023:三人目の少女(1)
本日の二話目になります。
◇2038年12月@福島県郡山市《安斎真凛》
十二月に入ると中通りでは雪が振り始め、街には徐々に残雪が目に付くようになって行く。そして、クリスマスに向けてのデコレーションで、更に街中がカラフルな色彩に染められた頃、神様からの二つ目のプレゼントが、思いがけない形で安斎真凛に届けられた。
その日、朝から真凛は、何となく妙な胸騒ぎがしていた。自分でも可笑しな話だとは思うけど、何となく「誰かに呼ばれてる感じ」がするのだ。しかも、それは抗い難い感覚で、時間を追う事に強まって行く。
冬休みまで残り一週間と少しという気安さもあって、昼間、真凛は学校に来ていた。
身体に光を纏う事を覚えて以来、真凛は学校に来る日を増やしていた。それは、もはや物理的にイジメられる事が無いと気付いたからだった。
しかし、午後に入るとますます胸騒ぎが強まった事もあり、真凛は早めに帰る事にした。と言っても、授業はちゃんと受けた上で、その後の掃除とかを無視して裏庭で変異、空を飛んでアパートの自室に最速で戻ったのだ。
両親が起き出す前にアパートを出る事にした真凛は、速攻で夕食の準備をした。そして自分は、おやつを兼ねた軽めの物を、お腹に詰め込んでおく。
それから、テーブルの上に『ちょっと外出する事になったから』との書置きを残すと、自分の部屋で変異して、再び空へと舞い上がった。
時刻は、まもなく午後四時になろうといった所。そろそろ、両親が起きても良い頃合いだ。
外は、まだ明るいけど、徐々に薄暗くなりつつあった。そんな昼と夜とがせめぎ合う時に、真凛はひたすら南へと向かう。
何故「南」かと言うと、漠然と呼ばれている方向が「南」だと思ったからだ。
そして、本宮を過ぎて郡山市に入った時だった。突然、女の子の声が頭の中に響いた。
〈な、何なの、この変な感じ?〉
驚きと不安の入り混じった女の子の声。年齢は、たぶん、アタシと一緒ぐらいな気がする。
その声は心の中の奥深くに入り込んできて、真凛をも不安にさせた。
急がなきゃ!
真凛は、水色の翅を勢いよく羽ばたかせると、最速のスピードで声がした方に飛んで行った。
★★★
その子の心は、今もまだ震えている。自分の身体の変化に怯えていて、必死に助けを求めているって感じだ。
その不安には、真凛にも覚えがあった。今から三カ月前、彼女も感じた不安なのだから、知っていて当然だろう。
その時の真凛は、一人だった。その子の場合は、そうじゃない。
真凛は、その子を励ましてあげたいと思った。『大丈夫。ちっとも怖くないよ』って、教えてあげたかった。
たったそれだけの事で、その子は、どれだけ気が楽になることか……。
〈うわあ、手が光ってる!〉
それで、真凛にはピンと来た。いよいよ、始まったんだ。
〈もう、いったい何なのよ、この変な感じ? てか、何で光ってんのよおおおお!〉
その子は切羽詰った感じで叫んでいて、完全にパニック状態のようだ。
真凛は、既に自分が、その子のすぐ近くまで来ているのが分かっていた。だけど、ここは団地で、一軒ずつ調べていては時間が掛かってしまう。
取り敢えず、近くの家の屋根に降り立った真凛は、静かに目を閉じて耳を澄ます。
たぶん、もう少し南の方……。あ、あの緑の屋根の家かも!
間違いない。幾つかの路地を隔てた一軒家から、あの子の気配が漏れている。
真凛は、再び光の翅を羽ばたかせて舞い上がった。
時刻は、もう少しで日没になろうかといった辺り。西の空に傾いた陽の光が、家々の屋根を照らしている。薄っすらと残る雪がキラキラと光って、とても綺麗。
だけど、舞い上がった真凛の姿は、それらに負けず劣らずの強い光を纏っていた。そして、それが眩しいと思った刹那、その大きな光の塊は、とある緑の家の屋根へと吸い込まれて行った。
★★★
その子の部屋の中には、既に淡い光が満ちていた。
その光の中に、真凛の仲間がいた。
初めての仲間は、小柄で華奢な女の子。服装は、暖かそうなウールの膝丈ワンピに黒いタイツ。その彼女の身体は小刻みに震えていて、自分に起きている変化に、ただただ怯えているようだった。
〈誰?〉
ぶしつけに、その子が訊いてきた。
〈真凛だよー。アタシ、安斎真凛っていうのー〉
〈そうじゃなくて、あんた、いったい何者なの?〉
〈えっ?、アタシ? 普通の小学生だけど-。今は小学六年生だよー〉
〈全然、普通じゃないじゃない。普通だったら、いきなり天井から出て来たりしないでしょうがっ!〉
〈うーん、言われてみれば、そうかもー〉
呑気な真凛の間延びした声と、その子のテンパった状態とのギャップが凄い。
その子は既に口を使って話してはいないのだが、その事に本人は気付いていない様子だった。
ちなみに、この時点での真凛は、巨大な光の翅こそ消してはいるものの、未だに薄っすらと光を纏っている。その光を真凛が、ここで完全に手放した。その途端、部屋中に撒き散らされる光の粒と強いミントの香り。そして真凛は、その子の前に素顔を晒した。
アパートの自室から直接に外へ出たから、今の真凛は土足じゃない。服は部屋着にしている黄色のトレーナーの上に、セーターとグレーのパーカー。ボトムは厚手のタイツの上に紺のジャージを履いている。こうやって変異を解いた時の為、ある程度の防寒は必要だ。
「ほらあ、アタシも普通の女の子でしょう?」
その子は、じっと私の顔を見ている。
〈あの、あなたの髪……〉
「そだよー。うちら、一緒だね。ふふっ、これ、生まれつきなんだよー。あんたもでしょう?」〈うん〉
その子の髪の毛は、真凛と同じ淡い茶色。長さは真凛より短めだけど、ふんわりしてて触りたくなっちゃう。
真凛は思わず手を伸ばしてしまい、触ろうとしたけど……、できなかった。既に、その子は光を纏い過ぎていたからだ。
だけど、真凛の口からポロっと言葉が零れ落ちた。
「綺麗……」
その子は、何故か凄く驚いた様子。
〈……そう、なの? 私、そんな事を言われたの、初めてなんだけど〉
「綺麗だよ-」
それに、その子の顔だって、すっごく可愛くて、大好き!
真凛は、本気でそう思っていた。
〈えーと、あなたも、綺麗、だよ〉
突然、褒められた。なんか、とっても嬉しい。頬が赤くなってなければいいけど……。
そこで、その子がまた言葉を発した。ちょっと慌てた感じだった。
〈……髪、だよ〉
「髪?」
〈うん、クルクルで、とても素敵……〉
どうやら、髪だけだったみたい。少し残念だけど、まあ、良いや。そんなことより……。
「もうすぐだよー」
その時には、彼女が身体に纏う光がもうだいぶ強まっていて、顔以外もうほとんど見えなくなっていた。
〈えっ、もうすぐって、何の事?」
「あんたも、さっきのアタシみたいになるの-」
〈えっ、それって、どういう事?〉
穏やかだったその子の声が、またもや刺々しくなった。
「だから、あんたも……、ほらねー」
その子が纏う光が、更に急激に強まって行く。
〈うわああああああああ……〉
その時、その子の絶叫が真凛の脳内で、それはもう強く強く響いたのだった。
END023
ここまで読んでくださって、どうもありがとうございました。
次話は、新しく「光のチョウ」になった子の視点です。
できましたら、この後も、引き続き読んで頂けましたら幸いです。宜しくお願いします。
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★★★
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(ジャンル:パニック)
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