025:夜間飛行
本日の二話目になります。
◇2038年12月@福島県郡山市《玉根凜華》
安斎真凛は、どうしようもなく能天気で、あまり頭の良くなさそうな女子だ。彼女は、玉根凜華が今まで出会った事のない、いや、出会っても絶対に付き合わないタイプだった。
だけど、不思議と嫌いになれない。それは凜華にとっての彼女が、現時点で唯一の「同類」だからといった理由以前に、彼女が素直で純粋で憎めない性格の子だったからだ。
ちなみに凜華は、割と優等生タイプの女子だ。と言っても、それは勉強ができるだけで、身体付きが華奢で小柄な彼女は運動が苦手。その為、女子でも活発な子とは一緒に遊べない。そうかと言って、ゲーム好きの子だとか、刺繍や編み物、裁縫が好きな子とも相容れない。そっちは左手の小指の先が欠損している事で、それらに彼女が消極的な為だ。
そんなこんなで引っ込み思案になった結果、凜華もまた天音や真凛と同様に、友達の少ない女子だった。
さて、現在、凜華と真凛がいるのは、郡山駅西口にあるビックアイ。二十四階建てのノッポなビルだ。そのビルの屋上にいる二人は光の翅を消しており、それでも身体に薄っすらと光を纏ったままの状態で、休憩がてらにお喋りを楽しんでいた。
二人が未だに光りを纏っているのは、この場所がとても寒いからだ。それに、冬の冷たい風が容赦なく襲い掛かってくる。普通だと瞬時に凍えてしまいそうなのに快適でいられるのだから、この不思議な力って本当に凄い。
〈ねえ、今の状態のうちらって、他の人には幽霊だって思われちゃうかもしんないね?〉
〈幽霊かあ。あんまり考えた事なかったなあ……。でも、何で凜華は、そう思ったの?〉
〈ひとつは、見た目かなあ?〉
〈確かに、ぼんやりと光ってるのって、幽霊みたいかもー〉
〈でしょう? それと、いくら薄っすらとでも、光を纏ってると実体が無い訳じゃない?〉
〈うん。だから、壁抜けとかできちゃうんだもんね〉
〈そうそう。で、実体が無いって事イコール幽霊だと思うんだ〉
〈言われてみれば、そうかも-〉
高いビルの屋上に、薄っすらと光る女子二人が静かに佇んでいる絵柄というのは、どう見てもシュールだ。もし気付いた人とかいたら、亡霊の類だとか思われて、騒ぎになっちゃうかも。
ところで、二人のお喋りは、さっきからずっと声による会話ではなくて、心の中で思った言葉が直接、相手の心に伝わる形でのコミュニケーションだ。実は、こうした形での会話をするのは、真凛も初めてとの事だった。彼女だって、自分と同じ存在に出会ったのは初めてなのだから、考えてみれば当然だ。
二人は、この心と心で話す形での会話を「心話」と呼ぶ事にした。最初、凜華は「テレパシー」にしようと言ったのだが、真凛は英語が苦手らしく却下されてしまった。他には「念話」でも良かったんだけど、それも真凛に〈心話の方が分かり易くない?〉と言われて、やはり却下。
その真凛に、〈これから、「心話」が使える子が増えてくれると嬉しいんだけど〉と言うと、何故か真凛はきょとんとした顔をして、〈えっ、何で?〉と言う。
〈何でって、真凛は仲間が増えるのは嫌なの?〉
〈あ、そういう意味じゃなくってさ、これから、どんどんと仲間が増えるに決まってるってのに、「何で?」って思ったんだ〉
今度は、凜華の方が首を傾げる番だった。
〈何で、「増えるに決まってる」って言えるの?〉
〈凜華は、そう思わないの?〉
質問に質問で返されてしまい、凜華は口ごもった。
〈理由は、ちょっと説明し難いんだけどさ、間違いなく増えるって思うんだよね〉
〈そっか。ふふっ、真凛がそう思うんだったら、そうなんだろうね〉
それ以上、やり合っても仕方がないと思った凜華は、真凛の言葉を信じる事にした。そうすると、どんどんと仲間が増えて行く未来が急に本当の事だって思えてきたから不思議だ。
尚、光りを纏った状態だと、この「心話」でしか会話が出来ないようだ。だけど、それは凜華逹にとってはメリットしかない。空を飛んでいる時は、普通の会話だと声が届かないだろうし、今みたいにビルの屋上にいると風の音が煩くて、やっぱり普通の会話は難しいからだ。
〈そういや、真凛って、二本松に住んでるんだよね?〉
〈うん。二本松の岳温泉〉
〈ふーん、岳温泉かあ。良いなあ。私も温泉、入りたーい〉
〈だったら、入る?〉
〈えっ、良いの?〉
〈うん、全然、大丈夫だよ-。アタシなんか、しょっちゅう入ってるんだもん〉
〈へえ、そうなんだ。真凛って、意外とお金持ちとか?〉
〈そうじゃなくってさあ。うちの近くって、露天風呂がいっぱいあるじゃん〉
〈それって、「光のチョウ」の身体になって、お空からお風呂に飛び込んじゃうってこと?〉
〈そんな、飛び込んだりしないってばあ。そーっと入るんだよ〉
〈どっちにしてもタダで入るんだから、同じ事じゃない〉
〈まあね〉
〈呆れた〉
『やっぱり真凛は、とんでもない奴だ!』と思った凜華だったけど、考えてみれば、悪く無いかもしれない。別に万引きとかと違って、温泉だったら、減るもんじゃないし……。
〈分かった。そのアイディア、乗ってあげる〉
〈そんじゃあ、今から行く?〉
〈えっ、今から?〉
〈うん。たぶん、三十分も掛かんない筈だよ-〉
〈そうなの? だったら、行く行く〉
凜華は、一も二もなく真凛の提案に飛び付いた。まだ八時にもなってないから、十時迄には戻って来れる筈だし……。
凜華は、すぐに光を纏って、再び夜空へと飛び立った。その後を真凛が慌てて付いて来る。
〈もう、何で先に行くかなあ? アタシじゃないと、場所が分かんないんじゃないの-?〉
〈最終的にはそうだけど、だいたいの方角くらいは分かるよ〉
〈ふーん、分かるんだ-〉
どうやら真凛は、地理にも疎いようだ。
★★★
岳温泉に行くまでの短い間に、真凛と凜華は、お互いの事を少し話した。
凜華と同様に、彼女もまた学校では浮いていて、イジメられたりもしているらしい。その上、先生までもが意地悪をしてくるって所は、凜華以上に悲惨な状況なのかもしれない。
〈なんか、私の方が恵まれてるみたいだね。私の場合、隣の知行が何だかんだ言って、色々と助けてくれるし……〉
〈ふーん。凛かは、その知行くんが好きなんだね-〉
〈ち、違うってばあ。知行は、弟みたいな奴なんだよ〉
〈ふふっ、弟なんだー。同じ九月生まれって言ってなかったー?〉
〈うん。知行の方が三日早く生まれたんだけど、どう見ても私の方が姉なんだもん〉
〈まあ、男子って、子供っぽいもんねー〉
凜華は、『そう言う真凛だって子供っぽいじゃない』って思ったけど、言わないでおいた。心話でも、思った事の全部が伝わるんじゃなくて、伝えたい事だけが伝わるようだ。
それから、何となく家族の話になったけど、真凛は両親の詳しい事までは話したがらなかった。凜華が分かった事は、温泉街で夜の仕事をしているって事ぐらいだ。
一方の凜華は、真凛に色々と聞かれたせいで、どうでも良い事まで話してしまった。
〈ふーん。銀行員なんて、凄いね-。それに、お給料が良さそう〉
〈うーん、どうなんだろう……。でも、滅茶苦茶に忙しそうだよ。そのせいで、最近は、あんまり親と会ってないんだよね。土日にちょっとだけ顔が見られるって感じ。朝は二人とも慌ただしくて、特に、お母さんは化粧とかで時間が掛かる分、カリカリしてて、まあ血圧が低いのもあるんだけど、とにかく機嫌が悪いの。あ、そういや、お父さんの方だって、二日酔いの時は、もう最悪〉
〈なるほど、色々と大変なんだねー〉
〈まあね……。あ、そんでさ。うちの両親、勤務先は別々の支店だから、それぞれの車で行くんだけど、私はどっちも見送らない……っていうか、知らないうちにいなくなってるって感じかなあ。そんんでもって土曜は休日出勤、日曜はゴルフ接待か寝てるかのどっちかなんだよねえ。ぜんぜん、楽しそうじゃないし、ああ、私、大人になんてなりたくないなあ〉
〈うーん、親と滅多に顔を合わせないってとこは、うちと同じかも。まあ、うちは土日とか関係ないけどさ……あ、見えた。あの光だよー〉
突然、凜華の頭の中に、真凛の弾んだ声が飛び込んできた。
だけど凜華の目には、まだ何も見えていない。
〈えっ、光ってどれ?〉
そこで初めて、凜華の前に真凛が出た。どうやら、視力は真凛の方が良いらしい。
〈ほら、あそこ-!〉
再び真凛に言われて、ようやく凜華も気が付いた。
〈うわあ、綺麗。オレンジ色の光だね。まさに温泉街って感じの光……〉
たぶん、オレンジは街灯の色なんだろう。
その温泉街は、近付くに連れて更に綺麗さを増して行く。
自分が育った街だからか、真凛は誇らしげだ。
〈ほら、あの建物だよ-。裏手に手頃な露天風呂があるんだ。アタシに付いて来てー〉
そう言うと真凛は、大きなホテルの壁を突き抜けて消えてしまう。当然、建物を回り込むと思っていた真凛は、しばらくの間、その建物の手前で呆然と宙に浮かんでいた。
END025
ここまで読んでくださって、どうもありがとうございました。
次話は、「露天風呂」です。
できましたら、この後も、引き続き読んで頂けましたら幸いです。宜しくお願いします。
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★★★
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(ジャンル:パニック)
ハッピーアイランドへようこそ
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