけで行動する所がある。さっきの場合とかは、その典型だ。
それに真凛には、何故か常識に疎い所があるし、他人に対する配慮が足らない点も気になる。決して悪い子じゃないし、むしろ、素直で純粋な面もあるのだが、如何せん、物事を知らな過ぎる。凜華としては、悪い奴にコロッと騙されちゃいそうで心配だ。
〈でもさあ、さっきのお姉さん達、アタシが出て行かなかったら、実際ヤバかったと思うんだけど〉
〈そうかもしんないけど、高校生を小学生が助けるって時点で、おかしいと思わないの?〉
〈うーん、言われてみると、ちょっと変かも〉
それから凜華は、助けるにしても作戦を考えてから動くように真凛を諭した。
きちんと説明すれば分かってくれるし、割と向上心だってある。それなのに常識が無いという事は、たぶん、ちゃんと教えてもらってきていないんだろう。それは家庭のせいでもあるし、学校での教師や友人との関係とかにも問題がありそうだ。それと、彼女が弱視だった事とかも関係してるのかもしれない。
まあ、学校については、私も色々なトラブルに見舞われた経験があるから、本当は何も言えないんだけどね。
問題は、凜華自身も含めての事だけど、「自分達の立場が、前と今とでは違う」という点だ。今までの真凛だったら、多少やらかしても、そんなに大事にはならなかった筈。「所詮、子供のやった事だから」と見逃してもらえていたに違いない。だけど、特別な「力」を得た今は、それでは済まなくなったと考えるべきだ。
「光のチョウ」の姿で何かをやらかした場合、ちょっとした悪戯が、大きな社会の混乱や騒動に繋がってしまいかねない。そして、それらを社会は、「小学生だから」と見逃してはくれない。この点は、「きちんと真凛に伝えて、ちゃんと理解させておかなきゃ」と思う。
もっとも、どうしたら良いかの答えを、凜華もまた持ち合わせてはいなかった。
当然、小学生の自分達に責任など取れない。だけど、その尻拭いを一方的に親達に背負わせるのもまた、ちょっと違うと凜華は考えていた。
それに、それを親達に背負ってもらうにしても、その場合は、自分が「光のチョウ」に変異できる事を打ち明ける必要がある。だけど、今の彼女は、その事を誰にもまだ話してはいないのだ。
凜華は、年齢の割に聡い子である。それ故に、彼女は色々と余計な事まで考えてしまう。
たぶん、普通の小学六年生であれば、もっと早い時期に両親に打ち明けていた筈だ。だけど彼女は直感的に、「自分の親には話せない」と思ってもいる。と言うのは、「両親が自分の言った事を信じてくれて、それでも、自分を受け入れてくれる」という確信が持てないでいるからだ。
実際、この件は、そんなに簡単じゃないのである。
もちろん、目の前で変異する姿を見せてしまえば、それが事実だと信じざせる事は可能だろう。だけど一方で彼女は、「自分の両親が、自分を化け物と蔑み、自分との親子関係さえ否定されてしまうんじゃないか?」といった懸念を抱いてしまったのだ。つまり、「お前は、俺達の娘じゃない!」と、面と向かって言われてしまう悪夢のような未来を、どうしても彼女は拭い去る事ができないのである。
そんな凜華は、実は意外な人物にカミングアウトを行い、その後、それを突破口に解決の糸口を見出して行く事になるのだが、それらはもう少しだけ後のお話である。
END030
ここまで読んでくださって、どうもありがとうございました。
次話は、「真凛の思い」です。
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